「かわいいでしょ?この人」 こうして女を紹介されるのは何度目になるだろう。 上司と部下で引継ぎも兼ね飲んだのがきっかけで、それなりに親しくなれたと思っていた。 普段は茫洋としていているように見えて、一瞬でそれを一部の隙もない鋭さに変える人だ。 そのくせ時折見せる酷く無防備な表情は、何故か俺の胸に痛みを興して。 …好きだと気付かされたころにそれは始まったのだ。 「イルカせんせ。ほら、この人可愛いでしょ?」 多少の差はあれども、いつでもそうやって、この人は女を連れてくる。 もうそのセリフを聞かされるだけでうんざりするほどだ。 確かにこの人が勧める人は可愛らしい。 大抵は女性らしく柔らかく穏やかな雰囲気で、戸惑う姿にさえ自然と守ってあげたいと思わされる。 …その視線が向けられている先には必ず目の前の上忍がいるのだが。 痛む胸をごまかし、女性に気を遣いながら酒を酌み交わし、酔いもせずに席を後にすることを何度繰り返したことか。 俺といるのが楽しくないんだろうか。 それにしては何度も誘われる意味が分からない。 遠まわしに俺の思いを拒絶しているのだろうかなんてことすら考えてしまう。 …穿ちすぎだと分かってはいるのだが。 この人はしっかりしているように見えて、意外と単純で抜けた所があるのだ。 そう、基本的なことを理解していない。 例えば、俺のこの思いなんて、絶対に気付いていないはずだ。 …自分に向けられる感情への感覚が麻痺しているのかもしれない。 注目され続ける人にとって、他人の感情にいちいち構っていたら気が狂うだろう。 今日もさりげなく酒を勧め、かの人を陶然と見つめ続ける女性の職の進み具合などまで気にしつつ、味の分からない酒を干さざるを得なかった。 俺を監察するように見つめる上忍の視線に耐えながら。 ***** …そんな日が何度も続くと、流石に鈍くて図太いと評される俺にだって限界が来る。 もう一度だって我慢できない。 そう思ったから、俺は誘いにくるまえに、自分から男を捕まえた。 「ああ、丁度良かった。今晩のみに…」 「なんで、他の人といっしょなんですか?」 「え…?」 心底驚いたって顔をされたのにもまた腹が立つ。 そんな顔で嬉しそうに俺を誘うくせに、どうしてこんなややこしいマネをするんだ? 「俺は無理をして欲しいわけじゃないんです。俺といるのがキツイなら、もう二度と誘わないで下さい。…なんで、こんなことするんですか?」 本当は自分が痛みに耐えられなくなっただけだ。 それが分かっていてなお、それでも言いたかった。 生殺しにされている今よりは、本当の気持ちを言ってくれた方がまだましだ。 …きょとんとした顔には腹が立ったけれど、それ以上に苦しくてどうにかなるほどこの人のことが好きだから。 「好きだから。好きな人には幸せになって欲しくて」 「は?」 「だって、イルカ先生が言ってたじゃない。可愛いお嫁さんが欲しいって」 「え?ええええ!?」 遅ればせながらこの人の言いたいことが分かってきた。 たしかにそんなことを話した覚えがある。寂しさを埋める相手が欲しいとか、そんな程度の話を。 自分でもすっかり忘れていた。 そんなことより好きだなんて言うから…このまま息が止まってしまいそうだ。 「好きな人の望みをかなえてあげるのがいい男だって言ってたし」 そんなことを言いそうな相手に思い当たり、溜息が零れた。この人の先生は、本当にこの人にとって大切だったんだろう。 ふざけるなと叫ぶ代わりに微笑んだ。 「なら、俺の望み、叶えてくれますよね?」 「ん。俺に出来ることなら何でも」 「それじゃあ、遠慮なく」 口布を無造作に引き下げて、その唇を奪ってやった。 素顔はとっくに知っていたが、こんな顔をされるのは初めてだ。 驚きに見開かれた瞳にすら素直に欲情する自分の体。 自分がどれだけ我慢を強いられていたのか思い知らされる。 「え、あ?」 「アンタが、俺のかわいいよめさんってことで、いいですね?」 にやりと笑った俺に、コクリと可愛らしくうなずいてくれた。 …だからまあ、成り行きとはいえこのままこの人にはかわいいよめさんになってもらおうと思ったのだが。 しっかりちゃっかりその辺は素早い上忍にしてやられるハメになった。 ベッドに連れ込んだ途端に豹変するなんて、流石というかなんというか。 …まあなるようになったんだからいいんだろうか? そんな風に思いながら、今日もちょっとぬけた可愛い恋人に組み敷かれている俺だ。 「凄いですねぇ。流石イルカ先生だ。俺も先生も幸せなんて最高…!」 ニコニコ笑うちょっと鈍い恋人との日々は、恐ろしいほどに幸せだから。 ********************************************************************************* 適当! ねむいので勢いでー。 |