先輩10 -守りたいもの-(ヤマト視点幼馴染カカイル夫夫)

ああ…苦しいな…。
「投与量はコレで…」
「データを見る限り反応はいいな。これなら使えるだろう。次は…これか…。」
「あの、主任!流石に多すぎないですか?いくら暗部でも…まだ子どもだ!もう、中止すべきです!」
「連続投与試験だ。ココで止めればデータが欠ける。」
「でもこの被験者の状態では…!危険です!」
「どうせ実験体だ。…裏切り者のな。」
「そんな!待ってください!」
「黙れ!いいから用意しろ!」
ああそうか。だからか…。
分かってたけどね。アレのせいでたくさんの人が犠牲になった。恨んでる人もいるし、過去の罪の象徴みたいに思われることもあった。
息が、できない。…僕はもうだめなのかな…。
でも、あそこから外に出られただけでも、良かったかもしれない。先輩に、イルカさんにあえた。
…仲間…僕は里の人は皆仲間だと思ってたんだけどな…。
視界が白く染まっていって、だんだん苦しいのも分からなくなって…。
ああ、これならいいかもしれない。きっともう怖いこともなくなる。
何だかふわふわして、気持ちよくて思わず微笑んだら、誰かが僕の腕をつかんだ。
「暗部…!」
「おい!何をする!」
「お前たち…俺の部下に何をした!」
ああ、今僕かついでるのって、先輩か。
…先輩、怒ってる。…ああ、止めないと…。でも、どうして?
「それは実験体だ!新薬のデータがないとお前たちも困るんだぞ!」
「へぇ?だからって任務だって騙して俺の部下こんな目にあわせたわけ?」
任務…そうだ、任務って言われたんだ…。だから…昔みたいにこんな目にあって、もう僕のこと要らなくなったのかなって思ってたのに…。
そっか…違ったんだ…!
先輩の腕が僕を僕を守るみたいに抱きしめてくれてて、それが嬉しくて、僕は力が抜けた身体でそれに縋りついた。
「…主任!?許可は取ってあると…!?まさかそんな…!?」
「黙れ!我々の実験の邪魔はさせない!」
「アンタ、どうなるか分かる?」
「ひっ!近寄るな!」
「火影様もねぇ。ご立腹だよ?」
「来るな!ひぃっ!」
体が揺れて、悲鳴と何かが割れる音が聞こえる。
先輩、僕のために怒ってくれたんだ…。僕は…それだけでもう…。
イルカさんが悲しまないように、先輩が悲しまないようにしたいけど、もう、無理みたいだから。
…いらない子じゃなくて良かった。
「待ってください!その人に投与されたものを中和します!」
冷たい手。だれだろう?
「貴様!裏切るのか!」
「黙れ下種が!」
「ぐああぁ!」
「早くして。」
「はい!」
痛っ!…針?ああ…もう、目を開けていられない…。
「テンゾウ!こんなことでやられるんじゃない!…生きろ!」
こんなに真剣な先輩の声って珍しいなぁ…。
でも、温かくて安心する…。
そんなコトを思いながら、僕の意識は暖かい闇に落ちていった。
*****
「テンゾウさん!」
「え!?イ、イルカさん!?」
どうして!?僕ひょっとして地雷原で寝込んでた!?
慌てて起き上がろうとしたのに、僕の身体は思うように動いてくれなくて、イルカさんにしがみ付く みたいに倒れ込んでしまった。
「駄目です!まだ動いちゃ!大変な目に合ったんだって…!お医者さんが言ってました!」
温かい腕で優しく僕を抱きとめてくれたイルカさんが、そっと僕をベッドに横たえてくれた。それがとっても気持ち よくて安心できたんだけど…。
天井もカーテンも白くて、もしかしなくてもここは…。
「え、あ…ここ、病院…!」
「入院してるんです!ちゃんと寝てなきゃ!今カカシが、テンゾウさんに酷い目にあわせた敵をやっつけてますから!」
「あ、はい…。」
敵…?内部以外につながってる敵がいたんだろうか?
それに僕、どうして助かったんだろう?明らかに呼吸器系に異常が出てたし、もう駄目だと思ったのに。
きょときょとしてたら、イルカさんがにっこり笑って頭をなでてくれた。
「起きたら物食べさせていいってお医者さんが言ってたから、持ってきたんです!テンゾウさん、りんご食べられますか?」
「あ、はい!」
「じゃあちょっとまってください!」
するするとりんごの皮を剥くイルカさんは、真剣な表情をしてて何だか嬉しくなる。
それに、さっき抱きついちゃった…!温かくて何だか安心できるあの手…先輩だけの…。
ああでも…ばれたらきっと先輩に…!
…でも、今だけならいいよね…?ちょっとだけだから…!
「はい!ウサギりんご!」
「あ、かわいい!…すごいですね!」
「えへへ!カカシが怪我したときとか風邪の時とかにコレ作ると良く食べてくれるから!」
…先輩…またそうやって甘えてましたね…!でもまあ分かるけど。だってイルカさんが一生懸命に剥いてくれた りんごってだけでもおいしく感じられるもんね。
いいなぁ…。
「頂きます。」
「はいどうぞ!」
イルカさんがりんごを1個フォークで刺して渡してくれた。
ちょっと震える手で一口齧ったら、爽やかなりんごの香りと、甘い果汁が広がって何だか急に実感できた。
僕は、生きてる。
にこにこ笑ってるイルカさんが、僕がりんごを食べてるのを嬉しそうに見てくれてる。
ここが、僕の…。
「イルカさんありがとうございました。」
「どういたしまして!あ、カカシ!」
「え!?」
僕が背後を振り返ると、窓から気配もなく先輩が入ってくるところだった。
もしかして…今の見られた…!?
僕が制裁を恐れて固まってる間に、先輩はしっかり戸締りして、面も外した。
「イルカ。ゴメンネ?ちょっと…任務のことでテンゾウに話があるから、出ててもらってもいい?」
「うん!…でも、無理させちゃ駄目だからね!」
「大丈夫。気をつけるから。」
先輩の言われて、心配そうにイルカさんが部屋から出ていった。
相変わらずイルカさんにはやさしいよね…先輩。
大丈夫。覚悟は決まってる。身体はガタガタだけど、多分修行は無理でも、ちょっと怒られるくらいなら大丈夫だ!怖くない…怖くなんかないぞ!
ああでも、任務に失敗したことになるのかな…?それにイルカさんの絶対見られて…!どうしよう…!?
僕は、必死に自己暗示をかけながら、一応身体を起こして先輩に向き直った。
…それでも自分を誤魔化しきれなくてちょっと怯えてたら、いきなり頭を鷲掴みにされた。
「ひ…っ!」
殺気は感じ取れないけどやっぱり…怖い!
思わず短い悲鳴をあげた僕の頭を、先輩がなでてくれた。
「え…?」
なんだろうこの状況!?新しい術!?それともまだ薬が抜けてなくて幻覚が…!?
普段なら絶対にありえない状況に怯える僕を包み込むように、温かい腕がのばされて…。
「よく、がんばったな。」
今、僕先輩に慰められてる…!温かくてぎゅってされてて…さっきイルカさんにされたみたいに優しくなくて、 力いっぱいぎゅって。ちょっと痛いくらい。
それで何だか急に、安堵感が競りあがってきて…。
…ああ、僕、生きてるんだ。
ここに、先輩とイルカさんがいる所に戻ってこれたんだ。
「泣くな。」
「はい…はい…っ!」
「大丈夫だ。あいつ等全部…全部片付けたからな…?俺の部下は、もう二度とこんな目にあわせない。」
まるで自分に誓うみたいな言葉。やっぱり、さすが先輩だ。
僕もいつか強くなる!…この人たちを守れるくらいに。
そう誓って、でも涙が止まらなくて、先輩に縋るみたいにしてぐずぐず言ってたら、乱暴に頭をぐりぐりなでられて、 何だか凄くホッとした。
そしたらちょっと恥ずかしくなって、先輩の腕からちょっとずつ逃げようとしたけど、先輩が離してくれない。
僕も何だか離れるのがイヤで、なんとなくそのままくっ付いてたんだけど…。
「ねぇカカシそろそろご飯…。あー!?テンゾウさん泣いてる!カカシ!具合悪い人虐めちゃだめ!」
イルカさんだ!そっか。もしかしてもうそろそろ食事の時間なのかな?
手に持ってるの、病院の食事みたいだから、僕のを取ってきてくれたのかもしれない。
でも、何だかすごい勘違いされてる。
「虐めてないよ!」
誤解されたのがショックだったんだろう。先輩はさっさと僕を解放して、イルカさんのところにまっしぐらだ。
このままじゃいけない!だって、先輩が誤解されたままになっちゃう…!
「そうです!イルカさん!先輩は…その、僕のヘマを慰めてくれてただけで…!」
そう。僕はあんなに早く諦める前に、異常に気付くべきだった。
諦める前に仲間を呼んだり、…せめて抵抗位すべきだったんだ。
苦しさから開放されたくて、安易に現状を受け入れた僕は、本当なら先輩に怒られても仕方ない。
だって、…誰よりも仲間を信用してなかったのは僕だから…。
僕の必死さに、イルカさんも安心したみたいだ。
「本当?…ゴメンネカカシ。疑って…。」
ちょっと驚いた顔してるけど、先輩に謝ってる。
…こういうちゃんと謝れるってところ、僕も見習わないといけないよね!
「ん。大丈夫だよ?」
先輩も嬉しそうにイルカさんのこと抱き寄せてるし、これで、一安心だ。
ホッとしたせいなのか、何だか胸がちょっとだけぎゅっとしたけど。
「ふう…」
ホッと一息ついてたら、ベッドサイドに僕の食事らしいご飯が乗ったトレイを置いて、イルカさんがもう一度僕の頭を撫でて、ティッシュで顔も拭いてくれた。
わー…ホントにもう何やってんだ僕は!
今日は先輩とイルカさんに甘えてばっかりだよ…。
そんな風にしてしょぼくれる僕に、イルカさんがご飯を差し出しながら、爆弾発言をしてくれた。
「落ち込んだ時はちゃんと食べないと!りんごもっと剥きます!」
わー!?そんなコト言ったら…いくら今日は特別だっていってもきっと…!
「え?りんご剥いてやったの?コイツに?」
ホラ!やっぱり!いつもより穏やかだけどもう殺気でてるし!視線とか怖いですから!
それなのに…イルカさんは笑顔でダメ押しを…!
「うん!だってウサギりんごは元気が出るんでしょう?」
「…テンゾウ。」
「…はい…」
うん。そうだよね。こうなるよね。
怒ってる…怒ってるよ先輩…!!!
「退院したら…修行みてやる。」
「…はい…。」
きっと今度は術だけじゃなくて、また布団の打ち直し方とかまで教えられちゃうんだ…!!!
…僕は修行の恐ろしさに怯えながら…。

でも…戻ってきたいつもの状況にちょっとホッとしたのだった。

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幼馴染で夫夫扱いになってる(イルカはおそらく良く分かってない。)カカイルと、 少年なテンゾウ(チョイ馬鹿)に続きでございます…。
カカチは部下を大事に思ってます。尋常でなく嫉妬深いけど!!!
で、イルカちゃんはその優しさがテンゾウたんを追い詰めていることに気付かないという…。
テンゾウたんが頑張ったのでちょっとだけ…いい目を見せてみました!
ご意見ご感想など、お気軽にどうぞ…。

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