言えず言われず(適当)


「好きなら好きって言えよな…ちくしょう」
さんざっぱら愚痴を聞かされる方の身にもなってみやがれってんだ。
毒すらも酒気をまとうほどに飲んでしまった原因の方は、話すだけ話してすっきりしたのか、ご機嫌な様子でさっさと帰ってしまった。誕生日祝いの代わりの酒だったんだから、もうちょっとありがたがれと八つ当たりしたくなる。
「なーにが中々言えないんですだって」
あの顔で、あの地位で、まあ性格はちょっとばかり問題があるが、少なくとも告白された相手から振られる確実は限りなく低いといえるだろう。
それが随分長いコト片思いをこじらせては、俺を捕まえてたっぷり愚痴ってくれる訳だ。
かわいい人なんだとか、意地っ張りなところもかわいいだとか、やさしくて芯が強いところに惚れたんだとか。
恋人もいない。家族もいない。上忍でもない。ないない尽くしの俺に。
…好きな人ならいるんだけどな。って、それが一番の問題でもあるんだが。
「あーちーくーしょー!」
いっそもう一杯どこかで引っ掛けて行きたい所だが、この時間の一人酒は歓迎されないだろうし、ほとんどの店が看板だ。
コンビニでビールでも買って帰る手はあるが、そうまでして飲みたいわけじゃない。
報われない片思いは望まない接触によって勝手に育っていくのに、その度に俺じゃない誰かへの思いを語られて、心が少しずつ削り取られていく。
こんな思い、とっとと捨てちまわねぇとな。
そう、例えばかなわぬ思いに操立てしたわけじゃないが、ここまでこじらせた思いを抱え込んだまま、他の人なんか好きになれる訳がないと断り続けている集まりに勢いだけで参加してみるとか。
そうでもないときっとこうやって、一人で家に帰って膝を抱えて男泣きしなきゃならなくなる。なんて惨めで情けなくて、それなのに捨てきれない思いばかりが膨らんで、きっといつか潰されてしまう。我ながら不器用すぎて泣きそうだ。
「合コン、行くって言ってみるか…」
確か来週末だったはずだ。
声を掛けられはしたが久々にはっきりした返事をしなかった俺に、空けとくから来いよといってくれた同僚のためにも、それがいい方法のように思えてきた。
深夜だが、郵便受けに式を飛ばすくらいならかまわないだろう。懐に書き付けるものはなかっただろうかと探ろうとして、果たせなかった。
「駄目」
「へ?」
手首が痛い。なんでかって、この優男で白っぽくてほそっこく見えるくせに上忍様なんていう非常にうらやましくも呪わしい男が、握り締めているからだ。
「駄目。ヤダ。許さない」
「え、ええと?どうしたんですか?」
ああこういうときに怒れないんだよな。それもまずいんだってわかってるのに。好きな相手にいい顔したいってのもあるが、好きな相手に嫌な思いをさせたくないから。
畜生。誰だ。アンタにそんな顔させた奴は。泣くなら泣いてもいいが、他の奴に見せたくはない。
例えば、この人が惚れてるって言う誰かにも、絶対に。
「なんで?駄目。お願いだから」
「落ち着きなさいって!だから、何の話です?」
半ばパニックに陥っているのが一目でわかる上忍を宥めるべく目を見てはっきりキッパリ言ってやった。
「合コンなんて止めて。俺と一緒にいて」
…アンタ、それはないだろう。
わがままで傍若無人で、でも好きで好きで好きすぎて色々拗らせてる相手だって、そんなことを言われたくない。
これはアンタのためでもあるのに。俺みたいに拗らせた連中におかしな真似しかけられたことが掃いて捨てるほどあるんだって、知ってるんだぞ。俺がその仲間に加わっちまったらどうすんだ。アンタ泣くだろうが。
「…ちゃんと、お相手はしますから。ほら、俺も寂しいんですよ。長いこと一人なんでね」
宥めてすかして、この人を納得させてから思いっきり泣こう。
こんなコトを言われても、はっきり突っぱねられない意気地なしの自分を笑って。
「ねぇ。好き」
「は?」
「…だって、言えなくて、男同士だし、元暗部とか嫌だろうし、嫌われるくらいならって、でも無理です。あなたが誰かのものになるなんて、耐えられない」
そう言ってぼろぼろ泣き出した男にしがみつかれて、錯乱するあまり力加減もできないのか窒息しそうだ。
アンタそれはないだろうよ。さっさと言えばいいでしょうがって、俺は何度も…それこそ血反吐を吐く覚悟で言ってたってのに!
「うるせぇ!もう一回、はっきり、俺の目を見てちゃんと言え!」
「え?」
鳩が豆鉄砲でも食らったような間抜け面で、拳骨を決めた頭を押さえている。ああくそ!そんな顔だってかわいいんだよ畜生!今更そんなくだらないコトで嫌いになるか!
「言うのか?言わないのか?はっきりしろ!」
「好きです。もうずーっと好きで、抜けるまで誰かにさらわれたらどうしようっていつも見てて、やっと抜けられても男なんて眼中にないだろうし、暗部とか差別しない人だって知ってても、やっぱり嫌われるかもしれないって」
涙ながらに語る言葉は、どんどん小さくなっていって、ああこのままじゃ泣くなってことがわかってしまった。
「好きです」
「え?」
「両思いってことです。ほらしゃんとして、とりあえずその、路地裏じゃなんだから俺の家で話しましょう」
言ってやりたいコトが山ほどある。だからこその提案だったんだが。
目を輝かせて抱きついた男が、いつの間にやら合鍵を作っていて、それを使って俺の家に俺を抱えたまま上がりこみ、寝室に迷わず直行したってのは…流石にどうなんだろうと思う。
暗部だから暗部だからってやたら騒いでたのは、こういうことか。いつもこんな流れで恋人作ってんのかこの人は。
「イルカせんせ」
「なんですか」
「ふふ…呼んでみただけです」
俺の胸に頭を預け、幸せそうにまどろむ頭のねじがとっぱずれていそうなイキモノが、それでもやっぱり性懲りもなく好きなのは変わらない。
…しょうがねぇ。説教はとりあえず…歩けるようになってからにしよう。
どろどろのぐちゃぐちゃにされたまま決意を固めたものの、舞い上がった甘えた上忍が暴走したおかげで、それが実行に移されるまで5日ほどの日数を要したのだった。


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適当。
これは神様がくれた誕生日プレゼント…!とか思い込んでるメルヘンヲトメ上忍だったりして。

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