「ちょっと遅れちゃったけど…お誕生日おめでとう!テンゾウさん!」 「あ、ありがとうございます…。」 笑顔全開のイルカさんが僕を祝ってくれている。 食卓の上にはご馳走が一杯だ。僕が好きだって言ったから、胡桃がたっぷり入ったケーキとも並んでいる。 …そして、ものすごく不機嫌な先輩も。 祝ってもらえるのは嬉しいけど!でも…先輩の殺気が鋭すぎて素直に笑えない…! どうしても強張る表情筋を叱咤激励しつつ、なんとかぎこちない笑みをうかべたっていうのに…。 「イルカに祝ってもらってるんだから、お前もっと喜べ。」 平坦な口調にどす黒いチャクラを混ぜて、先輩が僕の足をさりげなく…でもおもいっきり踏みつけてくる。 痛いけど、悲鳴なんてあげたらイルカさんが先輩と喧嘩して…下手したら泣いちゃうかもしれないし…!折角のお祝いの席なのに、イルカさんが悲しむ所なんて見たくない。 だから、僕は…。 「あ…僕、誕生日を祝ってもらったことがないので、ちょっとびっくりしちゃったんです!すみません…!」 とっさにこう言っていた。 これは事実だし。 まあ僕に関しては誕生日って言うのも正確な情報じゃないしね。 いつ、どこで、どうやって自分が生まれたか、僕は知らない。 唯一知っていただろう相手も、もうすでに存在しないし、それ以前に僕の実験データに興味はあっても、それ以外のことなんか興味もなかっただろうし、覚えてもいなかっただろうから。 便宜的に決められたこの日を、わざわざ祝う習慣なんて僕にはなかった。 今年もいつも通り任務中に誕生日を迎えて、それでもちろんすっかりそんな日があるコトも忘れてたのに…こうして祝ってもらえるなんて。 先輩怖さに実感が湧かなかったけど、今更じわじわと喜びがこみ上げてきた。 だって、すごいことだよね。 生まれてきてもよかったって…おめでとうって言ってもらえるってコトは。 …まあ、先輩は…その、殺気全開だけど。イルカさんは心から祝ってくれているから、凄く嬉しい。 「テンゾウさん…。」 え?あれ?何でイルカさんが泣きそうになってるんだ!? わー!?僕はなにしちゃったんだ!?いや、それとも先輩が…!? 「テンゾウ…お前…。」 あ、あれ?先輩もなんか様子が…? 「今日は沢山お祝いしましょう!今までの分も!それに…これからも!今年みたいに任務が入っちゃうこともあるけど、遅くなってもイイから、絶対毎年お祝いしましょうね!」 イルカさんが、笑ってくれた。 何だかそれだけで…ちょっと涙が出そうになった。なんでだろう? それなのに、イルカさんは僕の頭を撫でてくれる。まるで小さな子どもにするみたいに。 …僕、イルカさんと同い年なんだけどなぁ…。って!?その前に先輩が…!? おお慌てて先輩の方に視線を向けると、むっつりとした顔はしてたけど、殺気とかは全然出ていなかった。 「ちっ…いいか?今日だけだからな!お前の、誕生祝いだから!」 先輩まで!?何で僕の頭を撫でるんだろう? イルカさんの優しい撫で方じゃなくて、わしわしと犬を撫でるみたいな撫で方だけど…なんだか胸がふわっと温かくなった気がした。 「ありがとう、ございます…!」 言葉が詰まって、ちょっとだけ涙が出た。 暗部になってから泣くことなんて…先輩のお仕置きとか修行とかの時以外なかったのに。 「あとでプレゼントもありますからね!お祝いのご飯!皆で食べましょう!」 イルカさんがまた僕の頭を撫でてくれて、お皿に料理も盛り付けてくれた。 先輩も…なんだか今日だけは許してくれるみたいで、不機嫌そうだけど殺気とかは向けられないで済んだ。 ご馳走をイルカさんが凄く勧めてくれるから、頑張って沢山食べた。先輩に仕込まれたから普段から料理はするけど、こんな風に手の込んだ料理は休日以外作らない。…でも、イルカさんは一生懸命僕のために、こんなに沢山作ってくれた。 誕生日…今まで特別だなんて思ったこともなかったけど、こうやって祝ってもらえると凄く特別だって感じがする。 なんだか夢みたいだ。 ふわふわした気分のままで、ケーキにろうそくを立てて吹き消すっていうのをやらせてもらって、誕生日の歌をイルカさんが歌ってくれた。 幸せで、幸せすぎて、なんだかちょっと怖いくらいだ。 「誕生日プレゼント!俺からです!」 ケーキを切り分けてもらってから、一緒にイルカさんが可愛らしくラッピングされた箱をプレゼントしてくれた。 「あ、ありがとうございます…!」 そういえばこういうプレゼントも、イルカさん初めてかもしれない。誰かに物をもらうって言っても、支給品がせいぜいだから。以前もらった僕の似顔絵入りの手ぬぐいも題字にとってあるし、イルカさんから貰ったモノはなんでも宝物だ。 中身は、なんだろう? どきどきしながら包み紙を開けた。 そこには…。 「これ、凄く綺麗ですね…!」 僕の手のひらの上で、緑色のガラス玉で出来た木の葉の形の根付がキラキラと輝いている。 「テンゾウさんみたいに上手く術がかけられなかったけど、お守りくらいにはなるってじいちゃ…三代目が!手伝ってもらったから多分大丈夫だと思うんです!」 手のひらから伝わってくるこの温かいチャクラは…イルカさんのものだ。 嬉しくて嬉しくて、僕はその根付をぎゅっと握り締めた。 …んだけど。 「いいなー?イルカ。これ、凄く綺麗だよねぇ?…俺も、欲しいなぁ…?」 あ、やっぱり。そろそろ限界だと思ったんだよね…。 僕が握り締めたはずのキラキラした根付は、先輩の手の中に移っていた。…流石は先輩だ! でも、それはどうしても欲しい…だって、僕の…僕だけのお祝いだから。 イルカさんが僕だけのためにくれた…僕の宝物だから。 ちょっと涙目になりながら先輩の手の中にいってしまった根付を見つめていたら、イルカさんがニコッと笑ってもう1個箱を出してきた。 「えへへ!そういうと思ったから、カカシの分も作ってみたんだ!あ、俺のも練習であんまり上手く出来なかったヤツ!」 僕のみたいにラッピングされてなかったけど、先輩には青い根付、それからちょっとだけ曲がっちゃってる赤いのがイルカさんのなんだろう。 それを見て、先輩がすぐに僕の手のひらに根付を返してくれた。 「ありがとうイルカ!これ、すっごく綺麗!さすがイルカだね!」 うん。これ、凄く綺麗だ。…まるでイルカさんみたいに。 透き通って、キラキラしてる。 「ありがとうございます!僕、大切にします!」 「えへへ!気に入ってもらえて凄く嬉しいです!あ!前俺の誕生日のお祝いに貰ったのも大切に持ってるんですよ!交換こみたいで楽しいです!」 イルカさんが喜んでくれて、先輩も…あれ?先輩…? 「ちっ…折角のおそろいが…!でも、流石に…!」 なんだか葛藤してるみたいだけど…イルカさんが悲しむから!どうかこれのことは諦めてください…!…それに、これだけは誰にも上げたくないんです…! 僕の祈りが届いたのか、先輩は殺気だった視線を一瞬だけ僕に向けたけど、それから不本意そうに、でも大事そうに自分のポーチの中にイルカさんの根付をしまっていた。 一安心、かな? 「あの、今日はありがとうございました!今度、何かお礼をさせてください!」 凄く嬉しかったから、その気持ちを伝えたかったんだけど…。 先輩に、また頭をわしわしされた。 「誕生祝いなんだからおとなしく受け取れ。…これも、一応やる。」 気を遣ってくれたのも嬉しかったんだけど…先輩からモノをもらえるなんて! ラッピングなんかされてないけど、これって…! 「一応業物だ。ま、好きに使えば?」 手渡されたクナイは新品で、でも、刃の鋭さも軽さも持ちやすさも、凄くいいものだってことがすぐに分かった。 先輩も、僕のこと祝ってくれる気があったんだ…! 何だか今日は嬉しすぎて眩暈がする。 「またそんな態度とって!…テンゾウさんの誕生日覚えてたの、カカシなんですよ!照れることないのにね!」 「ええ!?」 思わず驚きを声に出してしまった。 だって、先輩が僕のこと…! 「あー…たまたまだ。たまたま!イルカまでなんて…!ここまで祝ってやる気は…!」 あ、本音も聞こえた。 …でも、これをくれる気はあったんだよね。きっと。 「先輩。ありがとうございます!」 言葉だけじゃ足りないくらいけど、お礼を言った。 今日は、凄くいい日だ。 …明日辺り制裁が加えられるんだとしても。 「おめでとうございます!テンゾウさん!」 「ま、誕生日なんだし、一応祝ってやっただけだけど…おめでとさん。」 「ありがとうございます!」 凄くすごく嬉しくて、幸せな誕生祝いパーティーだったんだけど…。 幸せな気分のままで家に帰って、それから、一人になってしまったことが凄く寂しくなってしまった。 手のひらで輝く根付はうっすらと温かいチャクラを放っていて…僕も、いつか側にいてくれる誰か欲しいなぁと思った。 優しくて温かい、イルカさんみたいな、誰かが。 …因みに今回のお仕置きは、雑巾100枚早縫いだった。怒鳴られることが少なかったから少しは手加減してくれたらしいけど…。 先輩…!僕はこれが任務に役立つなんて思えないんですけど…! 僕は先輩が僕をどういう方向に持っていこうとしているのか、改めて疑問に思ったのだった。 ********************************************************************************* 幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)に続きでございます…。 お誕生日おめでとう遅刻編! …ちょっとだけお祝いだから幸せモード? ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。 |