「そんなに寒いの?」 ストーブ入れて半纏着込んでコタツにおさまって、ついでにみかんともらい物の白酒を堪能していただけなんだが、どうしてちょっと呆れ顔なんてされなきゃいけないんだろう。 「寒い。窓締めろ。…つかアンタ飽きないのか…?」 勝手に人の家に上がりこむのもどうかと思うが、堂々と毎回窓から入ってくるのはもっとどうかと思う。 こそこそしろって言うわけじゃないが、人の家に忍び込むならもうちょっと忍べというか、そもそもこの人、忍なのに忍べてないしなぁ…。 玄関からお邪魔しますとかそれなりの挨拶があれば、一応は上司みたいなものなんだし、家に上げて上っ面だけでも対応できるんだが、毎度毎度これじゃどうしようもできない。 説教が無駄だってのははっきりしている。 幾度となく、せめて玄関から入れとか、休む場所なら他にもあるだろうとか、それはもううんざりするほど言って聞かせたってのに、毎回しれっと家に上がりこんでくるからもう諦めたのだ。 「あ、みかんおいしそう」 じーっと俺を見て、お預けされた犬みたいな顔をしている。 なんなんだかなぁ…。俺よりずっと高給取りのはずなのに。 「一日2個までです」 これは…まあちょっと厳しいかもしれないが必要だ。 欲しい物は際限なく求める所があるこの男には。 あとはまあ、自分がチビだった頃に母ちゃんが決めたってのもあるけど。 「えー?けちー!のど渇いてるんだけど?」 上目遣いに俺を見る男は、多分その効果をよく知っている。 最初は遠慮していたが、俺がしかりつけるようになると一応黙って引き下がるようになって、それでも我を通したいときは、こうやって強請るようになったのだ。 面がいい人間は得だ。…しょんぼりした顔をされると、なんとなしにかわいそうに思えて罪悪感に負けそうになるから。 それにこの件に関しては、うみの家のみかん制限も元はといえば、肌がまっ黄色になるまでみかんを食べまくった俺が原因だからなぁ…。 なんとなく子どもっぽいこの人にだけダメっていうのは言い辛い。…まあだめなもんはだめなんだけど。 「肌黄色くなった里の誉れなんて、大騒ぎになるでしょう?」 「え!なにそれ!?このみかん毒入り?」 「ちがいます!…みかんは食べ過ぎると肌が黄色くなっちゃうんですよ?まあしばらくすれば治りますが」 これで引き下がるだろうと思ったら、むしろ楽しそう…っていうか、これは悪戯寸前の子どもの顔だな。 「何個食べたらなるの?」 「…ダメですよ?」 うっかり数などいおうものなら、確実にこの男は実行する。 笑顔でみかん籠をコタツの上から下ろしたら、不満そうに視線でそれを追いかけた男が、ぶーぶー文句を言い出した。 「イルカ先生に看病してもらおうと思ったのに…」 「勝手に食べたもんでどうしてそうなるんですか…。それに肌が黄色くなるだけだから看病なんていりませんよ」 突拍子もない言いがかりを付けられる所だった。 この人なら本気でやりかねないから気をつけなくては。 悪気はないみたいなんだが、どうも変な事を言い出すから油断できない。 「こたつ、あったかい?」 こうして唐突に話題を変えられるのにも、未だに慣れることができないしな。 変わった人だ。それでまとめちまっていいのかどうかはわからないけど。 「あったかいですよ。入るんならどうぞ?」 「…ホントだ。あったかい」 そう言った男は、コタツに入るんじゃなくて、俺にくっついてきた。 「アンタ冷た…!?風呂はいんなさい!俺で暖をとるな!」 半纏越しのおかげで背中は難を逃れたが、懐につっこまれた手は氷のようだ。 …こんなに冷えてるからだろうか。窓から毎度毎度入り込んでくるのは。 思考まで凍結…って、この人上忍だ。そんなことないよな。 最高に温かくて心地良いコタツから抜け出して、さっさと男を引っつかんで風呂場に放り込んできた。 風呂場も寒いが外よりましだ。 「イルカせんせーは一緒じゃないの?」 「さっき入ったばっかりだからお湯も温かいですよ!冷えてた追い炊き!せめて100数えるまで上がっちゃダメですよ!」 温まったら出てくるだろう。またびしょぬれで。 しょうがないから飯でも食わせて、後はコタツは譲ってやろう。 あの暖かいコタツから抜け出て布団に入るには、思い切りが必要な時期だったから、ある意味これも天の采配だ。 「あーあ」 最近いつもコタツで寝ようと思うとアレが入って来てる気がする。譲ってやって布団で寝てもいつのまにか横で寝てるから意味があるのかわからないんだが。 おかげで風邪を引かないからよかったってことにしとくべきなのか。 「イルカせんせ」 「まだ上がっちゃダメですよ!着替えもってくから湯船に入ってなさい!」 いかんいかん。水浸しにされる前に着替えを持っていかないと。 大急ぎで服を取りに行った俺は、男がくすくす笑いながら何か呟いたのを聞きのがした。 「あんなのよりずっとイルカせんせの中のが温かそうなのにねぇ…?まだ、早いか」 ********************************************************************************* 適当。 寒がりで寂しがりやの中忍をちょっとずつ…。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |