「静かだね」 「そうですね」 まるで彼岸の地ようだと思った自分を少しだけ笑った。 所詮、俺たちは忍だ。 …穏やかすぎる時間を受け入れられない。 朝日がじわじわと夜を侵食し、闇を溶かし込んだように黒い海が、今はもう紫から青に変わった。 陽に食われて赤く溶けた光に、もう随分とここにいるのだと今更ながら気がついた。 落ち着かない時間も、二人で過ごしていればそれなりに誤魔化すこともできる。 誰もいない冷え切った砂浜で、二人きり。 世界がここだけだったらと思う。 だれもいない。傷つけるものも守るべきものも他にない世界なら。 そんなことを考えてしまうのも、こんな風に…静かでなにもない時間になれていないせいだろうか。 ずっとここにいたら狂いそうだ。 …あまりにも自分の望んだものに近すぎて。 といっても、待機でもなく、ただここで過ごせと命じられた以上、動くこともできないのだが。 「寒い?」 「少し」 体温の維持程度ならさほどチャクラも食わない。 雪山でターゲットを消すために幾日も潜んだことだってある。 …でも、今は寒い。寒いってことにしておく。 そうすれば、もっとこの人の側にいけるから。 「もっと、くっつこうか?」 「…はい」 触れそうなほど近くにいたのに、任務だという意識がどこかにあったのかもしれない。 こうしてあざとい手段でもつかわないと側にいることができないくらいには、任務に忠実だ。 「あったかい?」 「まだ、寒いです」 抱き寄せても足らなくて、いっそここで混ざり合えたらなどと埒もないことを考えた。 寒いんじゃなくて、この世界が静かすぎるから。 きっとそのせいだ。 「海が、赤いね」 ソレが何に似ていると思ったかなんて、二人とも口にしなかった。 あかい、赤い、紅い。 あの日の炎と流された命の…。 「もうすぐ、夜が明けますね」 「…そうね。任務もおわりってことかな」 「長かったですね」 「楽だったけどねぇ?」 終わりだといいながら二人とも離れようとしなかった。 …まだ、夜が開けきっていないから。 それをいい訳にして、誤魔化して。 この穏やかな時間が終わることに安堵しているとしても、今はまだ、もう少しだけこうしていたい。 「ま、たまにはこういうのもいいかもね?」 「そう、ですね」 緩やかに終わる二人だけ切り取られた世界は、容赦なく光る太陽に溶かされて消えていく。 「また、みにきたい」 「ええ」 二人でみることのできる世界は、こんなにも美しい。 「ま、いちゃいちゃできないから、早く帰りたいけどね?」 「馬鹿言ってないで!ほ、ほら!帰りますよ!」 手を握った。 まだ寒いからと一緒に笑って。 …側にあることがこんなにも幸福だと思いながら。 ********************************************************************************* 薄ッ暗い適当。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |