おいかけっこ19(適当)



「さて、の」
「それでは失礼いたします」
「待て」
呼び止められてしまった。あの女を消してこようと思っていたというのに。
…時々彼女に会いにきていて、そのときから気に食わなかった相手だ。
殺気を向けられるのはあの女に限ったことではないから気にもならない。他人が家にあがりこんでいるという事態にも彼女のおかげですぐに慣れた。決して立ち入らせたくない所には、立ち入らせないようにしておいたし、なによりその方が任務が楽だと気がついた。
だから、そんなことはどうでも良かった。

彼女が、笑う。俺以外に。

それだけでも耐え難いというのに。親しげに触れて、誰よりも近くにあるべきはずの彼女の隣に、当然のようにあろうとする。
許せる訳がない。…彼女が望まなければ、とっくの疾うに肉片に変えてやっている。
あの女が来た後は、我慢したことを褒めてくれたから、それで仕方がなく見逃してやっていたにすぎない。
ずっと我慢を強いられていたことに、俺は腹を立てていたのかもしれない。今更だが。
この上、カカシの邪魔までするなら消してしまうのが一番だろう。
早く話が終わらないだろうか。カカシが戻らないのに任務に行く気などない。
里よりもカカシだ。カカシは彼女が残したものだ。最も優先すべき存在だ。
番を得てこれからはあの子どもと過ごすというのに、障害物は速やかに排除しなくてはならない。
「…任務には、いけません。カカシが戻るまでは」
そういえば、里の命令に逆らったのは、彼女の病室に入るなと引き離されたときと、カカシを任務に出せと命じられたときくらいのものだ。そのせいか、三代目が随分と渋い顔をしているのは。
ため息と共にキセルからゆらりと煙が立ち上っている。この匂いは嫌いではないが、任務に出るには不向きだ。特徴的な匂い。甘いようで、少し苦味を帯びたそれを、時々ではあったが彼女から感じる事があった。
重用されていた、らしい。良くは知らないが。
家から出さず、他の誰にも触れさせたくなかったが、里長と話したい事があると言われればそれに逆らえず、仕方なく側で彼女が里長と話すのを聞いていた。彼女を奪われるようならいつでも里を抜けるつもりだった。
厄介な戦場はいくらでもあり、それらは俺が出る前に、彼女の元へ知らされる。そうして彼女が練った策で、俺が戦う。
匂いが移るのを嫌って風遁で空気を動かして、それから当たり前のことを話すのを聞いていた。
できるか、と聞かれれば、当然諾と答える。彼女の考える策は俺と良く似ていて、それはとても心地良かった。俺を過不足なく理解し、過信もしなければ過小に評価することもない。俺を己の手足のように使えるのは彼女だけだった。
そんな時間を過ごすのは楽しかった。だから家に上げるのを許していただけだ。
…この匂いは彼女と二人きりで過ごせなかった時間を思い出させる。
少しずつ、苛立ちが押さえきれなくなりつつある。カカシの邪魔をさせたくない。
「サクモよ。うみのを傷つけることは許さん」
「…そうですか」
上忍か、そういえばあのくノ一も。それなら記憶操作が手っ取り早い。幻術への耐性は高そうだったから、薬剤を併用した方が簡単だろう。側にいたあの子どもに良く似た男を利用してもいい。術式を仕込んで持ち帰らせれば、さほど難しいことではないだろう。
いくつかの処方を思い出して検討し始めたところで、念を押すように低い声で命じられた。
「良いか?精神にも肉体にも、一切の手出しを許さぬと申しておる」
「御意」
命令ならば仕方がない。だが何故邪魔をするのだろう。まさかカカシの伴侶を奪うつもりだろうか。しかたがあるまい。カカシの方に守護に忍犬と術を仕掛けるか。反撃する分には構わないだろうから、カウンター用の物を重点的に掛け、ついでに対侵入者用の結界であの女を入れないようにする。
後はあの子どもを連れ帰って閉じ込めてしまえばそれでいい。カカシと違って、術も使えそうになさそうな子ども相手だ。さほど難しくはあるまい。
それには…ミナトだ。
「里から出ることもならん」
「はい」
空間の歪みからして時空間忍術を使った可能性が高い。
俺なら跡を追えるが、命令に背いてまで追うよりも戻ってきたところで捕獲した方が成功率が上がるだろう。それに、犬を使ってもミナトの方が早い。
戻ってすぐにカカシに守護の術を仕込んで二人とも連れ帰れば問題ない、な。
ミナトは味方につくだろう。カカシのことを気に入っている。
すぐに家に戻ろう。彼女が残してくれた書物にも何がしかの参考になるものがあったはずだ。家に残された書の大半は、俺の見た術を彼女が書きとめたものだが、残りは彼女がカカシのために残したものだ。書き写している間は俺の話す言葉を聞いていてくれるし、膝の上に頭を乗せてもらえるし、彼女をずっと見ていられる。だから任務で新しい術を見たときはすぐに彼女に伝えていた。そこからの応用には、ミナトも協力してくれていたようだし、十分実用に耐えるモノばかりが残されているはずだ。
「それでは」
「…お主は、そこで待機しておれ」
「何故ですか?手がかりを探したいのですが」
家に戻らずともそれなりの手はあるが、多少やり辛い部分が出てくる。
プロフェッサーと呼ばれただけあって、その目を欺くには手間がかかる。
とはいえ、やってやれなくはないのだが。
彼女が教えてくれた。俺には全く興味のない書物を餌にするか、それ以外にもいくつか手がある。さて、どうするか。
「ミナトが追えぬとでも?あれはカカシの師でもあるのじゃぞ?」
そうだな。確かにそうだ。カカシの逃走を手助けしてくれる可能性も高いが…もしかすると今にも戻ってきてしまうかもしれない。
二人が飛び出していった時点で、すでにある程度の仕込みは済んでいるとはいえ、万全を期すにはもう少し時間が欲しい。ミナトが味方についたからと言って、油断は出来ない。
あのうみのと呼ばれていたくノ一と男が、ここへ戻ってくるまでの時間を使えると思えば…。
「ここで、待機させていただきます」
「心配するな。すぐに戻るじゃろう。…イルカには説教じゃが…カカシには場合によって処分を下す。アヤツはもう一人前の忍びじゃからな」
勝手に忍にさせておいて、処分か。少しでも傷つけられるようならどうしてくれよう?
知らず知らず殺気を滲ませていたらしい。里長が再びため息をついた。
「…アヤツを独房なんぞに入れても無駄じゃろう。どうせ抜け出しおる。任務にだせばイルカを連れ出しかねんし、いっそ記憶を消したいくらいじゃが」
「どうして」
邪魔をするのか、ならば。
音もなくチャクラ刀を抜き、三代目の首に付きつけても、護衛に潜んでいるはずの暗部は降りてこなかった。
それもそうか。潜んでいる部下たちが、俺を止められるはずがない。身動きすらできないでいるだろう。
「落ち着かんか!仕様のないヤツじゃ!…カカシのことじゃ、そんなことをしても無駄じゃろうて。イルカには両親がおる。引き離すわけにはいかん。それを納得させるのが先じゃ」
引き離すなだと?それではカカシが側にいることもできない。

やはりアレが邪魔だ。

殺してしまうのがまずいなら、あの子どもの記憶を奪うか。
…だがそれはカカシが怒るかもしれない。どちらにしろ、カカシを傷つけることは許さない。
「任務になら俺が行きます。カカシの保護者は俺だ。傷つけないと保障してください。そうでないなら命に代えても…止める」
「悪戯などめったにしよらんが、たまにとんでもないことをしよる。…カカシは母親にもよう似たの。それからお主にもそっくりじゃわい!」
悪態ついでに煙を顔に吹きかけられた。
思わず眉根を寄せると、古だぬきとも称される老爺はカッカッと豪快に笑った。
「…なにか?」
「イルカをくれてやるかどうかは、アヤツ次第じゃ。お主のときは自ら望んでおったから許した。が、今回はそうはいかぬぞ?」
許し…そんなものはいらない。邪魔をするものは排除すればいい。今までもそうしてきた。
だが、そうか。あの子どもが泣けば…カカシが傷つく。
「そうですね」
俺ができることはなんだろう。
殺さずに、傷つけずにあの子どもを閉じ込めるにはどうしたらいいだろうか。
想像する。あの子どもがカカシの側で笑っているのを。
彼女のように。
それはきっとたまらなく幸福で、満たされるに違いない。
一度だけ、彼女が泣いているのを見た事がある。胸が痛むばかりでどうしていいかわからなかった。あれから、一度も泣き顔をみることはなかったが。
カカシにそんな思いをさせたくはない。
空間の歪みを感じて振り返ると、相変わらずすがすがしい笑顔のミナトが、カカシとあの子どもを抱き上げて立っていた。
「サクモさん!ただいまー!あ、三代目。すごいんですよ!カカシ君!ほーら!こんなモノまで見つけて…」
「父さん。ただいま!」
「じいちゃん!これじいちゃんのな!あとカカシの父ちゃんただいま!」
楽しそうに笑っている。やはり引き離させるなど到底許せない。
ミナトの様子からして勝算は十分にあるだろう。
「うみのを呼ぼう。大分心配しておった。すぐに来るじゃろうから、覚悟を決めておけよ?イルカ。…カカシも」
「うっ!はぁい…やっぱ怒られるよな…うー…母ちゃんの魚と薬草とかもとってきたんだけどさ…後じいちゃんのもすっげぇ薬草だかんな!後で使ってみてよ!」
「イルカは俺を庇ってくれただけじゃない!だから俺が!」
「いいって!つい逃げちゃった俺が悪いんだし、カカシはさ、ちょっと恐いかもしんないから、ちゃんと父ちゃんのとこにいろよ?あー!カカシの父ちゃんもいきなり武器とか駄目だかんな!ここはちゃんばらごっこしちゃ駄目な部屋なんだ!」
そういえばチャクラ刀を抜いたままだった。鞘に収め、それから帰ってきたカカシに術を仕込む。
「父さん?これ…?」
「大丈夫だ」
十分とはいえないが、これである程度対策はできた。
さて、ミナトはどう動くつもりだろうか。
白い鳥が文を咥えて飛んでいく。あの女もすぐに戻ってくるだろう。
静かにチャクラを研ぎ澄ます。
一瞬で片をつけるために。


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適当。
危険生物はナチュラルに人権無視。
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