「寒い?」 穏やかな笑顔ってこういうのを指すんだろうなぁ。 …部下相手になんでここまでするんだ?って言いたくもなるけど。 たかが野営だ。 確かに今は冬で寒いっちゃ寒いけどな。わざわざ上官に寒いんですーなんて泣きつく馬鹿がいるもんか。 下忍にだってそんな情けないのはいないはずだ。 くノ一ならまだしも…って、木の葉の里のくノ一にそんな弱弱しいのがいる訳がない。 この上官を誘って口説き落としたいってのは山ほどいるだろうけどな。 色素が抜け落ちたような白い肌は、さまざまな人種が寄り集ってできた木の葉でも珍しい。 しかも美形だ。…素顔なんざみたことがないが、少なくとも木の葉のくノ一達にはそう思われている。 女性のそういう鼻のよさは理解できないけど、めったなことで外れないもんなぁ。 この人の場合はそれだけじゃなく、実力もあって階級も上忍で、その上この気遣いの細かさ。 この任務につくとききゃあきゃあ騒がれたのも頷ける。 「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。はたけ上忍は休まれて下さい」 気まずいよなー…。なんでこんなツーマンセルになっちゃったんだろうな…。 どうせならくノ一と組ませればいいのに。 きっと大喜びで立候補するのが…一個大隊くらいついてきちゃうからか?もしかして? そこまで行くと羨ましいとすら思えなくなりそうだ。 こちとらたたき上げの中忍だ。 泥水だって啜るし、もっと過酷な環境に一人でほっぽり出されたことだってある。 下忍みたいな御遣い任務もないことはないが、そんな生温い内容はめったとない。 お使いだけに見えて高度な交渉を任されたり、大名のご機嫌取りまでやらされたり…まあご隠居の遣いっぱしりのついでに羊羹買って来いなんて言われることもあるけどな…。 その上戦場になんか出たら、下手な上忍より泥臭い任務が回ってくるのが常だ。 上官には的確な報告と具申を、ついでに戦闘では部下を守って体を張りつつ、最悪の場合盾になって部隊の消耗を防がなくちゃならない。 今はたかがアカデミー教師なんて思われてるのかもしれないけどなー。ちょっとなぁ。流石にこの扱いはないだろ? 女じゃあるまいし、せっせと毛布敷いて寝床なんて作ってもらわなくてもチャクラで何とかできる。 体力の温存が必要なほど長引く気配がないのは俺にだって分かってるし、そもそもなんでこの人一人でできるのがわかりきってる任務に中忍をつけるのか分からん。 強いて言うなら俺のためってのがありうるか?内勤で鈍ってるとでも判断されたんなら…それはこの甘やかしに乗らない十分な理由になる。…上官の好意を断ることへの抵抗感を誤魔化すいい訳にも。 そもそも上忍が中忍にこんな態度ってのが問題だ。 そうやってうだうだ考えていたせいで、背後の気配に気付くのが遅れた。 「あなたはさ、そうやっていつも硬いの?」 「は、いえ。任務中ですし」 硬いも何も普通だ。 どこの馬鹿が上官の隣で仲良しこよしと寝込むっていうんだ。それも上官のしつらえた寝床で。傷病者でもないってのにありえんだろう。 「そうね…。あー…一番簡単な切っ掛けだと思ったのに」 ため息混じりに吐き出された台詞からして、俺はこの任務のために呼ばれたってわけじゃないらしい。 忍でもない賊一匹の捕縛なんて、中忍3人か上忍一人でなんとでもなるもんなぁ。 確かこの人忍犬使いだから索敵も早いし瞳術も凄いっていうからあっという間だろう。 実際もう敵の足取りは掴めている。わざわざここで休息を取るのは無意味だ。 夜目の利かない一般人を狩るなら、夜中に一気にふんづかまえちまった方が早いのに、なんだってこの人はこんなにややこしい事をするんだろう。 その切っ掛けとやらが何のためなのか教えてくれればいいのに。 「あのう…その、切っ掛けって一体何のためでしょう…?」 恐る恐る聞いたのは、そういえばこの人確か元暗部じゃなかったっけ?ってことを思い出したからだ。 暗部は完全実力主義。…新規入隊のものは指名で決まると聞いた。候補生として入隊を果たしたら最後、死ぬまで抜けられないとかなんとか…。 教師が転職だと叫んで全力で断りたい。里のために命を張るのは当然として、それでも暗部に行くよりは教師でいたい。 だがそんなもの、甘えているといわれたらそれまでだ。 …ってでもそんな理由で甘やかすってのも違うよな…!?勧誘がこんなに穏やかってのは聞いたことがない。暗部の知り合いがそもそもいるかどうかっていう問題もあるな。自分で名乗る訳がないから、いてもきっとわからないだろう。 震える肩を上忍が優しく抱いた。…なんなんだこの雰囲気は。 「んー?直球勝負で行くことにします」 にっこりと尻がむずがゆくなりそうな笑みを浮かべた上忍が、素顔を晒していることに驚いて、ついでにくノ一の下馬評があたっていたことにも感心して、なんのためにってあたりを考えるのを忘れた。 いきなり口づけを仕掛けてきた上忍にとって、それは好都合だったようだ。 「んぐっ!?むが!ふご!」 「あらら、おもしろい声」 「なななななな!?と、伽とかなんですか!?いや無理。全力で無理です!?」 押し付けられる腰の辺りにあるごりっとしたものがなんなのか知りたくもない。 優しく抱きしめるのは俺の役目で、しかも相手は間違っても同性であってはならない。…はずだ。 大体、俺のケツにあんなもん入るもんか! 戦場で何度か経験した意味の分からない視線とあまりに違うから気付かなかった。 やばいなーって気付いた段階では大抵押し倒されるとか囲まれるとかめんどくさいことになってるからなぁ…。 あの時は確か…逆にケツにクナイ突きつけて突っ込むぞって脅したのと、あと口にクナイ突きつけて脅したのと、あと金ケリと、あと頭突きと、勃たなくなる煙球で目潰ししたあとぼっこぼこに…どの手を打ったらこの人に利くんだ!? 「いまだにやんちゃなんだねぇ。かわいー」 「いやいやいや。どこがですか。そして無理です。ええ。とてもすごく絶対に!」 この場面で…どこまでもずれた人だ。 顔はきれいだけどなー。なんだよ実力もあって顔もいいとか詐欺だろ。 「無理でもするよー?ま、じっくりゆっくりね?」 もう一度駄目押しのように頬に口づけた上忍が、ホクホク顔で俺を抱きこんで毛布に直行したのはそれからすぐのことだった。 昔一緒の任務についたことがあるとか、その度に狼に囲まれてるから覚えちゃったとか、でもその時の暴れっぷりが雄雄しくて容赦ないから惚れたとか随分な褒め言葉を貰ったけど、一っ欠片も嬉しくない。 ほれるって…惚れるってなんだ。どうしてそうなるんだ。大体いたなら助けてくれよ! 皆気が立ってるからわからないでもないけど、その手の行為を合意なしに仕掛けてくる方が悪いから俺も容赦しなかったんだよ。懲罰食らったこともあるけど、大抵無理強いに失敗したアホとして白い目で見られるのは相手のほうだったし。 それがこんな弊害を産むなんて…。 気長にってのがどの程度信用できるかも怪しい。むしろこの人の存在そのものが怪しい。 …結局、任務は身の危険を感じた俺が大慌てで終わらせた。 「じゃ、またねー?」 「…お疲れ様でした」 いえ!金輪際係わり合いになる予定はありません!さようならー!なんて言えたらいいんだけどな。少なくとも名前も階級もばれてるってことは、今後の追撃が予想される。 逃げ切るぞ…!絶対に! そうして俺と渡る上忍との攻防戦の火蓋が切って落とされたわけだが…その決着については内緒にさせて欲しい…。 俺のプライドのために。 ********************************************************************************* 適当。 コレちゃんとかきたかったりします。NOVEL更新してなさすぎて泣けてきたので。 だがしかしねむけにはかてなか…! ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |