箱の中(適当)



「いい子で待っててね?」
箱詰めされながらそんなこと言われてもだな。どうしたらいいんだよ。
猿轡までされて、手足を縛める縄…もといリボンにはチャクラ封じの文字がしっかり書き込まれていて、身動きなんてろくにできそうにない。
大体なんで箱。しかも結構みっちり詰められてるから居心地が悪いことこの上ない。
狭いところは嫌いじゃない方だ。押入れの中で寝るのなんて最高だと思う。
…もしかしてそれを話したからなんだろうか。この仕打ちは。
「んぐ!うー!」
言葉にはならなくても文句を言っていることくらいは伝わるだろうに、何故かほうっとため息をついて男は箱に手をかけた。…それもうっとりと目を細めて俺を撫でながら。
「かーわいい。もうどうしよう!」
「うー!うー!」
かわいいってなんだ!どうしようはこっちだ!
そう怒鳴りつけたいのに必死の抵抗も空しく箱の蓋は閉ざされてしまった。
おいおいおい。これ、任務だよな?頼むからそうであってくれ…!
任務ならいつかは終わりが来る。囮かなんかにされるんだとしても、少なくとも解放される可能性は残されているはずだ。 だが違和感がありすぎる。これは多分任務じゃない。
ってことはだな、今現在の俺の状況としては、上忍の家に連れ込まれた挙句に謎の箱に詰め込まれ、体の自由を奪われている。
相手は凄腕の上忍で、逃げるのはほぼ不可能に近い。
って…おいおい!上忍にとっちゃちょっとした悪戯なのかもしれないが、最悪じゃねぇか!
「うー…」
むやみやたらと悲しくなってきたのは、この人は上忍なのに階級を鼻にかけないいい人だと思っていたからだ。
飯を奢ってくれるのは…まあよくある話だけど、割り勘にしてくれっていったら、時々は奢られちまうけど基本は中忍の懐の痛まないような店にしてくれた。
それに俺の話をちゃんと聞いてくれて、子どもたちのことを大事にしてくれて…だからこれからもいい関係でいられると思ったのに。
それなのに、人をおもちゃみたいに扱える人だったんだ。
ぐずぐずしながら箱の中で過ごして、そうして気付いたら眠ってしまっていたらしい。
目が覚めたのは箱の蓋が開いたからってだけじゃなく、大きな音がしたからだった。
目覚まし時計だろうか。機械的な甲高い音がどこか箱の外からして、慌てて身を起こそうとした。…まあ無理だったんだけどな。縛られてるし。
もがいて、頬がぱりぱりしてそういえば泣いたんだっけと思い出して、これから何が起こるんだろうと怯えた。
そしたらすぐに箱が開いた。覗き込んできたのは気配からしてカカシさん…いや、はたけ上忍みたいだけど、逆光で顔は良く見えない。
チャクラが使えないとこんなにも不便なんだと思い知らされる。普段息をするように使っているものがないと、こうも不安に思うものなのか。そういやしょっちゅうチャクラ切れを起こすというこの人は、いつもこんな気持ちになってるんだろうか。
不安で、出口が見えなくて、もがくしか出来ないでいる。この最低の気分に。
「誕生日プレゼントありがとうございます!」
だから、朗らかにそう告げられたとき、何を言われたのか理解できなかった。
誕生日プレゼント…そんなものを贈った覚えもないし、第一誰の誕生日なんだよ。俺のじゃないし、そういえばこの人と飲んだときに誕生日は秋だって聞いたような…?
「ぷは!う、げほっ!な、なにしやがんだ!」
猿轡が取り外されて、呼吸が楽になる。
…思わず悪態をついていた。
「俺、誕生日なんです」
「は?え?あ、ああそれはおめでとうございます」
そうか。この人誕生日だったのか。酒の一杯も奢ってやりゃ…って。待て待て待て。こいつは昨日までの優しい上忍じゃない。人を玩具にして弄ぶようなクソ上忍だ。冷静になれ!うみのイルカ!
…いやもう思わず素で祝いの言葉なんていっちまったから手遅れか…。
「自分へのプレゼントっていうのができたんですよね?最近?」
「へ?」
えーっと。そういえば最近くノ一クラスの先生方が、自分へのご褒美―とかやってるな。
で、それがどうしてこうなるんだ?
この人、今まで任務ばっかりで普通に遊んだことないから、俺で遊んでみたくなった…とか?かくれんぼにしてはタチが悪すぎるが。
でも俺を適当にどうこうしたかった訳じゃない…んだよな?
「というわけで、俺へのプレゼントありがとうございます」
「なにがとういうわけなんですか…!?」
「え?イルカ先生が」
「俺が?」
「俺のプレゼントです。末永くよろしく」
にこーっと屈託なく笑う。この顔は結構気に入っていた。普段は何考えてるかわかんねぇ顔してるのに、こういうときだけふっと幼くなるんだよな。
だから、この人と一緒にいるときはついつい我侭を聞いてあげたくなって…。
ってちょっとまて?どういうことだ?
「すえ、ながく?」
「ええ。ま、俺が生きてる間だけってことになるんで、短いかもしれませんが」
またそういうことをいいやがる!
「なにいってんですか!そう簡単に生きるのを諦めるんじゃありません!」
「はぁい」
幸せそうに蕩けそうな笑みを浮かべられて、思わず言葉につまった。
そうか。そんなに嬉しいのか。俺が。
…なら、いいか。
「…俺で、遊んだ訳じゃないんですね?」
「遊ぶって?誕生日プレゼントは箱に入れなきゃいけないし、誕生日の前に他の奴らに持っていかれたら嫌だから先に箱に入ってもらいましたけど?これから遊びますか?何して?」
駄目だ。全然分かってない!
…しょうがない。面倒みてやろうじゃないか。
「誕生日。おめでとうございます」
「はい。どーいたしまして」
にへらにへらしてても、きれいな顔がちっとも変わらないのが腹立たしい。顔に締りがなくったって、顔がよければ様になるんだな。
「色々いいたいことはありますが、お祝いしましょう」
「お祝い?」
「ケーキとか肉とか肉とかごちそうです!」
「へー?」
どうやらよくわかってないみたいだが、とにかく今日は祝い倒してやる。
それから、人はお祝いにならないとかそういうことも教えて、常識ってもんを身につけてもらわなければ。…時間はとてつもなくかかりそうだが。
「とりあえず寝ましょう。起きたら買出し!付き合ってくださいね!」
「はーい。…ごちそうならイルカ先生がいいなー?」
「俺は食いもんじゃありませんよ…?」
なんかまだ寝ぼけてるな…。任務続きのくせにこんな馬鹿な真似するのに夜中まで起きてるからだ。たらふく食わせて、昼寝もさせよう。
「うーん。ま、お祝いってヤツも楽しそうですし、その後でまた」
「はいはい。いいから寝ますよ?ほらちゃんと肩まで布団はいんなさい」
「寒いからイルカせんせももっとくっついて?」
「せまっくるしいでしょうが…」
「いいからいいから」
後からぎゅっと抱き付かれると、唐突に眠気が襲ってきた。
窮屈だが野営するよりマシだし、なんとかなるだろう。
「おやすみ、なさい…」
「ん。おやすみなさい」
緩やかに眠りに落ちていく最中、小声で今晩は寝かさないからしっかり寝てねとかいうわけの分からん台詞が聞こえた気がしたが、記憶には残らなかった。


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適当。
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