「まだ抵抗するの?」 向けられているのは嘲笑でも苛立ちでもなく、本気の疑問だ。 俺を縛り付け、身を守る全てを剥ぎ取る。 そんな行為の最中に心底不思議そうに呟かれて、こっちの方が不思議でしかたない。 何故こんなコトを強いられて無抵抗でいられると思うのか。 「離せ!」 「ヤです。まだ逃げる?どうしよ。足とか折っちゃうと後が大変だと思うんだけど。…んー?術、かな?」 淡々とした呟きに本気を見て、総毛だった。 逃げたいに決まっているが、この男は元暗部。 痛みなしに足の機能を奪うことも、逆に機能を損なわずに激痛を与えることも出来るはずだ。 正規部隊にいれば馴染みの無いその行為は、男にとっては日常だったらしいから。 酒の席を共にしたのも2,3回にとどまるというのに、淡々と俺に語るこの男の日常断片は、俺などが想像もできないほどに過酷で、そして陰惨だった。 ソレを不思議にも思っていない男を、少しでも哀れだと、己の安寧に不甲斐なさまでも感じたのが罪だったとでも言うのだろうか。 「…お願いです。聞いて下さい…!何故こんなことを俺にする必要があるんですか…」 引く手数多なんてものじゃない。 それこそ里中の美しい女たちを好きにできるだけの魅力も、実力も、権力もあるのだ。 強さに惹かれる女たちをいとも簡単に袖にしていたのは、世俗に疎い俺でさえ目にしているというのに、どうしてわざわざこんなコトをしたがるのか。 「だって、欲しいものはなんでもあげるって言った」 主語がないが、そんなコトを言い出しそうなのは…もしかして俺なのか? 聡明な里長は、そんなことをこの男に言えばどうなるのか知っていただろう。…俺と違って。 そして涙が出そうなことに、俺自身もそのセリフに聞き覚えがあった。 俺に用意出来るものならなんでも言って下さいと、確かに言った。 「ちょっ!ちょっと待ってください!でもそれって…」 「うん。だって、もうすぐクリスマスなんでしょ?」 そうだ。クリスマスプレゼントの話だ。浮かれ騒ぐ子どもたちに、あの時も不思議そうにサンタってなぁになどと聞いてきたのだ。 ナルトでさえ俺がプレゼントを渡しているのに、この男にはだれもそんな物を与えようとしなかったらしい。 戦い続けてきたせいか、男は里の行事にも疎い。クリスマスすらも今まではその存在を知ってはいても理解も興味もなかったとだけ言っていた。 子どもたちのプレゼントのリクエストをわがままだとたしなめながら聞く俺に、男の言葉は胸に突き刺さった。 なにも貰ったことがないのだと、それを不思議にも思わずに告げる男を放っては置けなかったのはそのせいだ。 …それなら俺がと口にした覚えが確かにある。 この男には常識と言うものがないと知っていたはずなのに、与えられないコトに慣れすぎた男に胸苦しくなってしまったのだ。 「あのですね!?プレゼントの希望は聞きますが、プレゼントされるのはクリスマスだし、そもそも俺はモノじゃ…!」 「だって、先に獲られたら困るもん。何でもいいっていったじゃない?だから、いいよね」 フライングにも程があるが、何よりも人の希望を聞きもしない辺りがさすがこの男だ。 まだ一ヶ月も先の話だというのに、何故こんなコトをしでかしたのか理解に苦しむ。 「あの、お願いですから…!」 「術じゃない方がいーい?大人しくしてくれるならいいよ?」 懇願は届きそうにもない。 どうした物かと悩む時間すらないのも明らかだ。 「術は、嫌です。それからこういった行為は普通好きあった者同士で…」 説得にもならない時間稼ぎ。それからとんでもない答えが飛び出すなんて予想も出来なかった。 「好きだけど?イルカせんせも俺のこと嫌いじゃないでしょ?」 「へ!?え!?」 「じゃ、いいよね」 「んぅー!?」 結局。そういう問題じゃないというセリフは、ふさがれた唇からは意味を成さないくぐもった音にしかならなかった。 ***** 「サンタさんってのはどこの誰かしらないけど、おもしろいねぇ」 俺の髪の毛を弄びながら呟く男に、文句を言う気力もなかった。 「うぅ…」 呻いても体中に残された痕も、体の中心を走る痛みも、もどかしいような奇妙な感覚も消えてくれそうにない。 「ま、なんでもいいけど。ずーっと欲しかったし。一生大切にするね?」 …そう告げた男への喜びも。 同情が愛に変わるなんて陳腐すぎて涙が出そうだ。 ニコニコと微笑む男はどこまで理解しているのだろう? まあ、もうどっちでも一緒なんだが。 「返品不可です。もっと丁寧に扱ってください」 そう告げて意識を手放そうとする俺に、男ははっとするほど美しい笑みをくれたから、後はまあ、考えないコトにしておいた。 ********************************************************************************* てきとう! ねむいのでねます! |