先生の教え

「いいかい?好きな子が出来たら、ちゃんと告白して、それからじゃないとだめだよ?」
幼い内から任務に借り出され、戦場の乱れた風紀を目の当たりにしてきた俺にとって、先生が言った言葉はあまり意味があるように感じられなかった。
明日生きているか分からないのに、いちいち段階を踏んでいる奴なんかいない。それ以上に、愛なんて不確かなものよりも目の前の肉の悦びの方がずっと確かだ。
里の中ならまだしも、こんな所でわざわざそんなコトをしている訳がない。
「先生。いまさらでしょ?大体、俺はきっと…そんな人ができることもないでしょうから」
これから、俺は戦場に立つ。…友から譲り受けた瞳を使って。
研ぎ澄まされた感覚はただひたすらに戦闘に向けられ、余計なことなど考えられないしその必要も感じない。
でも、困ったように笑った先生は…なおも俺に言った。
「好きな子に自分の気持ちをわかってもらえたら…きっと君は最強になれるよ」
夢見るような瞳で、まるでどこかの宗教の勧誘のように熱心に、…先生が真剣に言っていたのを覚えている。
*****
そして今正に、俺は先生の言う所の告白をしようとしている。
そんなこと、意味がないって思ってたのに。
「カカシ先生!…話というのは…?」
緊張した面持ちの俺の思い人はアカデミー教師なんて職業についてて、しかも男で、しかも真面目で、お人よしで優しくて…。
硬い言葉で俺に聞いてきたのも何かの任務であると思っているんだろう。
アカデミー校舎裏なんてべったべたな所に呼び出したというのに、そんなことは欠片も想像していないに違いない。
「あ、あの…!」
ああ、こんなの自分らしくもない。
ただ一言言うだけでいいのに、舌も動かなければ緊張でかすれた喉もいうコトを聞いてくれない。
それでも、少しだけでも落ち着こうと深呼吸をして…。

イルカ先生が…俺の思い人が心配そうに見ているコトに気付いた。

ああ、ダメだ。もう我慢できない。
「好きです。あなたが」
言葉すら出てこないと思っていたのに。
気が付けばイルカ先生を抱きしめてその瞳を真っ直ぐに覗き込んでいた。
キス、したいなんて思いながら。
「ふえあ!?」
間抜けな声はイルカ先生らしい。この人、驚いた時に結構こういう顔をする。
俺の素顔を初めて見た時にも、こんな顔してくれたっけなあ…。
ぽかんと開いた口を見ていると、別の何かをねじ込みたくなって困る。
言いたいことは言えた。でも抱きしめた温かい体が愛おしすぎて離れられない。
徐々に赤く染まっていく顔が、俺の言葉を理解してくれたんだと教えてくれた。
後は、返事を待つだけ。
聞き返すのは怖い。これ以上何を言ったらいいのか分からない。
驚きに揺らいでいた瞳が、俺に応えるように真っ直ぐに見返してきた。
「あ、う。その!お友達から前提で!けっ!あ、あれ?でも男!で、でも!その!好きです!ずっと!」
「え?」
俺の脳にその言葉は確かに届いたのに、俺はすぐにソレを理解できなかった。
イルカ先生の吃音が激しかったからじゃなくて、その言葉の内容が予想外のものだったからだ。
「いいの?本当に?…今すぐアナタを攫って全部自分のモノにしたいって思ってるのに」
信じられなくてダメ押しをしてしまった。
騙して自分の物にして、閉じ込めて…そんなコトを考えたこともある。でも、それじゃこの人は泣いて怒るばかりで、俺のことを好きになってなんかくれないだろう。
ソレが分かってて、それに俺のことを好きになってくれる可能性なんか殆どゼロだって分かってて、それでも告白した。
言わないとしにそうな思いが爆発しそうだったっていうのもあるけど、この人には正直でいたかったから。
でも、一度は絶対に断られると思っていたのに。
「あ、あの、その辺は、その、この、当たってるから、分か…いやその!」
あ、そっか。今密着してるんだからその気になってるのはバレバレだったよね。
それを拒絶していない。照れてはいるけど。びっくりするくらい真っ赤になってるから
理解できた途端、全身に歓喜と欲望とが駆け巡り、思考はイルカ先生のことだけで一杯になって。
…気が付いたら宣言どおり引っさらって、剥いて突っ込んで鳴かせて喘がせて蕩けさせ…全部、自分のモノにしていた。
*****
いきなりすぎですと怒られて、見事な拳骨一発食らって、でも受け入れてもらえた。
それはもう綺麗に決まった拳骨のせいで、頭にたんこぶできたけど。
…四代目。俺、最強になれそうです。
だって…手に入れて、手に入れられた愛おしさと幸福感は恐ろしいほどの力をくれる。
先生の…四代目教えはかなりの確率で与太だったけど、今回ばかりは信じてもいい。
イルカ先生のためなら、きっと俺は何でも出来ると思うから。

ま、そんな俺を拳骨一発でだまらせるイルカ先生が、実は一番強いんじゃないかと思うんだけどね?


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適当小話。
ラブラブバカッポーは最強だという話のような…?
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