チェリー(適当)

任務から帰って、残業して帰ってくるだろう部屋の主のために簡単な食事を仕込んで、それから…勝手に風呂も借りてベッドも占拠して仮眠を取っていた。
…いきなり覆いかぶさってきたモノの気配は部屋の主のものだとすぐにわかったが、その行動はまどろみの中にいた俺を覚醒させるには十分なほど怪しかった。
「なにしてんですか」
勝手知ったる人の家。着替えも勿論常備されている。
その俺のためにと買ってくれたパジャマは、すっかり肌蹴られていた。
「え!あ、その!なんでもないですよ!なんでも!」
教師のくせにいつもと打って変わって胡散臭い笑顔を浮かべた男は、どうやら何か良からぬことを企んでいたらしい。
これでも中忍だってのに、一つもごまかせていない所が…ま、そこに惚れたんだけど。基本的に嘘はつけないんだよね。自分の内側に入れた相手には。
後ろ手に隠した何かを握ったままで、ごまかせると思ってるんだろうか。
「なんでそんなモノもってるんですかねー?」
確かにソイツには普段からお世話になっている。この人は女じゃないからね。
…男同士でヤルなら潤滑剤は必需品だ。つっこまれる側のこの人に用意させたことなどないが、お互い気持ちよくなれるようにベッドサイドテーブルには常に放り込んである。
それを手にしてるってことは、ま、そういうことだろう。
告白して頷いて貰うまでに相当梃子摺ったから、そこから先は待っててもしょうがないと思ってかなり強引に持ち込んだ自覚はある。
…立場逆転を狙ってるとまでは思ってなかったけど、納得はしていなかったのかもしれない。
「あ!いや!これはその!」
慌てて振ったせいで蓋が飛び、ついでに中身もはねて飛び散った。
ふたが緩んでたってことは、使う気だったことは間違いない。
「…したいの?」
俺だってしたかった。この人は優しさの分だけ隙も多い。
他のヤツに掻っ攫われる前に自分だけのモノにしたくて、懐に潜り込んでほだされてくれるまで情に訴えた。好きだという言葉を貰ってからすぐに、家に連れ込んだし、有無を言わさず半ば呆然としていたこの人の身体を好き勝手に貫いて汚した。
そうしないと安心できなかった。
…だから、これは罰としては順当かもしれない。
男同士で恋愛するってこと自体、この人にとっては異常事態だったはずだ。
それをいきなり一速飛ばしで身体まで奪われて、この人が葛藤しなかったわけがない。
その結果がコレだとしたら…甘んじて受けるしかないだろう。
「…え…!い、いいんですか…!」
多少の躊躇いはあるようだが、こんなに喜ばれると後には引けない。
「いいよ。…ああでも。慣れてないからそこは宜しく」
男に狙われた経験は幸か不幸か手も足も合せて全部の指を三回使っても足りない。そして同じ数だけ返り討ちにしてきた。
…慣れてないも何も正直言って初だ。
真剣な顔でイルカ先生が俺を見た。
「あの、じゃ、じゃあその、本当にいいんですね…?」
期待に満ちた瞳をして、顔は緊張してるって丸分かりだ。
こうなったら、腹をくくるしかないだろう。何せ俺はこの人じゃなきゃダメなんだし。
「ん、どーぞ。…お手柔らかに」
「…あの、ピンクで、ずっと、その、触ってみたくて…!」
うーん。天然。自分が何言ったかわかってんのかねぇ?…それにピンクって一体何の話なの?
「触っていいよ?でも…ねぇ?それだけで足りるの?」
挑発したのは、欲情を露にする恋人を始めてみたからかもしれない。
最初が最初だったせいか、自分から行為に持ち込むことが多かった。物慣れない仕草で身も世もなく喘ぐこの人に嫌がられてはいないと分かっても、こうして自分を欲しがってくれるなんてことはありえないことだと思っていたせいで、余計に興奮した。
これ見よがしに脱ぎ捨てたパジャマが床に落ちて、その途端、覆いかぶさってきた男は紛れもなく雄の顔をしていた。
普段は性欲なんかありませんって顔してるくせに、閨に持ち込めばぞっとするほど色っぽいのも知っている。
殺しきれない声におびえ、そのくせ無垢すぎて快感に抗えないのか、しがみ付いてぞくぞくするいい声で鳴いてくれる。時に感じすぎて辛そうでさえあるほどに敏感な身体は、いつだってたやすく俺の意のままにできた。
…こんな顔してくれるって分かってたら、もっと早く誘ったのに。
「あ、くそ…!知りませんからね!」
男は勿論、女すら経験が薄そうなこの人に好きにさせる覚悟は決めた。
闇雲に覆いかぶさってきてる所をみると、こんなんじゃ手際もクソもなさそうだ。
…こりゃ明日立てるかね?なんて暢気に考えていた俺の胸元に、男の顔がうずめられた。
「ん、なに?そこなの…!?」
いきなり乳首を舐められた。
そういえばピンクっちゃピンクか。なんて考えられたのは一瞬で。
ねっとりとそこを這う舌に息を呑んで耐え、思わぬ執拗さでもう片方の乳首まで指で弄られたことに驚愕することしかできなかった。
「ここ、ずっと触りたくて…!舐めてみたいとか、ずっと…!それなのにあんたあんな格好で寝てるから…!」
熱に浮かされたような声で、うっとりと男が呟く。
吐息交じりのそれに引きずられるように、じわじわと熱が高まっていく。
確かに布団に潜り込むのも面倒で、この人に匂いのしみこんだ枕を抱き込んで眠っていた。
…風呂上りで暑かったせいで、ボタンも適当にしか留めていなかったかもしれない。
「それでなんでローション?」
乳首にそこまで執着していたことにも驚きだが、乳首にしか触れてこないことにも驚愕した。この分じゃ、突っ込みたいって訳じゃ無さそうだ。それとも前戯が長いだけなのか。
何の気なしに聞いてみたが、真っ赤になった顔で力説されるとは思わなかった。
「だ、だって!いきなりじゃ痛いかなと思ったんですよ!あんたの肌白くて繊細そうだし…!でも、どこもかしこも綺麗でいつも触ってみたかったから」
「それで、いきなり?」
「あ、あんただっていつもいきなり来るじゃないですか!その、ずっといなかったし帰ってきて寝くたれてんの見たらホッとして…そしたらこう…!」
弱りきった子犬の目で見るくせに、その股間はすっかり存在を主張している。
これはもう、お互い様ってことにしてもいいはずでしょ?
「じゃ、好きにして?…気持ちイイことしましょうよ」
とりあえず上半身の忍服を引っぺがして、俺も膨張する股間のおかげで窮屈になってきていたパジャマのズボンに手をかけた所で、男が俺の胸にそっと手を置いてきた。
「…俺も、あんたに触りたいんだ」
拗ねたような口調がかわいくて愛おしくて…それからとてつもなく熱を煽ってくれた。
触って触らせて、お互いに馬鹿みたいに夢中になってつながった。
…ま、結局突っ込んだのは俺だけど。
やり方知らないのか、これが普通だと思い込んでるのか、それとも体が馴染みきってしまったからか…ま、とにかく俺の上で腰を揺すりながら、もっととねだるあの人は最高だった。
好きだ、なんて言ってくれるから、最初の1回は持ってかれたのはちょっと残念だったけど、それから何度もしたし、それはまあいいんだ。
むしろ問題は…これが切っ掛けになって吹っ切れたのか、それから何かって言うと俺の乳首を舐めたがる愛しい人のおかげで、うかつに安眠できなくなったってことかもしれない。


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桜色の乳首はたいそう美味しかったということで。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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