ころがりこんでなきついて(適当)


「目が痛い」
 ぽろぽろと涙を零すから慌てて家に上げて顔をタオルでぬぐって、それからはたと気が付いた。
 えーっと。どうしてこの人俺んちにきたんだ?
 はっきり言って、ただの知り合いというか、顔見知り程度の関係だ。能力は高いし尊敬もしてるが、実のところ積極的に関わりたい相手でもない。一度やり合ってしまってからは余計に。
 こっちも多少は腹にわだかまるものがあったとはいえ、こっちの悪いところは謝罪したし、向こうもめんどくさそうではあったがそれを受け入れてくれた。
それから…どっちかっていうとむしろ向こうがこっちを避けていたんじゃないだろうか。お互いほどほどに距離を置いて、時々は俺が一方的に話しかけたりもするが、それもせいぜい挨拶程度。こんな夜中に転がり込んでこられるような関係じゃないことは確かだ。
 だがまあそれはともかくとして、具合が悪い人間をほっぽっとくわけにもいかない。そうでなくてもこの人上忍だし、激務だし、そのくせどうも無茶をするらしいって有名だからな。涙をとめどなく零している赤い瞳も、色々訳ありらしい。
 うわさに疎く、あまりこの人のことを詳しく知らない俺でさえ、この人がしょっちゅうぶっ倒れるってことぐらいは知っている。行き倒れかけて知り合いの気配を察知して転がり込んできたのかもしれない。
 納得はできなくても、理由がある方が安心する。この男は俺の気を逆なでするのが上手いから、できれば穏便かつ当たり障りなく出て行ってもらいたい。深くこの人の関わったって、疲弊するだけだ。
 実力ときたら折り紙つきで、露悪的だが必ず部下を庇う…そんな所謂理想の上忍なのも、寂しいのかもしれないってことも、時々食い入るようにこっちをみていることも…何もかもが俺の手に余る。
「あのー…どうしますか?冷やしますか?それともあっためた方が?」
「ここに、いて」
 すがりつくように腰に手を回されて、バランスを崩してしりもちをついた。忍にしては無様なコケ方だが、冷笑は降ってこなかった。
 …そのかわり、抱え込むようにして腰に腕を回されて、変な姿勢で身動きがとれなくなっちまったけどな。
 ここにいてったって、ここは俺の家だし、この人は具合が悪いならとっととベッドでねちまうべきなのに。薬だの医療忍術だのの処置が必要なら、流石にうちにきたりはしないだろう。
 この人はそういう意味では骨の髄まで忍だから。
 すがりつかれて苦しい体勢のまま耐えることしばし。張り付かれた当初はパニくっていた頭が少しばかり冷静さを取り戻し、ついでのこの状況のおかしさに気づいてしまった。
「…ベッドじゃだめですかね?」
「…いいの?」
 いいのもなにも、アンタ勝手に人んちに転がりこんでおいて今更なにを言うのか。
 そんな言葉を口にできていたら、この人との関係も変わっていただろうか。まあこんな状態じゃ俺になにを話したかなんて覚えていないだろうな。
「運ぶんでがんばってください!」
「…うん」
 素直にはがれたかと思ったら、今度は胸元に張り付いてきた俺より極わずか大きい男を担ぎ上げ、その重さよりもすがりつく力の強さにバランスを失って…結果的に一緒にベッドに転がった。
「あーすみません。よろけました」
「ん。いーの。ねぇ。いっしょにいてくれる?」
「は?まあいいですけど、見張りくらいにはなりますよ。ええ」
 本来なら式でもなんでもいいから火影様に連絡を取るべきなんだろうけど、この状態じゃどうせ報告もできないしな。軽いチャクラ切れの人間なら今までたくさん介護してきた経験もある。何せ子どもってのは加減を忘れて術を使うからな。それに戦場じゃ否応なくそういう状況に陥るヤツがでてくる。
俺にとっては少しずつ遠くなっていくその世界のずっと先に、この人は立っている。だからこそ、こんな状況でも追い出せないのかもしれない。けが人らしいってのを差し引いても、俺はきっとこの人を迎え入れていた。
憧憬か嫉妬か、それとも単なる感傷か。とにかく、この人を放っておけないと思ってしまったから。
「…ま、いーや。元気になったらさ、ちょっと話させて」
「あーはいはい。元気になったらですよ。しっかり休んどいてください」
 今にも瞼を落としそうな顔して、男がまた力強く抱きしめてきた。しかもそのまま寝た。なんかの漫画にでも出てきそうなくらい素早く。
苦しいだろうとか、文句を言う暇もない。洗濯物は洗濯機の中に入ったままだし、食卓には食って空にしたばかりの飯茶碗が転がっている。色々文句は言いたいがぐっすり寝込んでる相手には言いようがないのは明らかで。
しょうがないからと、俺もそのまま寝ちまうことにしたんだが。
「おはよ」
「ふが?おはようございます?」
「あのね。色々話したいことが」
「あーはいはい。着替えはそっちのたんす、俺のはどこだ…?」
「ねぇ。夜でもいいんだけど」
「あ、じゃあそうしてください!飯はこれからあっためるんで食ってください」
「あ。うん」
「じゃ、アンタしっかり食ってしっかり寝るんですよ?」
「…うん」
 ぽかんとした顔をしている男を尻目にさっさと荷物をまとめた。今日は火影様と打ち合わせと、授業は演習が一つと色々やることがあるんだよな。
 起きるなりもじもじしてるのは多少はばつが悪いと思ってるんだろうか。まあなんでもいいや。元気になったみたいで俺もほっとした。顔色も悪くなさそうだ。飯は昨日の残りだが、味なんかは諦めてもらおう。野郎二人分には足りないから卵でも焼くか。カップラーメンはあるけど…流石に上忍にはまずいだろ。
 ちゃっちゃとあっためて座らせて飯をおいて、その間に風呂に入ってひげそって髪下ろしたまま荷物確認して食卓に着いたら、しおれた花みたいになった男が飯をぼんやり見つめてたから、好き嫌いすると大きくなれませんよと言いおいて俺も飯を食い始め、そうしたらつられたように男も飯を食い始めたからなんとなくほっとした。
 飯食えるなら大丈夫だろう。まあなんか様子がおかしいから、仕事にいってる間は家に寝かせとくか。
「飯は炊飯器に入ってます。おかず…は酒のつまみみたいなもんしかないですが、冷蔵庫適当に漁っていいですよ。しっかり寝てなさい」
「えっと、あのね?」
「うお!時間がねぇ!じゃあお大事にー!ほい鍵。閉めたら郵便受けに放り込んどいてください!」
 本当は体拭いてやったりすればいいんだろうが、時間がない。うっかりよく寝ちまったからなぁ。あったかいんだもんな。あの人。
長いことしがみつかれていたせいで少しばかり体が軋む。ああいう人でも不安になることってあるんだな。綺麗な女の人のところにでも転がり込めば…って、それはそれでアレだけ綺麗な顔してたら難しいのか?
まあなんにしろ、今日は家に帰ったら食わせるものを見繕って帰ろう。ラーメンと居酒屋は我慢だなぁ。
そんなことを考えながら家を飛び出した背後で、上忍が泣いていたことになんて当然気づかなかった訳で。
家に帰るなり告白されて拗ねてんだか怒ってんだか照れてんだかわからん上忍に再びタックルを食らって、ついでに今度は俺がベッドに運び込まれる羽目になったなんていうのは…まあ今となっちゃ笑い話なんだけどな。



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適当。

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