王子様(適当)


「うーん?」
さてどうしようか。この人。
帰還中とはいえ任務中は任務中だ。
この人がここで転がっているのももしかすると任務かもしれない。
…でもなー?人としてマズイよな。こんな状況でほっとくのは。
意を決して気配を隠さずに側に近寄った。
気配を感じとる余力があるなら、俺が誰かも多分わかってくれるはずだ。
手負いの上忍に下手に近づいて、反射的に攻撃なんかされたらひとたまりもないからな。
幸い攻撃はされなかった。
…というかだな。こんなに間近にいるってのに、反応のひとつもないってまずくないか?
「生きてますか…?」
生きているなら手当てをしなくちゃならない。
死んでいるなら、本当にこの人が俺の知っている上忍かどうか確かめなきゃならない。
…死体のフリして他里に潜り込む連中ってのは、悲しいかな存在する。多くはないが少なくもないそいつらが、結構な被害をもたらすのだ。
木の葉で他里を諜報しろって話になったって、そんな手はまず使わないだろうな。
情が深い里だと知れ渡っているお陰で依頼も多いし、信頼も厚いとはいえ、その手の策に利用されるのは不愉快だ。
だが今回は。
できれば、そうあって欲しいと祈っている自分がいる。
信じたくない。…知り合いの死なんて。
甘ちゃんといわれようがなんだろうが、いやなもんはいやだ。
誰かを失うとき、自分の中の何かも確実にかけて壊れてしまう。
他の痛みには慣れる事が出来た。お陰で背中に大穴開いたって、ラーメンくいにいけるくらいには強くなった。
だが誰かを失う痛みには、幾度繰り返してもなれる事が出来ないでいる。
匂いを嗅いで、気配を探って、どうやら毒じゃなさそうだってことを確認してから傷口を改めるためにアンダーに手をかけた。
腹部を一閃した傷を見る限り、深さは内臓までは達していない。だが出血が酷い。…今もまだ止まっていない。それはつまり。
「生きてるってことだよな…!」
間に合うかもしれない。失血が続いているのはありがたくない話だが、息があるなら木の葉に程近いここならあるいは。
式を飛ばして服をひん剥いて、チャクラを練った。
「…くそ…!止まれ!」
医療忍術は正直言って難しい。適正ってものがあるからだ。チャクラコントロールは人より優れていると評価されちゃいるが、結局、身につけられたのは初歩の初歩に留まっている。
その初歩の初歩…つまりは失血を止める術ですら、任務帰りの俺には相当な集中力が必要だった。
「う…」
低く呻く声。…まだ生きてるんだから、絶対に助ける。
じわじわとふさがる傷に、どうやら一応は出血が止まったことを知った。
「造血丸…あと…あった!兵糧丸と、あと…」
ありったけの丸薬を取り出して、飲めないのが分かってるから自分の口に放り込む。
水筒は実はちょっと前に水辺で補給したばっかりだから、たっぷりあった。
薬を飲ませたら傷口も拭かないと。
「失礼します!」
鼻をつまんで口を開かせ、喉の奥に薬を放り込む。
口の中も多少冷えてはいるが、まだ暖かいことに安堵した。
思ったよりは失血していないのかもしれない。
飲み込んだのを確認してから口を離す。即効性を目指した特製品だから、多分すぐにも効いて来るはずだ。意識があったらまずさにさけんでたかもしれないけどな。俺が作ったものなんで味は二の次だ。
あとは担ぐか救援を待つかだが…。
悩んでいる俺の前で、意識を手放していた男の瞳がゆっくりと開いた。そして。
「王子様…」
「え!?」
そうしてそのままもう一度閉じられた瞳に、どうやら寝ぼけているらしいと判断した。
早く救援来てくれよ…!動かすのが恐いんだよ。俺の技術じゃ表面塞ぐくらいしかできちゃいないかもしれない。
「うみの中忍ですね!負傷者は!」
「ここです!お願いします!」
涙目になったときに舞い降りた白衣の彼らは、浮ついた同僚がこの間言っていたみたいに、冗談じゃなく天使みたいに思えた。
*****
「ありがとうございました」
頬をピンク色に染めて、手土産らしきでかい包みを持って、上忍が俺の家の玄関に立っている。
つまり、彼は助かったのだ。
連れて行かれてから情報が全く入ってこないから恐くて仕方がなかったんだが、よかった…!
「怪我は!具合はどうですか!」
「もうすっかり元気です。だからお礼と、それから…」
なんだ?途中で黙るって…やっぱりまだ本調子じゃないんだな。
「上がってください。お茶くらいなら出せますから」
「は、はい」
そんなに緊張しなくてもとって食ったりしないんだけどなぁ。
不思議に思いながら家に上げた俺が、助けた男から王子様と出会えたので運命だと思いますとか訳のわからないことを言われた挙句に押し倒されるのは、その数分前のことだった。
「王子様のキスで目覚めて結婚するんです!」
イチャパラを持ちあるいている男が、最近サクラから借りたとかいう少女マンガを読んでいたのは知っていたが、まさかこんなに影響を受けやすい人だったなんて。
しかも押し倒す所まで一緒らしい…。何を読んでるんだ。最近の女の子は!
「王子様かどうかはわかりませんが、意識のないあなたにそのー…薬を飲ませたくて」
「はい。ずっと好きだったんで、すっごく嬉しかったです!」
言葉通り踊りだしそうな笑顔全開で、そのまぶしさにくらくらする。
腰の痛みや尻の違和感にもふらふらするんだけどな。
「…王子様とは末永く幸せにってのも一緒なんですかね」
「そうですね!任せてください!」
頼もしいお姫様もあったもんだ。第一なんで俺が突っ込まれたのに王子様なんだ?
…ま、あ、その。生きてて良かったと思った瞬間、余計なものにまで気づかされていた俺としては、この状況はある意味良かったのかもしれない。
引き絞られるような胸の痛み。冷えていく体に感じた恐怖は、確かに大事な人を失うときと一緒で。
だから。いいんだ。俺が王子様だろうが、王様だろうが。
「それなら、いいです。…俺も全力でがんばります」
「はい!」
うわぁ幸せーなんていいながら胸に懐く男を抱きしめて、まあこんな始まり方もありかもしれないなんて思ったのだった。


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適当。
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