敵わない。この人には。 「帰りますよ!」 怒鳴り声に近いその声が、本当は心配しすぎているせいだと知っている。 優しい人。不器用な…愛しい人。 策謀と血にまみれた陰鬱な任務で鬱積した何かは、その姿を見るだけで消えてしまったようにさえ思える。 眉間に皺を寄せ、どこか苦しげにさえ見えるその顔に、安堵よりも劣情を感じた自分を笑った。 俺の手を包み込むように握りしめる手は、寒さに冷たく凍えていても…誰よりも何よりも俺を温めてくれる。 その手に甘えてしまいたい。いっそ全てを捨てて、この人のことだけを考えて、この人のためだけに生きたい。 …だが、そんなことなどできるはずもない。 自分でも嗤ってしまうくらいに、俺は忍以外にはなれないのだから。 「帰れないよ」 まだ、俺にはやることが残っている。 だから、どんなにこのまま帰りたくても…この手を取って抱き寄せてそれからその奥深くまで己の欲望を飲み込ませ、混ざり合いたくても…それはできない。 奢るつもりはないが、自分の立場は理解しているつもりだ。 ここで俺が消えれば、これまでの作戦がすべて水の泡になる。 そもそもが芳しくない状況を覆すために呼ばれたようなものだ。忍の身で誇りだなんだと語るつもりはないが、流した血を無駄にすることはそれだけで罪であることは知っている。罪人なのがかわらないのだとしても、どうせなら…犠牲は少ない方がいい。 これから、それこそ溢れるほどの血を流さなければならないのだとしても。 握った手を離さなければ。俺はここにいなければならないんだと一番分かっているくせに、ここに来てくれただけでもう十分だ。 欲しくてほしくてたまらなかった人を。…その真っ直ぐな瞳を見てしまえば、刃を振るうのが辛くなる。 ぎゅっと、触れるのが最後になるかもしれない手を引いたのだが。 「帰れますよ」 離した手の代わりに、今度は腕をつかまれた。逃がさないとばかりにしっかりと力強く。 ニヤリと笑ったその顔は…ガキの頃は悪い事ばっかり考えてたって俺に言った時の顔だ。 悪戯が成功した悪童の、誇らしげな笑顔。 いつもの…見つめているだけで暖かくなるのとはまた違う、俺まで浮足立つようなそれに、胸が高鳴った。 とんっ、と俺の胸元に押し付けられたのは、これから俺が奪い返しに行くはずの禁術書だった。 「中忍じゃなきゃ出来ないことも、一杯あるんですよ?」 そう言って悪戯っぽく笑う俺の恋人に、じゃあ、俺と一緒にいたら最強ですねって言ってみたら、耳まで真っ赤に染めて固まってしまったから。 「好き」 俺は溢れる思いを、言葉と態度で示すことにしたのだった。 ********************************************************************************* 適当にしてみたり。 二人そろえば最強(のバカップル)!であればいいと思うのでした! ではではー!なにかしらつっこみだのご感想だの御気軽にどうぞー! |