切って捨てた。 だって武器を持って向かってきたんだから当然でしょ? で、なんで泣いてるのよ。この中忍は。 「…すみま、せん…!」 「謝るくらいなら泣かなきゃいいでしょ?なによ文句でもあるの?」 とてつもなくイライラした。 だってねぇ?こんな中忍…しかも成り立てっぽいようなガキに、俺のやり方に四の五の口出しされたくないじゃない? 年齢は確かにまだ若いけど、これでも10年選手だ。 おもちゃより先にクナイを握らせた父の不用意さと不器用さに関しても、どうにか折り合いをつけた。 仲間のフリをしていたやつなんかのために泣かれると腹が立つってもんでしょ? 私刑は禁じられているし、道理が分からない馬鹿ってだけで、そこまでするほど馬鹿じゃない。 このガキは、何がそんなに悲しいのかわかんないけど、少なくとも成り立てで覚悟も経験もさっぱり足りていないせいで、今何を優先すべきかすら判断できないでいる。 あのままほっといたら切られてたのはアンタだったのに。 「いいえ、文句なんて!ただ、俺は」 「俺は?なによ?小僧が生意気に暗部に意見するっていうなら、聞いてやらなくもないけど?」 ビビッてちびればいいくらいに思って、ちょっとした脅し文句を口にしたら、唐突に抱きついてきた。 「俺は、まちがってるかもしれないけど、駄目なんだ。変われないんです」 …実践経験が浅すぎるにもほどがあるでしょ。 何を錯乱してるんだか知らないけど、明らかに様子がおかしい。 どうするか。ぶん殴って正気に戻してもいいんだけど、それもまた厄介だよねぇ? 「ねぇ。なんでないてんの?元仲間だから?」 「…いいえ。俺が、もっとしっかりしねぇと」 「は?」 虚ろな瞳。うそ。これってもしかして、そこに転がってる馬鹿の、捨て身の嫌がらせ? 震えながら泣き続けている。呼吸も浅い。まずいな。コイツ、幻術耐性がよっぽど低いんだろう。 やたらと感情的なのも多分そのせいだと踏んだ。…ってことは、俺の目でなんとかできる。 「おれは、たたかう。あの子は、俺がいないと…」 「はいはい。いーからこっちおいで。そんで寝てな。里まで運んでやるけど、後でお礼は徴収するよ」 紗がかかったように焦点の合っていない黒い瞳が、俺を見る。随分素直だ。ま、今はありがたいけど。 「あ」 「ん。おやすみ」 術は返した。反動は…ま、あれだけがっちりかかってればそりゃね。 意識を手放したのは俺が暗示をかける前だった。 しがみ付いたまま倒れ込んできたところをみると、元々体力的にも限界だったんだろう。 「さてと、どうしようか」 運ぶのは約束したし、それ以前に隙だらけだけどコイツも同胞だ。そこまではいい。でも、どうせなら有言実行といこうじゃないか。 「お礼、何にしようか?」 今日のことを、コイツはきっと覚えていないだろう。 そんな状況で俺に礼を寄越せと言われたら、どんな反応をするだろう? うろたえるのは確定として、意思は強そうだし、怒鳴るか、それともいっそ土下座とかしてきちゃう? それを考えるのは楽しかった。 俺と同じくらいの癖に俺よりちょっと、いや大分重い男を担ぐのが苦じゃないくらいには。 「楽しみにしてるね?」 そう言うと、すよすよと熟睡しているイキモノは、嬉しそうに笑ってくれた。 ******************************************************************************** 適当。 中忍のおうちに家族が増えたりするかもしれない。 |