一口(適当)

「一口ちょーだい」
また湧いて出たよこの人。
飯時になるとどこかから現れて飯をたかっていくようになったのは、いつからだっただろう。
薄給の中忍がボリュームたっぷりで安い学食のA定職をかきこんでるときや、晩飯の残りやら沢庵の最後のしっぽなんかを詰め込んだ残り物弁当をせっせと平らげてるときに現れては、それを一口と称して奪っていくのだ。
上忍なんだから美味いものいくらでも食えるだろうに。
なにも給料日ギリギリになってから作る弁当なんて食わなくてもいいはずだ。
間違いなくこの人は毎日豪遊したって使いきれないだけの報酬を受け取っている。少なくとも受付を通す分だけでも確実に。
その上まだ暗部の任務に出てるって噂が本当なら、金はうなるほどあるだろう。
…いや僻んでなんていないぞ!でもなー毎日一楽とか憧れだよなぁ。この人なら多分一楽スペシャルだって夢じゃないに違いない。
問題はその人がなんでまた俺の貧乏真っ盛りな飯を奪い取っていくのかってことだ。
まさか貧乏生活にあこがれてるってわけでもないだろう。戦場じゃこんなものすら食えないんだし。
何が楽しいんだか知らないが、あまりにも度重なる搾取に業を煮やしていたのは事実だ。
つまり、今日から抵抗すると決めていた。
「いやです。俺の飯です。腹が減るんで勘弁してください」
たった一口とはいえ、切り詰めて生活してるんだよ。身内がいないしいざとなったら頼る相手がいなくなる元教え子が転がり込むかもしれないんだ。
せっせと貯金に励むためにも、無駄な出費は減らすに限る。
…いや、実際の所さほど貯蓄はないんだけどな…。
任務中の怪我なら保障されるけど、それ以外の病気になったら自己責任ってのが普通だ。
健康が自慢だったりするけど、もしもがおこったら目も当てられん。やっぱり生活見直さないと。
力いっぱいお願いですって顔で訴えてみたんだが、目に見えてしょげ返られると動揺した。
なんでそんなに悲しそうな顔してるんですかアンタは。
「だめ?」
「だ、だめ!で、す。あーその…代わりになんかくれるなら別ですが」
これじゃ意地汚いだけみたいだが、まあその、正当な要求だよな?そうだよな?小腹が空いて売店で思わずおやつかっちゃいそうになったりしたしな!
コレに呆れていなくなってくれないかと淡い期待を抱いたんだが、どうやらソレは無理そうだった。
ぱあっと顔を輝かせた男が、里の業師が、なんだかしらないが凄まじい速さで消えて、凄まじい速さで戻ってきた。
学食で一番高くて美味いと評判のC定職(大盛)を持って。
「はいどーぞ。こっちもらってもいーい?」
「え、ええ!?いやでもその、しょぼいですよ!?俺の弁当!」
「おいしいですよ?イルカせんせの手作りでしょ?」
「いやまあそうですけど!」
「ならいいじゃない。ちょーだい」
…結論から言うと、欲望に負けた。
美味そうだったんだよ。フライに茶そばまでついてるんだぞ!てんこ盛りだし!流石A定職の二倍するだけある!
「半分子、で…」
「ん。そうしましょ?」
今までは昼飯泥棒としか思っていなかった男が天使に見える。
もういいや。とりあえず今回だけかもだけど、美味い飯が食えるなら。
上忍の奇行について一々悩んでたら受付なんてやってられないしな。
「いただきます」
「いただきます」
とりあえずやっぱりフライは美味いし茶そばも美味いし、深く考えるのをやめた。
「ごちそうさまです」
「ん。また今度」
今度。…ってことは次があるのか。やっぱりちょっと変わった人だ。
「あーその。今度は俺ももうちょっと弁当がんばります。給料日過ぎたら」
「給料日?」
なんだ嫌味かこの上忍!
「給料日明けの弁当覚悟しといてくださいね…!」
びっくりするような弁当用意してやる!
「はい。弁当ちょっとだけもらうより半分子の方が楽しいです」
にこやかに流された気もするが…まあいいだろう。
無駄にナルトとサスケの弁当作ってた訳じゃないからな!かにさんウインナーとか絶対この上忍が知らないのを見せ付けてやるんだ!
「では、また今度」
「はい」
やる気満々の俺は知らなかった。
上忍が楽しみにしているのが、恋人同士の昼食だってことも、いつの間にやら付き合っているつもりだったってことも。

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適当。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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