やくそく(適当)



「いいの?ホンットーにこれ、いらない?」
「いいんだ。もう決めた」
決意表明のつもりだったのに、なんで泣きそうな顔するんだ。
…まあ約束を破ったことにこれもなるのかもしれないけど。
「一緒に任務にいくって…!」
「教師になったって任務はあるよ。それにこれから任務こなさないとまだ受験規定以下だし」
実の所、同じ任務で二人一緒に戦うという約束は、半ばコイツに強制されたようなものだった。
俺はそのときから教師になりたいってのは言ってあって、だから暗部にはなるつもりがないってこともこんこんと諭したもんだ。
コイツを説得できないのに、教師になんかなれるもんかって思ってた。それに泣かせたくも辛い顔もさせたくなかった。
だからなだめてどうして教師になりたいかってこともたくさん話して、任務にでない訳じゃないってことも教えた。
それでも、カカシは諦めなかった。
日々修行をつけてくれるし優しいヤツなんだけどなぁ。
チビの頃から一緒にいたから、離れて過ごすのがよっぽど堪えるらしかった。
出会った頃にはもうこいつの父ちゃんはいなくて、俺も両親がいなくなって、泣きたいのに泣けないみたいな顔で慰霊碑で座り込んでる事が多かったコイツに必死でちょっかいを掛けたのは、だから俺もさびしかったせいだと思う。
最初の長期任務から帰ってきたときなんて、酷かった。うろうろ俺の後をついてくるし、飯の間も普段は向かいに座るのに隣にくっつきたがるし、風呂にも乱入してくるし、極めつけは狭いってのに勝手に俺のベッドにまで入り込んできた。
…出会ったときとは大違いだ。
最初はすぐに逃げてったのに、今はこうして膝に懐いて駄々を捏ねるまでになった。
それは正直言ってしてやったりって気持ちがある。
やっとここまで懐かせたんだぞー!みたいな。
なにせ結構大変だったからな。泣けって言っても泣かないし、毎日くっついて歩いてたら逃げようとするくせに、任務帰りにいきなり抱きついてきたりしたもん。
やっと泣いてくれた日は、俺が派手に怪我をした日だったけど、そのときは俺もわんわん泣いた。
置いていかないでと泣くカカシが、両親を亡くしたあの日の自分とそっくり同じだったから。
恥ずかしくて申し訳なくて聞いているのが苦しくて、抱きつかれてると胸がふわふわしてなんだかわからなくなって二人して泣いて喚いて、それから一緒に寝た。
その日からだ。多分。俺がコイツと暮らすようになったのは。
住所不定暗部だったカカシが俺の家にいついたってだけだけどな。
でもさ、そうやって仲良くなったら、今度は一緒にいないと心配とか言い出しやがるようになった。特にここ最近…俺が中忍になってからの騒ぎ方は異常だ。
一緒にいたいから俺に暗部になれって盛大に間違ってるよな。
まずなれるかなれないかっていうのと、それだけじゃなくてさ。俺の夢はちゃんと他にあるんだから。
ちゃんとカカシに話したときは、まあそうやって大泣きされる前だったけど、嫌味っぽかったカカシが始めてあんたならむいてるよって言ってきたんだ。
それが嬉しかったしカカシも理解してくれてるって思ってたのに、この始末。
「推薦状?」
「うん」
「いらない」
「なんで!」
「いらないったらいらない。俺は教師になるって…」
「でも一緒の任務に…!」
「だーかーら!俺が教師になったってできるだろ!」
不満と心配で一杯になってるのはすぐにわかった。
コイツは顔を隠す布を普段つけてるけど、それを取ったらすぐ顔に出るから何を考えてるかなんてこっちには筒抜けだ。
「お前みたいに俺は強くない」
修行だってさぼったことなんてないのに、残酷なまでに俺とカカシには差がある。
才能ってものはどうしようもない。トラップとか術の正確さは折り紙つきでも、やっぱり同じだけ戦うことはできない。
「ヤダ。そんなこといって、里にいない間になにかあったらどうするのよ…」
泣かれると胸が痛い。言うことをなんでも聞きたくなってしまう。
…ほだされたくもなるが、駄目なもんは駄目だ。
「待ってるから。里で。絶対においていったりなんてしねぇよ」
「ホントに?」
「ああ」
里のほうが外よりそういう意味じゃ安全だ。里の中まで敵が入り込むようなことになっても、徹底的に戦ってなにをしてだって生き残ってやるつもりだし、コイツをおいてなんかいけない。
「絶対…絶対怪我とかしないでよね!」
駄々を捏ねるカカシの手から推薦状が床に落ちた。
ついでに、息ができなくなる。
「んぐ!んー!んー!」
「…誓いのキス」
「は?」
なんだそりゃ。それは普通結婚する人が…。
「わかってないのは知ってたけど…覚悟して。俺のモノだってわかってもらうまでおいてなんていけないもん」
じりじりと距離を詰めるカカシに何かを間違ったような気がした。
獲物を狙う獣のようなその視線。
とっさにハエ叩きでぺちっとやっちまったのは、なんていうかその、ただの勢いだ。
「あ、ごめん」
結構いい音がした。手加減はしたつもりなんだけど、カカシの肌は白いから赤く残った痕が酷く目立つ。
せっかく綺麗な顔してるのに俺ってやつは…!
「…ううん。ちょっと頭冷えた。怯えられたら元も子もないし逃げられないようにするのが先…」
不穏な言葉を聞いた気がする。でもまあコイツいっしょにいるようになってからずっとこんな感じだもんな。気のせいか。
「そういうわけだ。…いいからほら、飯食ってねるぞ!」
「はぁい」
寝るといった辺りで急に破顔した。…どこか胡散臭さを感じる。
でもまあ、うん。色々話せてすっきりしたし、これからだよな!勝負は。
「っし!そんじゃ食うぞー」
「うん」
打って変わってにこにこしだしたカカシに得体の知れないモノを感じつつ、俺は飯を食うことに専念したのだった。


…その日、そのまま襲われてペロッと食われて、ついでにあんまり泣くから絶対死なないって約束を改めてしておいた。ぶん殴った後でだったけど。
行為自体は激しすぎて快感が強すぎて恐ろしいくらいだったのに、そうされていること自体は酷くしっくり来たから、どうも俺ってやっぱり鈍い…のかも?
好きだってずっと言ってた言葉の意味を、多分俺は知っていたのに気付いていなかった。自分の気持ちにも。
気付かないんだもん酷いって言葉にはうなずけないけどな。だってチビのころから一緒にいたのに。弟みたいで母ちゃんみたいで、それから…それから全然どれとも違う。
…うん。だから俺も多分悪い。言ったら大騒ぎするだろうからいえないけど。
それからは、ずっと一緒だ。カカシにも死ぬなって約束したのに一度だけ破られたし、俺は怪我ばっかりしてたけど、ずっと。
多分きっとこの先も。


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適当。
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