こいのきせつ(適当)



「すきすきー」
「あー」
「だいすきー」
「うるせぇ!」
「だって好きなんだもん!」
「それはまあ百歩譲って好きにすりゃあいいと思います。が、それとそのへんな歌はどういう関係があるんですか…」
上手いならまだしも、この上忍にも出来ないことがあるんだなぁと驚くほど下手くそだ。
最初はなんで呻いてるんだろうと思ったからな。
具合悪そうって訳でもないし、普通に勝手に飯食ってるからそっとしといたんだが、その内変な歌詞まで追加された。
普段から奇行の多い人だから、一々かまってたら身がもたない。…とはいえ放っておいたことを後悔せざるを得ない。
ちゃんと目的を聞き出して、早い段階でやめさせていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。
何が原因かわからんが、勝手に盛り上がって嬉しそうな顔で酷い雑音を…!
まあほっとかなくても悪化した可能性もあるんだけどなぁ。何せ普通とは言えない思考回路の人だから。
「春でしょ?」
「はぁ。まあそうですね」
またわけのわからんことを言い出しそうだなぁ。
…どうしたものか。
「春は、番の相手にちゃんと愛を囁いておかないと!」
胸を張られてもなぁ。
どうしてこの人はこうなっちまったんだろう。
腕はいいし頭もいいし、性格はちょっと歪んでるが、基本的に仲間思いでいい人なんだけどな。
常識を生まれる前にどっかに捨ててきちまったとしか思えない。
腕に縋る手をそっと外して、ゆっくりと言い聞かせることにした。
「まず俺は番じゃありませんし、あなたと同じ男です。それから、愛を囁くというより、さっきのアレじゃ…」
へたくそっていったら泣くだろうな。
そう思ったら最後まで言えなくて、つい言葉につまってしまった。
…隙を作ってしまったとも言う。
相手は頭のネジはちょっとどころでなく外れていても、凄腕の上忍だってことを忘れていた。
「いいじゃない。ずーっと一緒にいる相手が番なんだから、どっちだって。歌じゃ駄目なら…そうね。ずっと一晩中囁こうか?」
抱きくるまれるとこの暢気で子どもっぽく思える生き物が、しっかり成人した雄であることを思い知らされる。
ほんのちょっとだがこの男の方が背が高い。腕も長い。足は…俺だって別に短いわけじゃないし!
「あの!」
そもそもどうしてそうなったんだか。
番の意味を分かってるんだろうかとすら思っていたのに。
「ね、イルカ」
名を呼ばれただけで背筋が震えた。
なんだその甘い声は!歌なんかよりずっと腰に来る。
「やめ、ろ!」
「そうやって警戒されちゃうじゃない?でもほら、愛はきちんと伝えておかないと」
届かなくなる前に。…伝えられなくなる前に。
そう言って笑う男が儚げに見えて。…本当はそんなはずないのにな。
「伝わってますよ」
そう答えてしまったのが運のつき。
「そりゃよかった。じゃ、これからは恋人の時間ですね」
「は?え?わっ!あぁ…!」
すっかり綺麗に頂かれるまで、あっという間だった。


「な、なにすんだ…」
名を何度も呼ばれた。その度に持ち主の意思を裏切って甘く蕩ける体に戸惑っているうちに、突っ込まれていた訳だ。
痛みより満たされるように感じたんだから、そりゃもう末期ってもんだろう。
落ち込んだ。我ながらなんてたやすさだ。…この人の本気なんてどの程度のものかわからないのに。
「一番愛が伝わるのは、やっぱり体でしょ?」
毛繕いでもしているつもりか、しきりに体を寄せてきてついでにそこら中に触れてくる。
確かに大事にされてるって感じはするけど…ちがうだろ!
「知るか!」
「あ、わかりにくかったですか?じゃ、伝わるまで一杯たくさん…死ぬまでずーっと囁き続けますね!」
満開の桜でも頭に生えているに違いない。この男の頭はどうかしてる。
…その台詞に胸を高鳴らせてしまった俺も。
「俺が!死ぬまでずっとですよ。それなら考えなくもないです」
「…はい」
少しだけためらって、でもはいと言ったから、だから。
一生この人の面倒を見てやろうと決めた。
何せ俺はどうやらこの人の番になったみたいだからな。

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適当。
そうして恋の季節はずっとおわりませんでした。
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