毛布越しのぬくもり(適当)


今日はアイツの誕生日だから。
…家から一歩も出ないと決めた。
望まれて愛されて生まれてきたのに、すぐにその全てを奪われて忌まわしい獣を埋め込まれたアイツに、笑いかけてやることなんてできそうもないから。
毎年この日だけは、なにもかもが面倒で、何もする気になれない。
「なっさけねー…」
乾いた喉から吐き出されるかすれた声で自嘲した。
その間にも膝を抱えて、頭から毛布をかぶって、あの日のことを頭が勝手に再生し続けるのを見せ付けられ続けている。
「もうイヤだ」
そう叫び出したいのに、それすらできない程に全身を絶望に縛られて、身動きさえ取れないでいる。
頬を伝う生暖かい水が不快だ。ソレは俺の弱さの証だから。
…もう、過去の話だ。あの日の事は永遠に変えることができない。
それでもあの日の嘆きを繰り返す俺の頭は、きっとあの時に狂ってしまったんだろう。
今でも俺だけがあの日に取り残されている。
アイツを非難し、いたぶることさえするヤツらは知らないだろう。
俺を狐つきと呼んで蔑みの目を向けている連中より、きっとずっと…たちが悪い。
あいつらは知らないのだ。
俺はそんなことさえ考えつかない程、ただ呆然とし続けているだけなんだってことを。
…たった一人で。
毎年この日は、襲撃を警戒した三代目からもできるだけ外出を控える様、指示を受けている。
頭から毛布を被って、一人で膝を抱えていたからって、誰も文句は言わない。
いい年した男が泣いても喚いても、この分厚い結界の中では誰にもきかれやしないから。
「寝てるの」
…コイツの他は。
「…なんでも、ないです」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら答えても、ごまかし様がないのはわかっていたが、優しい声も腕も今は欲しくなかった。
あの日、永遠に失われた物を思わせるそれに、俺は耐え切れない。
「ふぅん?」
布団から出てこない俺をどうかそっとしておいて欲しい。もうこんなに苦しみたくない。思い出したくない。…欲しいのはもっと温かい…。
遠ざかる気配に安堵しながら、同時に寂しいと思った。
男の奇異な行動は、俺の痛みを一瞬だけとはいえ慰めてくれたから。
護衛を依頼されただけの忍たちは、これまでなら結界の外で静かに…俺に気配をさとられることなく文字通り監視をしていた。
だが、この男は。
結界は緻密で逃れようもないほどに強固であるのに、男の素振りは気安い。
だがその術の冴えよりもずっと、俺の心をひきつけたのは…。
「いいよ。泣いて。…でもほら。こっちおいで?」
温かいその腕。
ぎゅっと抱きしめてくれるから、あの日失った人にするように甘えた。
この日が近づくに連れ、眠りを拒むようになった脳が、うとうとと船を漕ぎ出す。
「…ダメ。だ…」
こうやって甘えさせてくれる手を失ってから、欲しいと叫ぶことさえ忘れていたのに。
…これじゃ、依存してしまう。この温かさに。
「ダメじゃないよー?…むしろ計画通りかな?」
ぬくもりを俺に与える男のくすくす笑いを最後に、俺の意識は眠りの渦に飲まれた。
意識が消える瞬間。
「早く、俺のこと好きになってね?」
体中の骨がが溶けるほど、蜜が滴るように甘い声がそう言った気がした。


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適当ー!
なんかこうのうみそがあれなのでゆるしてください…!
ではではー!なにかしらつっこみだのご感想だの御気軽にどうぞー!

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