責任(適当)



「イ、イルカ先生のバカー!えっちスケッチサンドイッチー!」
ちっとも忍べていない大声で叫びながら走り去っていく上忍を、周囲の人間は呆然と見送っている。
受付所は常ながら騒々しい所だが、あの人の行動はそれでも目を引いた。
当然だ。
受付の平凡な中忍相手に意味不明の罵倒を投げかけた上に、泣きながら逃げる上忍なんて、木の葉広しといえど、一人しかいない。
「…お、おい。イルカ。なにやっちゃったんだよ…!」
そうだな。それは当然の疑問だろう。
上忍が。それも凄腕で一応は木の葉の業師とかなんとか色々二つ名もあり、他国の手配帖にもしっかりはっきり載ってるような忍がするような真似じゃないもんなぁ。
それに普段はそこそこ冷静沈着で仲間思いって評判の人だ。
大声を出すこと自体まれだってのに、それに聞き馴染みしない罵倒までセットなら、周囲が驚くのも、俺に原因があると思うのも当たり前なわけで。
「ちょーっとなー…」
まあうん。多分俺が悪い。それは流石に認めざるを得ない。
でもだな。大声で騒いだら自分のほうが辛くなると思うんだが。
「ちょっとってなんだよ!あやまってこいよ!っつーかどうすんだよこの混乱!」
あの人の奇行のせいで、確かにざわつきはいっそう酷くなった。
だが白い視線よりも、その多くが面白そうと大書きした顔で、瞳がきらきらと期待に輝いていることの方が問題だと思う。
「…俺、この間代わった分」
この同僚にも最近春がやってきて、この所当番を代わる事が多かった。
恩を売るつもりはなかったけど、こういうときは遠慮なくお互い様って言葉を使わせてもらう。
「お、おう!もちろんだ!どうせコレじゃ仕事になんねーから行って来い!」
「ありがとな!」
快く…というか事態の収拾のために必死だっただけかもしれないが、とにかく送り出してくれた同僚には感謝しておいた。
だってなぁ。流石に俺だってまずかったと思ってるんだよ。同じくらい驚いてもいるんだが。
あの人は、凄腕で引く手あまたの上忍だ。
…はずみでキスをした。
たったそれだけのことでこんなに大騒ぎするなんて思わないじゃないか。
そりゃこっちだって驚いたし、口布取ったら美人…っていうのか?とにかく腹も立たないくらいきれいな顔してたし、思わず照れ笑いで誤魔化して即効で逃げたのは悪かった。
でもだな。なんで…なんでそれがあの罵倒になるんだ。わざとじゃないってのに!
そういえば元教え子も泣きながらファーストキスが男だったと訴えてきたことがあったなぁ。もしかしてうっかりキスってのはうつるもんなんだろうか。
思わず遠い目をしながらため息をついておいた。
*****
「カカシ先生!」
「きゃー!ちょっとなによ!あ、謝っても許さないんだから!」
もうどこの乙女なんだこの人は。そういやサクラが確か、あの顔で乙女座なのよとかいってたっけか?
微妙な気分になりながら、それでもつかんだ手は離さなかった。
逃げられてまた大騒ぎになるより、ここらで制裁でも受けておいた方がまだましだ。
行動はすっかりさっぱり読めないんだが、一応上忍として節度ある行動が取れる人らしいんだから、多分いきなり殺されたりはないだろう。
ぶん殴られて入院したら…授業ができなくなって困るから出来れば歩ける程度にしておいて貰えるといいんだがなぁ…。
「あのですね。その、はずみとはいえ…えーっと。失礼な行為に至ったことは心よりお詫びします。で、でもですね。その…!あれは決してわざとじゃ…!」
あの日、演習が終わり、アカデミーのシャワー室にいそいそと飛び込んだのがまずかったんだろう。多分。
幼年クラスでも女子は手厳しい。汗臭いなんていわれようものなら、騒がしくなって授業がやりにくいと、昼飯返上で汗を流そうとしただけだったんだけどな…。
さっさと脱いで、前も見ずに扉を開けて、出会い頭に全裸のこの人とぶつかった先が唇同士だったっていうイラナイ奇跡が起こった。
俺はもしかして前世でよっぽど悪いことでもしたんだろうか。今だって忍なんて稼業やってれば恨みの一つや二つ三つや…まあたらふくたくさん心当たりはあるけどな…!
唇を押さえてうずくまられて、焦ったの何の。それも素顔なんてみたことなかったから誰かわからなかった。
お陰で知らない人間がいることに警戒すればいいのか、不本意ながら男と唇を重ねてしまったことを嘆けばいいのか、それとも偶然の事故とはいえ己の不注意を謝罪すればいいのか…迷いすぎて呆然とすることしか出来なかった。
言い訳をさせてもらえるなら、普段はほんっとーに使う人間が少ないから、同僚じゃない人間がいることなんて想像もしなかったんだよ。
音で気づけよって後になって落ち込んだりもしたが、とにかく起こってしまったことは帰られない。
「イ、イルカ先生と…!」
「へ?あ!カカシ先生!」
そうだ。真っ赤になって俺の名前を呼ばれて初めて、障害物…もとい、ぶつかった相手が知り合いの上忍だと気づいたんだ。
「あ、あはははは!その!ごめんなさい!しつれいしました!」
じわじわと後ずさって、そのまま着替えを引っつかんで走って逃げた。…結局体を洗えなかったから、裏庭で頭から水をかぶって誤魔化して、それで終わったと思ってたんだよ。
相手は女相手にも百戦錬磨とまことしやかに噂される上忍だったから、男相手の事故なんて、すぐに忘れてくれるとばかり思っていた。
「許さないって言ったでしょーが!」
…これだもんな。人間ってのはわからないもんだ。穏やかだって噂の人は、頭から湯気を立てそうなくらい怒っている。 これはもう、腹を括ろう。この勢いなら遺書もあったほうがいいかもしれないが、前回更新したときに、ナルトにってちゃんと書き残しておいたからきっと大丈夫だ。
せめて嫁さんが欲しかったと思い、でもこうして先立つなら誰も大事な人がいなくて良かったとも思った。
「…処分はいかようにも」
男らしく目を瞑って頭を下げた。このままぶんなぐられてもいいように歯を食いしばって。
「責任とって貰いますから」
…静かに、だが重々しく告げられた言葉の意味が分からない。
私財を没収とか言われても、薄給の中忍だし、責任の取り方って…やっぱり私刑でもされるんだろうか。
不安は不安だが、逃れようのないことだ。コレで周りに被害がいくよりはずっとマシだ。
変に遺恨を残して、元生徒の下忍にまで迷惑がかかったら、死んでも死に切れん。
「どうぞ。お好きなように」
そう言いきって、顔を上げると、驚くほどそばに上忍が立っていた。
「うん。もちろん」
笑顔だ。素顔だ。やっぱり美人だ。
…で、なんでその、近い近い近い!
「ん、う!んー!んー!?」
この間の事故となんて比べ物にならないくらい濃厚な口付け。
それを嬉々として仕掛けてきているのは、さっきまできゃあきゃあ喚いていた上忍だ。
えーっと?もしかして、これは、これが制裁なのか?
「ん、ごちそうさま」
開放されるまでの時間が無限のように思えたが、男がしゃべってるってことは、やっと終わったらしい。
「ふぁ、ふぁい…」
情けないが腰が立たない。夜の業師の意味が理解できた気がする。
男として屈辱を感じるべきなんだろうが、やっぱり腹は立たなかった。
最初から比べ物にならないものには、嫉妬すら感じられない。
「好きです。俺のファーストキスうばっちゃったんだから、もう俺のものですから」
なんだかつっこみたいことはたくさんあるんだが、責任を取れとしきりに訴えられると、全部俺が悪いような気がして…気がついたら頷いていた。
だってさ、だってな?この人、すっごく悲しそうな顔で責任とってって言うんだぞ?
…それから男が獲物を捕らえたケモノのように満足げな顔で俺を抱き寄せるのと、ベッドの上に投げ出されるのは、殆ど同時のことだった。
*****
「あっあっぁ…!」
「きもちい?」
そんなこと聞くなと叫べたらどんなにいいか。
だが自分の意思など無視してあられもない声ばかりが吐き出される口は、言うことを聞いてくれそうにない。
後から穿たれている。同じ雄の性器を。
突っ込まれたときの痛みは筆舌に尽くしがたいほどだったのに、今はもう気持ちよくてどうにかなりそうだ。
さすが業師と、妙な所で関心した。
「うぅー…!」
でも辛い。もう出ない。こんなにいっぱいしたら腰が立たない。
制裁にしちゃ気持ちいいんだが、すぎた快感は苦痛にしかならない。
「あぁもうかわいー…!しょうがないから、これでおわりにしてあげる」
これからもたくさん出来るしなんていう呟きは聞きたくなかった。
ガンガン追い上げるように叩きつけられる腰に、いとも簡単に達したばかりの性器は鎌首をもたげ、勢いなどまるでないまま粗相でもしたように白いものを滴らせている。
もう、だめだ。いっそ意識を手放してしまいたい。そうすれば少なくとも頭がおかしくなるような快感からは逃れられる。
「い、く…!」
「え!もう?…ッ!…ふ、…あーあ。もってかれちゃった…」
背中に感じる重み以上に、中で感じる熱の奔流の方がリアルだった。凄まじい違和感と、なにか汚されてしまったような屈辱というには諦めに近い感情が俺を満たす。
やっと終わった。多分今日は。
「も、だめで…」
「ん。おやすみ」
おやすみじゃねぇそのまだでっかいのを抜けという気力さえなく、俺はさっさと意識を手放したのだった。
*****
「責任というのは…」
「あ、結婚っていうか、もう書類出してきましたから」
書類…書類って何だ?もしかしてこれが懲罰簿に載るんだろうか。
…いや、ないよな。ありえないよな。誰かそうだといってくれ…!
「しょ、るい」
「はい。あ、俺が死んだら遺産は全部イルカのだけど、わんこの世話もおねがいしちゃいますね?」
「へ?え!?ええええ!?」
遺産ってなんだ遺産って!あとさりげなく今呼び捨てにされたような…!?
「あと子どもがどうしても欲しかったら色々がんばってみるけど、俺が産む?」
「産むってなにが!なにを!どうやって!」
「ま、それは追々?」
畳み掛けるように理解しがたい事実の数々を吹き込んで、何故か余裕たっぷりに笑っている男が憎い。
足腰立たないなんてもんじゃないし、なんか変なものがありえないところからあふれ出てくるし、まあ突っ込んでだしたら当然なんだろうが最悪だ。
「もう、だめだ…」
命があっただけましなんだろうか。いい人だと思ってたのに。
「お風呂入ってご飯食べて、それから一応火影さまにも挨拶いきますかね」
「あー…風呂。風呂に…」
「今日は無理しないでもいっか。したいし」
「風呂…風呂…!」
「はいはい。抱っこしますからぎゅーってしてね?」
もはや羞恥心など枯れ果てた俺にとって、それは動けない体でも風呂に入れるという意味でしかなく、そのまま再度挑まれるなどということは当然のことながら想像すらしなかった。
「風呂…」
「ん。これから一生ずーっとアンタを洗うのは俺ですから」
なし崩しに始まった関係が、それから本当に命尽きるまで続くなんて事は、考えもせず。
俺は暢気に一人暮らしにしては広い風呂場に連れ込まれて喜んでいたのだった。

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適当。
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