「俺はゆたんぽじゃありませんよ…?」 冬の夜は、忍といえどそれなりに寒さが堪える。 降り積もった落ち葉も朽ち初めて、その上に横たわったからといって温めてくれそうにないのだが。 「ん」 短く返事とも寝言ともつかぬ声を上げて寄りかかる男は、任務帰りなのかうっすらと消しきれない鉄さびの匂いを纏っている。 「ふぅ…」 寝入ってしまったのか重みを増す体を感じながら、なんでこんなコトになったのか自問してみたが、答えはでなかった。 **** 最初は偶然だった。 冬の流行り病のお陰で人手が足りなくて、アカデミー勤務を済ませて、さらに深夜受付までこなすコトになったのだ 。 あまりにも忙しすぎて、その帰りついでに、次の演習の下見を済ませてしまおうと思い立って、徹夜明けの奇妙に浮かれた気分のまま、そこに足を踏み入れた。 アカデミー生が使うくらいだ。当然危険なモノなんてあるわけがない。 獣もせいぜいネズミか蛇程度しか出ないような森の中で、トラップを仕掛ける位置や、点呼を取る場所の確認や、片付け損なったトラップがないかどうかを確認して回った。 単調な作業だが、夜の森を恐れるほど幼くもなく、逆に澄み切った空気と夜の穏やかな静けさに、一人悦にいっていたかもしれない。 夜の散歩もなかなか悪くないなんて、思いながら。 大まかな確認も済んで、あと少しだけ散歩をしてから帰ろうとふらりと足を踏み入れた茂みに、文字通り男が落ちていたのだ …仰向けに横たわり瞳を閉じて。 「…っ!?」 息を飲む俺に男が呟くように言わなければ、最悪の事態を想像しただろう。 「寝てるだけ。ほっといて」 それだけ言うと瞳を開けることもせずに、口を閉ざしてしまった。 その時、俺はきっとおかしくなっていたんだろう。なにせ碌に寝てもいなかった。 「…冷えちゃうじゃないですか」 連れて歩くのも重いしどうしようか。 そんなコトを思いながら男を抱き起こして、それに一瞬だけ身を硬くした後、男は笑った。 「そうね。…ね。温めて?」 擦り寄る男に寄りかかられて、これじゃ立てないなぁと思った時点でおかしかった。 「眠いんですか。俺もです」 なぜか無性に笑いがこみ上げてきて、男と一緒に俺も笑って、それから瞳を閉じたら朝だった。 まだこんな所にいるってことは、夕べの事は夢じゃないんだろうが、森の中で夜明かしなんて、任務でもないのにばかげてる。男もきっともういなくなっているだろうと思ったのに。 「おはよ」 男はまだそこにいた。 更に言うなら俺を抱き起こして、なぜか手を引いたまま早朝の薄闇の中を歩いて、俺の家まで送ってくれたというか…ついてきた。 それからなんとなく一緒に冷蔵庫につっこんであった漬物で飯を食って、俺が休みだと知ると「奇遇ですね。俺もです」なんていいながら一緒の布団にもぐりこんで、俺も何だかどうでも良くなってそのまま寝てしまった。 目覚めても抜けの殻の布団をみて、やっぱり夢だったかと思う前に男が台所で飯作ってたりして、もうどこに驚いていいのか分からないでいたら、「さっきごちそうになったから」と、俺の適当な手料理なんかよりずっと美味い飯を食わせてくれた。 それから出勤して別れて…帰宅したらまたいるだろうかなんて思っていたのに、今度はいなくて、空っぽの家が馬鹿に寂しく思えたのを覚えている。 …また忙しさを増した翌日、なんとなく、本当になんとなく男を拾った森に立ち寄ったら、また男が落ちていた。 今度は俺を見て誘うように笑いながら。 …それからだ。毎日のように男が森に落ちているようになったのは。 拾いにいって、それから男の冷えた体を暖めて眠る。 家に帰ればもっと暖かい布団も飯も何もかも用意できるのに。 それにだ。こうして俺と眠った後、気付けば自宅にいるってことも増えてきている。 運ばれて気付かない俺も俺だが、どうせなら最初から俺の家にいればいいのに。 膝になついて頬を摺り寄せ、強請る瞳で俺を見る。 そして。 「いかないで」 そう呟くからおいていくこともできない。 ゆたんぽ代わりにされるのは構わないが、こんなに寒い所でなくてもいいだろうに。 膝の上のイキモノの暖かさがじわりと別の種類の熱まで運んできそうだ。 寄り添う身体を引き離すのが辛いなんて今更なこと、思い知らされたくもない。 なら、もう離れなきゃいいだけの話だろう? 「あーあ」 そろそろ、言ってみようか。 アンタもう俺のなんだから、こんなトコじゃなくて、もっとあったかい所に来いと。 生殺しのこの状態に耐えるのもそろそろ限界だ。 「もうちょっとだけ」 そう呟く男を、どうやってたぶらかしてやろうか悩みながら、そのキラキラと光をはじく髪を撫でてやった。 穏やかな眠りにつくために。 ********************************************************************************* 適当ー! きづいたら寝てましたが、まだねむいので適当すぎてあれです…。 |