先輩11 -五月の節句-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

「今日はテンゾウさんとお祝いしようと思ってたから!」
ああ!?言っちゃったよ!?
その時の先輩の顔を、僕は今でも忘れることが出来ない。
****
その日は先輩が任務でいなくて、でも僕は任務がなくて。
しばらく長期任務もなさそうだから食糧でも仕入れてこようと思って買い物に出たんだ。
ちょっと前まで任務に出てたから、携帯食とか兵糧丸とか…とにかくろくなモノを口にしなかった。
久しぶりにちゃんとした食事が食べたくて、商店街で旬の野菜とか色々見てたんだ。
…そこで偶然買い物中のイルカさんをみかけた。
逃げようかどうしようか買い物袋片手に迷ってる間に、イルカさんに気付かれてしまって、笑顔で手を振りながら近づいてきて…。
「テンゾウさん!」
…名前、呼ばれちゃった…!
今更逃げても返って失礼だし、泣いちゃったりしたら先輩に半殺しにされるかも!?
相変わらず可愛らしくて明るい挨拶。こっちまでホワンと和む。…まあ、その可愛らしさに惹かれてちょっとでも接触時間を長くしようものなら先輩の血も凍るような制裁がまってるんだけど。
ココはあきらめて挨拶だけしてさりげなく逃げようと思ってた。最初は。
…まあそんなに上手く行かなかったんだけどね…。
「こ、こんにちは!」
イルカさんの様子をさりげなく伺うと新聞紙に包まれた長い物を持っていた。…匂いからして多分、菖蒲だ。
何だか分からないけど、他に買ってるものもなさそうだし、どうしたんだろう?これから買い物するのかな?
不思議に思ってたら、イルカさんが僕の袖を引っぱって、うれしそうに笑った。
息が止まるかと思うくらい明るく、惹き付けられる笑顔。
でも、その中身は…。
「丁度良かった!柏餅買おうか迷ってたんです!…もし良かったら今日一緒にお祝いしませんか?」
「え?えーっと?」
柏餅は知ってる。確か…柏の葉っぱの間に餅みたいなのが挟まれてるヤツだ。
それでこどもの日に…ああそうか!そういえば今日はこどもの日!
こんな日に任務が入った上に、大切なイルカさんを連れて行けるような内容じゃなかったからあんなに殺気立ってたのか…!
通りすがりに「ああもう最悪!」だの「ウザイ!」だのブツブツ言ってたし…極めつけは出立前に「邪魔!」っていきなり足踏まれたし。
そりゃ、お祝いしたいよね?イルカさんそういうの好きそうだし。
「テンゾウさん?」
「あ、はい!僕でよかったらお手伝いします!」
「よかったぁ!…一人だと買い物行ってもつまらないし…。」
本当に嬉しそうなイルカさんに、僕も何だかふわふわした気分になったけど…よく考えるまでもなく、コレは確実に先輩の逆鱗に触れる…!
「あ、あの!」
「やっぱり散らし寿司かなぁ?」
…嬉しそうに献立考えてくれてる。
僕は、イルカさんを悲しませるのが怖くて、断ることが出来なかった…。
*****
イルカさんに手を引かれるままに一緒に柏餅を買いに行って、粽も買って、ついでに一緒に下ごしらえして、散らし寿司のポイントなんかを教えてもらいながらご飯仕度した。
「お風呂も入ってて下さい!今日は菖蒲湯だし!」
「菖蒲湯?」
やっぱりさっき買ってたの菖蒲だったんだ!でも…菖蒲湯ってなんだろう?
でもその前に…!一緒にお風呂!?…今すぐにでもココを出ないとまずいんじゃないだろうか!?
そう思っていた矢先…。
「どういうつもり?っていうか、何様?」
気配さえなく、一瞬にして僕の背後を取った先輩が、恐ろしい気配を纏いながら僕を見下ろしていた。
「え、えーっと。その、あの…!」
言葉が出てこない。
殺気だった先輩から放たれるチャクラのせいで、ちょっと呼吸さえ苦しくなってきた。
…凄い威圧感だ…!
「カカシ!よかったぁ!間に合ったんだ!」
はしゃぐイルカさんはとってもかわいかったんだけど…背後のプレッシャーで「間に合ってよかったですね!」の一言さえでてこない。
「うん!だって…今日みたいな日にお祝い出来ないの、イヤでしょ?」
いつの間にかイルカさんをぎゅっと抱きしめた先輩が、甘い声でイルカさんに囁いている。
離れてた期間が長かったもんな…。僕は一旦帰ってこれたけど、先輩はそのまま次の任務に着いたから…。
…なんだか胸がぎゅうぎゅうするのは感動したせいだと思いたかった。
「うん…!でも…。」
嬉しさのせいかにじんだ涙をごしごしと乱暴に拭ったイルカさんが言おうとしているのは…!
わー!?イルカさん!その先は…先輩だって分かってるだろうけど言っちゃダメです!
…まあ、そんな僕の心の叫びは、当然イルカさんに届かなかったんだけど。
「今日はテンゾウさんとお祝いしようと思って!」
ああ!?言っちゃったよ!?
その時の先輩の顔と言ったら…!
どす黒いチャクラを撒き散らしながら、イルカさんにだけ笑顔を、僕には殺気に満ち満ちた悪意タップリの視線を向けて見せたのだ。
…終わった。僕はもう…終わりだ…!
意識が遠のきそうになった僕に、イルカさんがにっこり笑って言ってくれなかったら、僕の想像通りになっていたと思う。
「だってね!テンゾウさんがいなかったら、柏餅買おうかどうかも迷ってたし、お祝いの準備もしなかったと思うんだ!菖蒲湯だけはやりたかったから買ったけどさ。…カカシと一緒に…皆でお祝いできて嬉しい!」
「イ、イルカ…!!!」
「わっ!重いよ!…ねぇ!食べよう!」
「そうだよね!」
イルカさんを抱きしめた先輩はものすごく蕩けた表情で、嬉しそうにしている。
殺気が霧散し、変わりに甘い雰囲気が漂って…。
…今更だけど、この際このまま逃げた方がいいんじゃないだろうか?
そう思って焦るのに、僕の身体はちっとも動いてくれなかった。
「テンゾウ。どこ行くんだ?皆でお祝いだぞ…?」
怒ってる!怒ってるよ先輩…っ!
動けないのって…術のせいか!?
その後、笑顔で怒っている先輩に耐えながら、夕食を済ませるはめになった…。
*****
「菖蒲湯!皆で入ろうよ!」
菖蒲湯…僕が片づけしてる間にイルカさんがお風呂の仕度してたから、やっぱり菖蒲湯って言うのは風呂に入れるみたいだ。
そんなことより、皆でって単語の方が気になる。
イルカさんと先輩…の意味ならいいんだけど、さっきも「お祝いって、人が一杯いたほうが楽しいね!」とか、「テンゾウさんとお祝いできて嬉しいです!」とか沢山言ってくれて、そのたびに先輩の恐ろしい殺気とちょっとした嫌がらせ(ものすごい速さで足を踏むとかいろいろ…)に耐える羽目になった身としては、これ以上刺激したくない。
「あの。僕これから任務があるので…。」
本当はそんな物ないけど、先輩にこれ以上殺気をぶつけられたら僕がもたない。
それに、イルカさんだって…先輩と一緒にいたいんだろうし…。
そう思って身を引こうとしたら、イルカさんが慌てた様子で新聞紙で包んだ菖蒲を持って来てくれた。
「それなら…!コレだけでも持って返ってください!今日菖蒲湯に入ると、1年健康でいられるっていうから…!」
「あ、ありがとうございます…!」
そうやって、僕のことも心配してくれるイルカさんの気持ちが嬉しくて、持って帰る気まんまんだったんだけど…。
「…テンゾウ?どこ行く気だ…?」
「いえその!ちょっと任務…!」
なんで止めるんですか先輩…!イルカさんだって任務なら平気のはずなのに…!
そう思ってイルカさんに視線を移すと、ちょっとしょんぼりしてるのが目に入った。
明るそうに振舞ってたけど…我慢してたんだ…!
「テンゾウさん…。皆一緒で…何だか懐かしいなって思ってたのに…でも、任務なら…。」
…そっか。そういえばイルカさんには家族がいたんだっけ。急になくした家族が戻ってきたみたいに思ってくれてたのかな…。
こんなにしょんぼりされちゃってるのに…帰れないよ!
「あの!す、すぐっていうわけじゃないので、ちょこっとだけ一緒に入らせて下さい!」
そういったら、イルカさんが花が咲いたみたいに笑ったので、僕はすごく胸が温かくなった。
僕に家族という物がいたコトはないけど、もしいたんならこういう感じなのかもしれない。
「ふうん?」
さ、殺気が…!…でも、先輩が最初に止めたんじゃないですか…っ!
まあ、そういうわけで、僕は先輩とイルカさんと一緒にお風呂に入るコトになったんだけど。
「見るなよ。絶対に。…見たら、ころす。」
本気だよ!
…っていうか、さっきから身体の自由が利かないんだけど…!
もしかしなくても俺に術かけてますね!?先輩…!
「テンゾウさん!ほら!さっきの菖蒲!いい香り!」
せ、背中にちくちく当たってるけど!コレ、もしかしなくても菖蒲かなぁ!?
…もしほんとに任務だったらこんなににおいの強いモノはダメなんだけど…!
とまあ、殺気だった先輩とはしゃぐイルカさんに挟まれて、僕はとっても落ち着かないバスタイムを過ごすコトになった。
最終的に、「そろそろコイツ任務だし、のぼせそうだから」って先輩が言ったと思ったら、勝手に僕の身体が動いて強制退去させられたし…。

まあ、イルカさんが楽しそうだったからいいんだけどね…。


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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)の続きでございます…。
五月の節句すら命がけなテンゾウたん。
いずれ最愛の人というか…ヘソだしKYストーカーに幸せにしてもらえることでしょう!←適当。
ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。

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