ケダモノ(適当)


今日も上忍は猫のように長々と寝そべってごろごろとくつろいでいる。
それも、俺の部屋で。
ソファの上で伸びなんかしている姿を見ると、ただのおっさん…には見えないんだよなぁ…。
これだから外見のいいやつは!全く!
自分が同じコトをしたときに、教え子にものすごく嫌そうな顔でおっさんくさいってばよと言われたことを思い出してしまった。
いいじゃないか。自分の家でくつろぐ位!
まあ子供からみりゃ一回り以上年上の自分は、十分おっさんなのかもしれないけどな…。
そんなんじゃ嫁さん来ないとまで言われて落ち込んでたら、火影になったら紹介してやるなんて大見得切ってくれたので笑い話にできたはずが、どうやら情けなくもひそかに引き摺っていたらしい。
有り余る長い足は無造作に投げ出されているだけだというのに、随分と様になっている。
ここが狭くて古くて、忍専用なだけあって壁が厚くて家賃が安いということ以外はそう大した取柄もないマンションだってことを忘れそうだ。
毛並みのいいこのイキモノが、ケダモノだということも一緒に。
「アンタ任務はどうしたんですか?」
随分と平和そうな顔でまったり過ごしているからついつい見過ごしがちだが、こいつはこれでも凄腕の上忍だ。
以前はこの暢気な態度に誤魔化されていたが、流石に一度酷い目にあってからは学習した。
こういうときこそ危険なのだ。
さんざっぱら人に飯をたかって腹を満たし、今はただ暢気さの塊のような顔をしていても、全ては見せかけにすぎない。
「んー?終わったよ?報告書受け取ったでしょ?」
そうだ。確かに報告書は帰宅する前に受け取った。
終了間際に提出しに来て、俺と一緒に帰るのが当たり前だって顔でほこほこついてきやがった。
これが計画的じゃなくてなんだっていうんだ。
確実に俺に集る気だってのがわかっていても、受付には常に少なからず人の目がある。
上忍の、それも丁寧な誘いを無碍にした中忍などという話にでもなれば、大騒ぎになること請け合いだ。
その胡散臭さにしばらくだまされていた身としては、周囲がどういう目で俺を見るかなど簡単に予想できた。
この男は最低なことをしても笑顔でいられる。それが上忍だってコトを誰もが忘れるほど自然に。
上忍師に据えられてなおその手の任務が回ってくるのは、実力のせいもあるがこの自然すぎる二枚舌とハッタリのせいじゃないだろうか。
…受付でこの男から報告書を受け取った時、俺もこの男に渡したものがある。
チャクラに反応して文字を浮かび上がらせる一枚の紙切れ。
火影不在の際には不自然でない方法で任務内容を知らせることが出来るから、この方法が何かと重宝されていたのは事実だが、いつからか火影がいてもいなくても、この男任務を渡すのは俺の役目になっていた。
その程度の我侭なら二つ返事で了承するだろうことは理解できても、とてもじゃないがありがたいとは思えない。
中身など知りたくもないし、みたこともない。ただ任務があることを知っているだけだ。
「…そっちじゃない方は」
「ひみつー」
この男がいくらちゃらんぽらんでも任務だけは別だ。
すでに任務をこなしたなんてのは流石にありえない。…はずだ。なにせ受付からこっち、延々とくっついてきてたからな。もしかすると深夜にでも発つつもりかもしれない。
俺にわかるのは、この男にはどうやら出て行く気がないらしいということだけだ。
飯はもう済んだ。上がりこんできた男に餌付けするのも癪だが、食わせれば帰ることも多いのでそっちに賭けたのだ。
特にこんな日は夜の任務に間に合わせるためか居残ることの方が少なかったから。
「俺は、寝ます」
「そ?じゃ、シよ?」
「お断りしますアンタは好きにすればいいだろ?花街でもどこでも…女に不自由してないでしょうが」
そうだ。華々しいうわさにたがわず、この男には常に女の影がチラついていた。
好きだの愛してるだの、しだれかかる女たちの熱っぽい囁きは耳が落ちそうなほど甘く、獲物に群がる虫のようにうるさかった。
だから油断した。
…ふらりと訪れた男は、いつもどおりすぎるほどおだやかな笑みをたたえながらこの硬い体を蹂躙した。
同じ男相手によくもそんな気になったものだと関心すらしてしまいそうになるほど意外だったが、そういえばこの男は上忍だ。
あの日、抗う手をいとも簡単に押さえつける腕の強さに、初めてその事実を知った気がした。
人でなしの上忍になど付き合っていられない。どうせすぐに飽きるだろうが、そのときができる限り早くきて欲しいと思う。
つい言い返してしまったが、こちらの思惑など斟酌しないだろうこの男には、いっそ何も言わない方がいいのだろうか。
そんなことばかり考えている自分に嫌気が差す。
だが怒鳴っても殴ろうとしてもへらへら笑うばかりの男に、他に何ができるって言うんだ。
「えー?だってそんなのいらないし」
「だってもなにも…!」
わざわざ嫌がる相手を組み敷かなくてもいいだろうに。
「いらないもん。好きでもないのとどうしてヤらなきゃいけないの?任務でもないのに」
「へ?」
そりゃそうだ。好きでもないヤツと任務でもないのに寝るなんざごめんだろう。イヤ任務だってイヤだけどな。
…問題は、それでどうして俺にちょっかいかけるのかってコトだ。
理解できない。したくない。
「好き。…って、どうしたの?顔真っ赤だけど」
「う、うるせぇ!普通はこんなとんでもないことしでかしといて、そんなしれっとしてられねぇんだよ!」
ああ、どうしたらいいんだろう。いっそ殴り倒してしまいたい。
ケダモノ上忍のおもちゃにされた自分を情けないと思わないように必死だった。
それがどうだ。この男はどうしてこんなことを言い出すんだ。
いまさらだ。憧れが恋に変わりかけたときに全部ぶち壊したのはこの男自身なのに。
「なんでもいいよ。落ちてきそうなのに落ちてこないんだもん。…でもそういうとこも好き」
この男、常識がないと常々思っていたが、ここまで酷いとは。
「うるせぇ!…俺は寝ます。普通に。いかがわしいことなしで」
「えー?ヤダ」
「黙れ。…今日手ぇ出したら、俺はアンタを嫌いになります!」
「え!うそ!それって今俺のこと…」
「おやすみなさい」
逃げるように寝室に飛び込むと、慌てたように男もくっついてきやがった。
とことん空気が読めない男だ。
「好きって言ってくれたのにダメって、これ何の拷問なの…!」
ぶつくさ文句を言いながら、隣に寝るくらいいいでしょなんて子犬の瞳で訴えてきた。
ケダモノだ。そこは変わらない。…ただすっかり塩たれているだけで。
「朝まで我慢できたら色々考えてやりますよ」
捨て台詞と共に瞳を閉じた。さてどこまで我慢できるやら。いっそ楽しみなほどだ。
…結局、うろたえながら喜ぶという器用な真似をした男は一晩中一睡もできなかったらしい。
ついでに任務まですっぽかしかけたのはなんだが、少しだけ、ほんの少しだけこの男に対する態度を変えてやっても言いと思い始めている自分もいる。
「我慢したんだから御褒美頂戴。朝のチュー」
泣きそうな顔で騒ぐ男の頬にキスをくれてやるくらいには。


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適当。
ばかっぷるみまん。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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