ラーメン最強伝説(適当)


どんぶりにはラーメン。大皿には炒飯。そしてそれを食い入るように見つめている男。
…ここは俺んちのはずだが、どうしてこんなことになったんだろう。
「おいしそうだね」
「はぁ。まあ。一楽のラーメンは絶品ですし、炒飯も美味いです」
「ふぅん?あの店出前やってたんだ?」
暗部…がどうして俺の食卓に?しかもいつの間に湧いて出たのかすら気づかなかった。
毒食らってぶっ倒れて、自分で食い物を買いに行くのも億劫だからと出前を頼んだところまではいつも通りだったはずだ。
一楽のラーメン食ったらどんなときでも元気が出る。炒飯もつけたのは、具合が悪いときはしっかり食わないと駄目だって言う父ちゃんからの教えに従っただけだし、この人に何一つ迷惑をかけちゃいない。…よな?
「…あ、あの。俺は、その、どうして」
「伸びちゃうし冷めちゃうから食べなよ」
「あ、はい」
お前のせいだろという叫びは飲み込んで、とりあえず箸と蓮華を手に取った。
俺の幸せランチタイムを邪魔した男の意図なんざ知るか!暗部がなんぼのもんだってんだ!ラーメン食ったら四つに畳んで…は無理だろうから、救援って呼んだらきてくれるんだろうか。無理だよなー…。
限りなく悲しい気持ちになりながら食っても、やっぱり一楽のラーメンは美味かった。テウチさんは出前頼むと麺硬に仕上げてくれるから、ちょっと時間たっちまっても美味いんだよな。麺がのびる前に綺麗に平らげ、それから炒飯の方にも取り掛かった。
わけのわからん暗部…のようなヤツのせいでちょっと冷めちまってたけど、もちろんパラパラで、脂っこさもない。
ああなんて幸せなんだろう!コイツさえいなければなぁ!
餃子も欲しかったが予算の都合上我慢した。…けど、俺がこうやって出前を頼むときは大抵毒食らった時だってばれてるせいか、あやめちゃんがお父さんからって餃子の無料券くれたから、次は是非にも餃子を食おう。
これだけ食って後は寝たら治るはずだからな!
「ふぅ!美味かった!」
「そ?ま、元気そうでなにより」
「…あのーご用件は?」
出来る限り穏便にお引取りいただきたい。遣り合っても勝てないのは側にいられるだけで背筋がぞわぞわするから分かる。気配がこんなにも薄いのに、存在感は強烈で、これじゃ落ち着いて食後のだらだらタイムを楽しめそうにもない。
茶の一杯でも入れるべきだろうか?今更か?それに茶なんかだしたら居座るかもしれん。それにそもそもうちにまだ茶なんてものがあっただろうか?貰い物のお茶は大分前に切らしちまったような気がする。それから買ってきたって記憶がない。ここんとこ任務詰めだったからな。普通に水だけでも生きていけるし。…だからって客に水は駄目だろ。客かどうかって問題はあるけど。
びくびくしながらとりつくろった笑顔で聞いてみたら、極自然に額に触れてきた。
「んー?まだちょっとチャクラが乱れてるけど、ホントに食って治す人?一応さぁ。俺が隊長だったから、アンタが部下庇ったって聞いて詫び入れに来たんだけどね」
「ふえ!え!いえ!え?そんな程度で?いやだって別に仲間ですし。あの人元気ですか?」
そういや庇ったっちゃ庇ったな。って言っても、毒のついた千本叩き落しついでにちょっと突き飛ばしちまったし、それでもよけきれないって分かったから庇ったら一本だけ食らっちまっただけだし、ラーメンも炒飯も食ったから大丈夫なのに。
「元気元気。ちょっと落ち込んでるけどね。中忍に庇われるまで気付かなかったなんてーって」
「…そうですか…」
なりたてとはいえ中忍なめんなよ…!という魂の叫びはとりあえず胸の内だけに止めておくことにして、まあ無事ならいいや。深く考えるのは止めよう。危険だ。
「んー?お礼しようと思ったんだけど」
「いいえ。結構です。特別何かしたわけじゃないので。お気になさらずお引き取りください」
ちょっと最後の方は本音が駄々漏れだったにしろ、そんなに失礼な態度じゃなかったはずだ。少なくともいきなり家に上がりこむヤツに対しては、十分だよな?
それなのに、いきなり視界が反転した。
食ったばかりの腹の上を尖った金属製の爪が撫でる。ええと、これはその、押し倒されてるってのはどういうことなんだ?
「アンタかわいい」
「気のせいですよ?」
「食っていい?」
「お断りします。ええ。謹んで」
「えー?」
「えー?じゃありません!食ったばかりなので腹の上に乗らんでください!吐いちまったらもったいないでしょうが!」
「…そ?」
おお?予想外にあっさり避けたぞ?この隙を見逃さずにそそくさと寝室のドアを背に取った。いざとなったら逃げ込もう。
「ええと、なんでもいいですがそっとしといてください。後は寝れば治るはずなんで」
「そーね。アンタ丈夫そうだし」
「あー…ええ。割と」
「ま、いーや。今日のところはこれで」
「え?」
「じゃーね?」
おお?いない。いないってことは…当面の危機は去ったってことじゃないのか。もしかして。
「で、も、今日のところはって…!?」
不穏な台詞だ。俺の幸せラーメンタイムを脅かす気配をひしひしと感じた。
…今度邪魔したら一楽のラーメンの美味さをもっと執拗かつ具体的に語ってやる…!
前にやったときは普通に美味いってことを伝えたかっただけなのに、同僚がもう助けてくれっていいだしちまったからな!美味いのに!
「…皿洗って寝よう」
流し台でさっさとどんぶりと皿を洗い、布団に潜り込んだ。
全部夢だったことになればいいのにと願いながら。

…翌日、快気祝いに一楽に行ったら男が待ってたとか、気長に口説くことにしましたと宣言されたとか、ラーメンそれもオプションたっぷりのやつ!を奢ってもらえて嬉しかったとか…いや!だがしかし!油断はしてないぞ!
とにかく、一楽のラーメンの素晴らしさについて語る出来事が、俺にはまた一個増えたことを追記しておく。



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適当。
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