理不尽な(適当)


神様。俺はどうしたらいいですか?
「好きです!」
「別れてください!」
「黙れ!俺のほうがうみのさんを幸せにできる!」
「うみの?なんの話だ!俺たちの先輩を…こいつが!こいつなんかが!」
騒ぐ二人を遠巻きにして、誰も近寄ってはこない。
…ここは多くの忍がごったがえす受付所だというのにだ。
自助努力。そんな言葉が頭のなかをぐるぐると回った。
「お願いですから落ち着いて下さい…!」
何で、何で俺は暗部なんかに取り囲まれているんだろう。
闇に紛れ、任務を遂行する。
間違っても真昼間の受付所で、善良な受付職員を囲い込んで、その上意味の分からないことを喚きたてたりなんかしちゃいけないはずだ。
にらみ合う二人の殺気の鋭さに、こんなくだらない物言いをしているくせに、この二人が間違いなく暗部だと思いしらされる。
ありがたいというべきかどうか…一応術は使わないでくれるようだ。
唖然として見つめること数分、しばし続いた言い争いは激しさを増し、ついにどちらともなくぽかぽかと殴りあいだした。
「俺の方が先に告ったんだからな!いくら先輩でも譲れない…!」
「先輩の恋路を邪魔する気か!そもそもこんな中忍だけど、もう二人は恋人同士…くっ!」
「そんなのうそだ!だって俺ずっとみてたもん!先輩もいたけど!」
「殴ったな!このやろう…!」
…どう見ても子供の喧嘩だ。
「いい加減にしろ!」
二人そろって拳骨を落とし、気付けば生徒にするように説教していた。
*****
受付にこんなのほっといたら邪魔でしょうがない。
…そんな訳で俺は二人の首根っこ捕まえてさっさと会議室に放り込んだ。
が。そこまでは大人しかったんだが、二人にいすを勧めて座らせた途端、またすぐぎゃあぎゃあと喚き始めた。
「だ、だから!俺はあなたが好きなんです!」
「はぁ!?」
「黙れ!…おい中忍。お前は先輩のモノだろう?こんな馬鹿にちょっかいかけられてるんじゃない!」
「ちょ、ちょっと待て!…えーっと?二人とも男性に見えますが」
もしかするとその先輩とやらが女なんだろうか。
「え、あ、はい…で、でも!先輩だって…!」
「ふん!だからなんだ!先輩が選んでやったんだぞ!」
もうなにがなんだかわからない。この分だと先輩ってのも男だろう。
…涙が出そうだ。
「誰だよ大体…先輩ってのは…」
「あ、いた」
「へ?」
我ながら間抜けな声だ。
…で、なんでこの人ここにいるんだ?
「…!先輩…ッ!」
「先輩!」
一人は悔しそうに、もう一人は嬉しそうに先輩と呼んだ。
ってことは…この人が?
「カカシさん…アンタ一体何したんですか!」
そこそこ親しい。というか、時折一方的にちょっかいをかけてくるんだが、その後何故か一緒に飯を食うことが多かったりもする。そのときもよく俺のことをからかってきたっけ。
…犯人はコイツか。
「外堀埋めてみただけですよー」
「はぁ?」
何だ今日は。厄日なのか。まともに会話ができないことがこんなにもストレスが溜まるとは思わなかった。
「先輩!俺は!」
「先輩!コイツが!」
一斉に詰め寄る二人に、男はにこやかに微笑んで見せた。
「はいはい。…二人とも帰ってね?」
「「うわぁっ!?」」
悲鳴とともに一瞬で掻き消えた二人に驚く間もなく、男に抱きこまれていた。
「実はそろそろ既成事実も狙ってるんです」
「だから…なにがどうなってんですか!一体!」
やたら嬉しそうなのが癪に障る。こっちはこんなにも混乱して苦悩して…苛立ってるっていうのに!
「ん。ま、こっちの話」
にこりと笑った上忍が、俺の唇を掠め取って行ったのだと気付いたのは、既にその姿が消えてからだった。
「なんなんだー!?」
叫び声はアカデミー校舎を揺るがすほど大きかった…んだそうだ。
その後、手土産を持って詫びを入れに来た上忍が、ちゃっかり俺の家にいつき、なし崩しにとんでもないことになる…ホンの数日前の話。

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適当。
理不尽な上忍。
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