たんじょうび(適当)


「イルカせんせ」
 きたな…。こういう顔をしてるときは危険なんだよな。
 面白いモノを見つけた子どもみたいに輝く瞳で、一方的に無体を強いてきたあの日から、もう随分と経ってしまった。
 もうお互いおっさんだ。枯れてもいい年だと思うんだが…何故か火影を引退してからやたらと旅行に行くようになった連れ合いとも呼ぶべき人は、重圧から解放されたせいかむしろ若返っているようにみえる。
 こっちは順当に…というか、むしろふけ顔といわれるようになって落ち込む日々を送っているというのに理不尽だ。
 まあ、いいんだけどな。苦労してきた人だから、今からたっぷり人生を楽しんでもらいたいとは思ってるんだ。
ただし物事には限度ってもんがある。元々気配の薄い男は、生来のたちか、それとも習い性になっているからか、とんでもないことを仕掛けてくるときには姿を捉えられなくなるほど完璧に穏行してみせる。
 今だって抱きついてくるまで気付けなかった。
 子どもみたいにキラキラした目で、どうしようもなく下に偏った要求をしてくることを幾度となく繰り返し、それと同じくらい俺からの鉄拳制裁を食らってるはずなんだが、中忍の本気の拳よりもやりたいことの方が重要なのか、今までも反省したこともなければ途中で諦めたこともない。
 諦めたフリをして油断したところを…ってのは何度もあったんだけどな…。
 任務をこなすうちに身に着けた技術を全て使ってくるから油断も隙も、もっというなら希望もない。
「…なんですか?」
 笑顔が多少引きつっていようが相手は気にしない。それでも笑うのは俺の意地だ。意外と繊細なのに、変なところ神経が神社の注連縄より太いからなぁ。
 そもそも人をいきなり押し倒しといて、それ以来徹底的に無視と迎撃に力を注いだら、切れて襲い掛かってくるかと思いきや、なんでなんでと来たもんだ…あのときのとてつもない疲労感をもう一度感じたいとは思わない。
 いい人なんだよ。根っこは。ただネジが100本くらい緩んだり飛んだりしてて、代わりに変な部品が追加されてるんだ。きっと。
 好きだから好きって言ってとごねられて、ふざけんなと怒鳴り返したあの日。
 わかんないよ。ただイルカ先生が欲しいだけなのに。って、静かに涙を流す姿に絆された自分が悪い。
「お誕生日おめでとうございます」
「へ?おお?そういやそうでしたね。忘れてた」
 毎回そういえば一番最初に祝うんだと騒ぐのはこの人の常だった。
 うっかりしてたなぁ。そうかそうか。この人の誕生日は忘れないのに、自分のは年をとることを忘れたいという潜在意識の成せる技か、ついつい忘れがちだ。
「プレゼントがあるんですよ」
 …あとは、これのせいだな。プレゼントはちゃんと選んでくれてはいるんだ。その選抜基準がおかしいだけで。宝石だ金属だのはまだいい。どうにかできる。老後の資金にと思ってたら上忍リタイアどころか火影まで勤め切って、俺も普通に働いてるからつかわなそうだけど。
 下着も変なおもちゃも受け取ってから懇々と諭せば繰り返されることもなかった。
 問題はほとんど拉致な旅行だ。現役の頃はこの人自身が早々里を抜け出せないから、めったになかった。ああでも、影分身に任務行かせて三日間半ば監禁されたことはあったかな。
 それが今やこの人は引退した元火影。そして旅行が趣味だ。どこに行くのか聞いてもないしょとかいってにやにやしてたから、警戒はしてたつもりだった。
 …手首に巻きつく縄に、起こりつつある事態を察せざるを得なかった。
「…縄とか、いりませんよ?」
「うん。ほら暴れると危ないじゃない?」
「暴れるようなことしなきゃいいんでしょうが!」
「温泉いっぱい選んできたんです。どうせなら全部行こうかなぁって。まずはイルカ先生が知らないところで簡単に逃げ帰れないところがいいかなぁって」
 悪気はないんだ。そう少しも。逃げられないようにしつつ、温泉を楽しんで欲しいという矛盾した要求を俺にしていることに気付いていないだけで、ものすごく俺の誕生日を祝いたいという意欲は高い。
 …だから、断れない。しょぼくれて泣き方も分からないからただぽろぽろ涙を零して不思議そうにしちゃうような人だからな。
「縄は、いりません。休暇の式飛ばすんでちょっと待ちなさい」
「いいの!やった!」
 いいのもなにもそれは脅迫だというのはやめておく。この珍妙なイキモノは、多分このまま死ぬまで変わらないだろうから。
 宥めてすかしてやっとここまできて、情も移って手放そうとは思わない。なら、ココはドンッと男らしく受け入れるべきだろう。
「どれくらいの予定ですか?とりあえず二週間…あ!こら!」
「そんなのずーっとですよ?ま、俺の誕生日にはイルカ先生にお祝いしてもらいたいんで一回帰りましょうね?」
 当たり前だと言わんばかりに勝手に書類を書き換えて勝手に送った男は、満足げに微笑んで俺を担ぎ上げた。
 どうあっても俺を歩かせる気はないらしい。
「…盛大に祝ってくださいね?」
「もちろん!任せて?」
 一矢報いるなど無理そうだから、せめてもの嫌味をぶつけたつもりが、自信たっぷりに胸を張られてしまった。
 九月までにきちんと戻れればいいんだがな。
 ため息も風を切る音に解けて消えて、浮き足立つ男が自分で築き上げた里の発展よりも俺を選んでしまうことを嘆きながら…少しだけ喜んでおいた。

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適当。
イルカせんせー!だーいーすーきー!!!!!!
後サイト9周年くらい?もついでにひっそり祝ってみることとす。あとたぶんしんかんありますー。

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