「あ。落ちた」 「俺いくわ」 「おう!気をつけろよ!」 今日の演習内容は、オリエンテーリング。演習場の各所に隠されたカードを回収し、ゴールに向かう速度を競う。勿論一枚でも欠けていれば探しなおしだし、他の班のものを誤って回収してもアウトだ。 夏季強化合宿とは名ばかりの遠足じみた演習だが、そこは忍のたまご。木の間を縫うように跳び、水面を歩き、時に泳いでさぐるなど、とにかく体を使う。 つまりその分だけ危険も伴うって訳だ。 今も無茶して樹のてっぺんまで上った上に、じゃれあいすぎて落下したのがいた。 受身も取れないんじゃ忍にはなれないが、痛い思いを無駄にさせる必要もない。 高い位置から探そうって着眼点はいいんだけどなぁ。景色に見とれてはしゃいだ挙句に、団子になって落下するってのはいただけない。 一度隣の木を足がかりにして跳び、絡まるようにして落ちていく子どもたちを地面に激突する前に回収した。 「うわー!せんせー!」 「こ、こわかった!うー!」 「枝折れた!暴れるから!だめっていったのに!」 「ほらお前ら。しゃんとしろ!まだ演習中だ!…お前たちがホンモノの忍だったら、任務中みたいなもんだぞ?」 めそめそきゃわきゃわ騒がしかった子どもたちは、それを聞いて一斉に顔色を変えた。 よしよし。反省したみたいだな。コミュニケーション能力を鍛えるってことで、今回だけくじ引きで編成したとはいえ、元気がありあまってるのが固まっちまったもんな…。 側にいてよかったよ全く。ちょっとしたかすり傷くらいですんだみたいだ。 「…せんせい。ごめんなさい」 「俺たち、失格なの…?」 「お前らが暴れるからだろ!」 「お前も一番高い所とろうとしたじゃんか!」 「うるせー!」 ああまたか。いつものことだがよくもまあ飽きずに繰り返すよなぁ? まあ、喧嘩両成敗だ。 「って!」 「いたー!」 「なにすんだよ!」 拳骨を一発ずつお見舞いして、きっちり反省を促す。負けん気が強いのも結構だけどな、そういうヤツは実力がなきゃ真っ先に死んじまうだろ? 「お前ら、任務中にそんな下らないことで喧嘩してたらあっという間にしんじまうぞ?」 「…ごめんなさい」 「ごめんなさい」 「でも、俺!」 「ほら、失格じゃないが出遅れたのは確かだぞ?早いもの勝ちのスイカが食べたかったらとっとといってこい!」 「「「はーい!」」」 現金なもので、あっという間に散って行った。今度こそ喧嘩しなきゃいいんだけどな。 昼飯の時間までに戻れなかった場合は失格だ。それもあと1刻もない。 そろそろ腹も減ったなと持ち場に戻ろうと踵を返した瞬間。背後から声を掛けられた。 「あ、イルカ先生」 「うわあ!あ。カカシさん!」 俺の飲み友達でもあり、教え子を引き継いだ上忍師でもある人だ。 昨日も家で飲んだくれた挙句に俺んちに泊まってったはずなのに。え?あれ?なんでここに? 「あら驚かせちゃった?」 ふふっとなんかちょっとオカマ臭く笑うんだよな。いつも。綺麗な顔してるからそっちでも十分食っていけるだろうなって思っても、そんな失礼なことは言えないけど。 にしてもなんだ?急ぎの用事か?にしては随分のんびりしてみえるんだがどうしたんだろう? 「お仕事の邪魔するつもりじゃなかったんだけどね。お弁当持ってきてみたんだけど」 「え。あ!今朝の!気にしなくてもよかったのに!」 そう。実は俺は今日、弁当を作り損ねていた。 任務帰りに手土産に上等な酒を片手にやってきたこの人と、潰れるまで酒を飲んでしまったせいだ。 それはまあ俺も楽しかったし、それはいいんだよ。ただ子どもたちの前で兵糧丸だけで済ますってのもマズいかもしれんと思って、白飯にうめぼしだけ突っ込んだのを放り込んだはずだった。 でもこの人が差し出した弁当箱は…包んである手ぬぐいの模様といい大きさ今朝鞄に入れたはずの俺のだよな? 「イルカ先生の手作りの方は食べちゃったんです。ごめんね?」 「ええ!?いやあれ飯っていうよりは…!」 握り飯を握るのも厳しい時間だったから適当に飯を押し込んだだけなのに、こんな風に言われると申し訳なくなる。 「じゃ、それだけ。あ。でも。今日もおとまりしていいですか?片付け終わらないかもしれないんだもん」 「もちろん!」 片付け…あれか。俺んちに転がってる酒瓶と乾き物のつまみのことだな。きっと。 まめな上にいい人だ。こんな嫁さんがいたらなぁ…なんてな! 「じゃ、また後でね?」 「はい!」 今日も一緒にいてくれるのか。なんか、それはなんかうれしいよな。今日みたいにわいわい子どもたちに囲まれた日に、一人じゃないのは嬉しかった。いつもなら元気なこどもたちに囲まれた後、静寂に包まれるから酷く苦痛だった。 「うっし!がんばんぞ!」 まずは弁当の礼と、あとはちょっとした酒も追加で買っていこう。 なんだか楽しみになってきた。昨日もお互い潰すの潰さないのの話になって、僅差で俺があとだったからな。 楽しみすぎて昼飯時に子どもたちに囲まれながら先生たのしそうって騒がれるし、弁当があまりにも美しい仕上がりだったんで、イルカが壊れたって騒がれるしと、まあいろいろあった訳だが。そこは正直に言っといたぞ?カカシさんは凄いんだって! …実はカカシさんが外堀を埋めるために色々と頑張ってくれていたってのを知ったのは、酔い潰して既成事実とやらを作ろうとしたのに酒に強すぎるって泣かれたときのことだった。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |