バカはしんでも(適当)
涙すら零せないほど嘆き明かした朝に、爽やかな笑顔で挨拶なんかされたら、腹がたつに決まってるだろう?
「ただいまー!もう時間かかりすぎ!イルカ切れで発狂しそう!」
家に飛び込むなり気付けばすっかり服を剥かれてベッドの中。
手の早さからして、間違いなくコイツは俺の恋人だ。
…昨日、殉職した ばかりの。
「あんた死んでも治んなかったんだな」
いつだってこうやって軽口ばっかり叩いて、俺が馬鹿野郎と罵る度に、「馬鹿は馬鹿でもイルカ馬鹿だもん!むしろ中毒?」なんて言い返して笑ってた。
「イルカ切れー!も、早く補給しないとしんじゃう!」
そう。こうやって。
「そうだよな。もうなんでもいいや」
夢だか幻だか妄想だか知らないが、この温かい身体を確かに感じられるのだからそれでいい。
もしかしたら幽霊なんて物になるほど、俺に執着してたってことかもしれないし。
「そうそう!めんどくさいことは後にしよ?」
軽い。軽すぎるほどに軽いんだが。
…失ったと思っていたものが一瞬でも戻ってきたんなら、それに溺れてしまいたかった。
「…いっそ、このまま死ぬまでヤっちまうか…」
そうだ。どうせ一人残されるくらいなら、こいつに取り殺される方がずっといい。
もしそっから先があるんだとしても、一緒にいられるかもしれないし。
ああでも、どっちかって言うとやり殺されるわけだから、腹上死になるのか?
馬鹿馬鹿しいが、俺にはある意味ぴったりに思える。
任務帰りのコイツには、いつだって散々な目に合わされてきたから。
「なぁに?熱烈!…いいよ。死ぬまでやっちゃおう?」
そう、いつもこうやって嬉しそうに笑って、こっちがガタガタになっても貪るのを止めないし、殴ってもへろへろの俺じゃ何も出来ない。
まあ、元気でも階級差ってモノがあるから、効果があるかって言う以前に当たるかどうか分からないなんて可能性もあるわけだが、それはその辺においといて。
「足りないなんて言えないくらいすればいい」
せめてもの餞。…っていうより、俺はコイツがいないと生きていけないから。
快楽に溺れて逝けるなんて、忍としてはありえないほど幸福に違いない。
「りょーかい!もう大好き!イルカせんせ…!」
しがみ付くというよりぶつかってきて、そのままおもむろに人の足の間に潜り込んでむしゃぶりついてくる男は、まるっきりいつも通り過ぎて、涙も疾うに乾いてしまった頬を舐め取って笑っている。
「あぁっ!」
「溜まってる?溜まってるよね?浮気してないよね?俺だけのイルカせんせだよね?…誰にも、渡さない…!」
そうだ。誰のものにもならない。俺はずっとコイツのもので、コイツは俺のモノだから。
「ん。俺も、誰にもやらない…!」
そう、たとえ死にだって渡したくなんか無い。
だから…これだけ俺を欲しがってるんだったら、俺のために戻って来ればいい。
「うん。…だいすき…!」
笑顔は子どもみたいなのに、その瞳は欲望で輝いていてぞくぞくした。
…もういい。何も考えたくないから。
「早く…っ」
「ん。あげる。一杯気持ちよくなって…?」
そうして、溶け合って、いっそこのまま消えてしまえたらいいのに。
熱を吐き出しても吐き出しても治まらなくて、意識が消える瞬間までこの男を欲しがったのだけは覚えている。
*****
「おはよ」
ああ朝だ。…でも昨日は確かに最低の報せを聞いて、最低の気分で目覚めたはずなのに。
「なぁに?…ああそうね。起きるの無理か。いっぱい欲しがってくれたもんねぇ?」
ふふ…と色悪な笑みを浮かべる男は、確かに俺の…。
「え?あれ?…つっー…!」
「ほら。寝てて?俺はお休みだし、なんだかしらないけどイルカせんせもアカデミー休んでイイって連絡来たよ?誤報がどうとか」
「へ?」
誤報。…つまり、この能天気に笑う男は決して幻でも幻覚でもなく…。
「ま、丁度いいタイミングだからよかったけど!ご飯もうちょっとで出来るから、食べたらまた一杯しようね!」
いつもの、馬鹿な俺の恋人だってことだ。
「…もうできない。朝飯は米でいいけど、昼飯はらーめんがいい。あと…あとで一発殴らせろ!」
「えー?ま、いいけど!サイテーの任務だったんだけどさ。イルカせんせが待っててくれるからすっごく頑張っちゃった!」
頑張ったのは別の所だろと思わないでもなかったが、俺の脱力した様子にも気付いているのかいないのか、いつも通り男はうっとりした瞳でまくし立てるをの止めなかった。
「ちゃーんと俺をねぎらってくれたからもうチャクラもあそこも全開だしね!」
「…あー…なんだよもう…」
がっくりきた。それはもう最低の気分を味わったってのに。
昼飯はらーめんなんてねだってみたけど、どう考えても無理だな。
…ホッとしすぎて絶対今日は立てないから。
「じゃ、早速…俺のお膝でご飯食べてね!」
今日も能天気にいつも通りの笑顔で笑う男に、いつも通り効きもしない拳をぶつけて、それからその唇を塞いでやった。
にへらっと笑み崩れた男には、後で色々言い聞かせておこう。
とりあえずは…その調子で何があっても帰って来いってことだけでも絶対に。


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実はカカチが誤報を知ってた上での尚且つこの行動だったりして。
いちゃらぶー!!!
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