とあるおとこのれんあいじじょう(適当)


「あ、止めちゃいました」
あっけらかんというからしばらく驚くことすら忘れたほどだ。
任務は特S。この男であってさえ死を覚悟しなければならないようなランクのものだ。
受付にいてもそこまで高ランクになると普通なら耳にも入らない。
本人の不在で任務についていることを知ることはあっても、その内容についてまで知っているのは里の中枢にあるご意見番や里長くらいのものだ。
それを、知りたくもないのに知ってしまった。
五代目はそういうところ大雑把だからな…。
お前なら大丈夫だろうという台詞に信頼を得られていることを素直に喜べればよかったが、大概うかつすぎるだろうに。
大声で任務に出すの出さないので揉めていたおかげで、その場にいた男がこれからつく任務のランク所か内容まで知ってしまった。
当然機密事項だ。むしろどうして結界を張らなかったんだと泣いて訴えたくなるほどの。
知ったところでどうしようもできない。
そんなもの知りたくもないのに知っちまった俺はどうすればいいんだ。
そう叫びたいのを押し殺すのが精一杯だった。
賭け事以外でこの女傑が取り乱している所をみるのは初めてだったし、任務を受けろとどなるならまだしも辞退しろと主張していたのも理解できない。
あの日、書類を持っていったのが俺でなければ変わっていただろうか。
壁まで震わせる怒鳴り声は今でも耳に残っている。
「お前ばかりが背負い込むこたぁないって言ってんだよ!」
「この目がなくてもこなせるとでも?」
「…ッ!そういうこといってんじゃない!この馬鹿が!お前は任務明けだろう!こっちだってむざむざ優秀な忍削るつもりはないんだよ!第一、今のお前じゃこの任務には出せないね!」
「…だからですか」
「はん!情けない面晒してる暇あったら、とっとと腹括っといで!話はそれからだ!」
ぽんぽんと言い放つ里長に、中忍の俺が口を挟む隙はない。
そのまま姿を消した上忍に気付いたのも、不快だと顔中に大書きした里長に手を差し出されてからのことだった。
「決済だろ。とっとと持ってきな!」
「は、はい!」
慌てて差し出した途端、ひったくるようにそれを取られ、机がみしっと言うほど力いっぱい印が押された。
目的は果たされたと言えばそうなんだが…。
「なんだい?まだ何かあるのかい?」
「い、いえ!その…今の…」
さっきの機密情報ですよね?なんてことは言えない。言わなくても分かっていることだし、青筋を立てたままの女傑にそんなことを言おうものなら一撃で病院送りにされそうな気もする。
たしか就任直後だったか、女性だからといって侮った一部の上忍が、随分と悲惨な目にあったのを目の当たりにしたのは。
一撃で血反吐を吐いた上忍をさくさく治療し、笑顔で「アンタがどう考えていようが、里長は私だ。…下らないことで手ぇ煩わせんじゃないよ!」と凄んだ姿と言ったら…その後粗相をした上忍を責め切れなかった。
「お前なら大丈夫だろう?里を裏切るくらいなら躊躇いなく死にそうだって心配してる馬鹿がいる位だ」
予想に反して明るい笑顔に安堵することが出来たらよかったんだが、不安はその日自宅に帰りつくまで続いた。
…自宅に帰りついたらいつの間にか背後についてきていたらしい男が、堂々と上がりこんできたせいで、不安がることすらできなかったというだけなんだが。
任務はどうしたと問えばあっさり断って見せた挙句、なんだかしらないが妙に側に寄ってきたのだ。
卓袱台の反対側にいたはずが、今は殆ど隣にいる。
近い。近すぎる。こんなに距離が近いと嘘もごまかしも見抜かれそうで怖い。
「五代目も勧めていらっしゃいましたしね。良かったんじゃないでしょうか?」
「…そうね」
少しも嬉しそうじゃなさそうだ。そんなに任務に行きたかったんだろうか。
…たった一人で砦落とすとか狂気の沙汰だと思うんだが。せめて一個小隊でって言ってるのに嫌がってたもんなぁ…。
「とりあえず、その、俺は行かないでくれて良かったと思います。ほらこうして飯も食えますし、なんだったら酒も出しますよ?明日も休みなんで多少飲みすぎても…」
「ホント?」
えらく食いつきがいい。なんだこの人。
「本当ですよ。家にあるモノなんでそう大していい酒は…あ!そうだ!お中元に貰ったのが結構良かったか!」
「そうじゃなくて、イルカ先生はさ、俺が行かなくて良かった?」
必死だ。何か言いたいことがありそうなのは分かるのに、目が潤んでることにばっかり気が取られて上手く言葉が出てこない。
「心配しながらまってるよりそりゃイイに決まってんだろうが」
独り言のようなそれに、上忍が飛びついてきたのだと知ったのは、背中にたたみの感触を感じてからだった。
「嬉しい…!」
「なにすんだアンタ!危ないでしょうが!」
心配してイライラしていたことまで一緒に思い出して、思わず怒鳴りつけてしまったものの、本人には気にする様子がなさそうだ。
とりあえず抱き疲れているのはマズイ。目が潤んでた時点でそのう、人に言えない部分にだな、血液と言うか。ああもう!何してくれてんだこの人!
「あ、せんせ勃ってる?」
「ぎゃあ!?なにすんですか!?き、きづいててもそういうことは言わない!」
「はーい!」
良い子のお返事に一瞬だけ気を抜いたのがマズかった。
「ちょっと待て!どこさわってんだ!?」
「不言実行します。…我慢しすぎて強姦しそうだから任務ばっかり受けてたけど、必要ないみたいだから」
うふふーと頭の悪い笑みを浮かべた上忍は、コレまで見た中で一番かわいかった。
…そのケダモノ染みた瞳以外は。
「ちょっ!いやでも俺が欲しいのは奥さんっていうか俺が下なんですか!?」
必死の主張も不言実行とやらに忙しい男に唇ごと奪われて、服を向かれて舐められて弄られて舐られて…最終的には突っ込まれて声がでなくなるまで喘がされて終わった。
そんな訳で、いつの間にか食われてしまった上に翌日も俺の部屋に居座り、ついでにそのまま住み着いてしまった上忍は、今の所俺の妻を自称しているわけだが…。
「Sランク任務より難しいと思ってましたけど、幸せです!」
…聞こえよがしに里長に報告しているのを知って、今の所自分もまんまと幸せにされてしまっていることに気付いたので、今度の休みは二人っきりで過ごしたいらしい男に付き合ってやることにしたのだった。


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適当。
熱暴走と戦うPCにまけました。
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