寒い。そう全ては寒いからだ。 今日は風が冷たい。 そんな時を狙った様に近づいてきた男が、当たり前のように家まで着いてきた。 「寒いから、ちょっとだけ、ダメですか?」 そう言って、顔だけは迷子の犬みたいにしているくせに、瞳にあるのは哀願どころかあからさまな欲望で。 俺を欲しがる獣が、餓えを隠さず舌なめずりしているのを見せ付けられ続ける気持ちが、この男にはわかるだろうか。 余裕を失っていくに連れて、隠し切れなくなったのか、隠すつもりがなくなったのか。 …どちらかは知らないし、わかりたくもない。 俺に分かるのは、男の纏う色が中てられるほど強く、絡みつくように執拗だってことぐらいだ。 焦れた男から滴り、注ぎ込まれ続ける毒に、抗うのも耐えるのも疲れてしまった。 溺れてしまえば少しは楽になれるだろうか? 「…いいの?」 いいのも何も、隠そうともしてなかったじゃないか。 今更、退くつもりもないくせに。 圧し掛かる男に俺は抗わなかった。こうなることは分かっていたから。 この男から向けられる欲に塗れた視線は、気付かないフリをするには強すぎた。 悪意を受け流すことには慣れていたが、こんな感情は持て余すことしかできない。 この道を選んだ時に、恨まれ、蔑まれる覚悟は出来ている。 あの子を懐に入れたときに、仲間からすら付狙われることすら日常となった。 だが、この男は。堪えるフリをして、諦めることを知らない男は違う。 …俺の手には、いずれ里長にと望まれる男は重過ぎる。 階級差でも実力差でもなく、決められた未来があるからでもない。 強くあるために培われた穏やかに見えて激しいその感情が、呼吸さえ止めるほどの強さで俺を捕らえるのだ。 意識すらしていないだろう。支配することになれすぎたこの男自身は。 近づいてきた時に逃げるべきだったんだ。 その微笑みに含まれていた激情は、毒にしかならないというのに。 俺が追い詰められていくのは必然だったんだろう。 抗うには一途すぎて、流されるには激しすぎて恐ろしい。 だが、もう、考えることさえ放棄させられた。 「ねぇ、一度だけなんて無理だから」 受け入れるそぶりなど見せたことがないから、無自覚に強引な男が珍しく戸惑っているらしい。 理由なんて…寒いからってだけで十分だ。 冷たそうな外見のわりに、男の腕は温かい。 「温めて、くれるんでしょう?」 娼婦のようなセリフだが、これでも誘い文句になるだろう。 この無骨な体のどこがいいのか、熱心に視線を這わせ続けてきた男になら。 「嫌ってほど温めて、熱いって言っても離さない。…だから、ねぇ…」 俺に溺れて? 切なげに荒い吐息を吐いた男の背に腕を回して、食らいつくように首筋に痕を残していく感触に身震いした。 「もう、とっくにだ」 吐き捨てた言葉ににんまりと男が唇を歪めたのを感じる。きっとさぞや満ち足りて…それから目を輝かせているだろう。 これでやっと餓えを満たせると。 食われてしまう俺のことなど考えもしないで。 だが、これで、やっと。 …奇妙な安堵感の正体には気付かないフリをして。 男の肌が温かいことに溜息をついておいた。 ********************************************************************************* 適当! 寒いよう!寒いよう!どこいったの秋!? ではではー!なにかしらつっこみだのご感想だの御気軽にどうぞー! |