風呂でゆっくり過ごすのが好きだ。 そりゃ温泉にいければ最高なんだが、そうしょっちゅう休暇を取れるほど暇じゃない。 だからせめて少しでもくつろげるように、大き目の風呂がある家を選んだし、温泉の素を買い集めたりしている。 そう。ゆっくり過ごすのが好きなんだよ。 断じてせかされるようにシャワーだけで済ませたりなんかしたくないんだ。 「はやく」 「っ!落ち着け馬鹿野郎!いいからゆっくり湯船につかってこ…っん!」 血走った目は熱っぽく潤んで、半開きの唇からちらちらと覗く舌は、獲物を見つけて舌なめずりする獣のように落ち着きがない。忙しないのはそこだけじゃない。玄関を開けた途端に引っさらわれるように風呂場に押し込まれ、服を着たままだとかそういうこと以前にお帰りも言わせてもらえていない。 挙句服は破られそうなほど乱暴に、だが無駄なく素早く脱がされて、足元でぐしゃぐしゃになって転がっていて、今にも足を取られそうだ。 腹も立ったし、こんな状態が良い訳がないから、落ち着かせたくて耳を引っ張ってやったのにまるで堪えた様子がない。 「無理。毒は食らってない。返り血は…どうだろ?気になる?」 切羽詰ってることは、密着した下肢が知りたくもないのに教えてくれる。 その癖こうやって甘えた声でからかってくる辺りがこの男らしいといえばらしいのだが。 「あったりまえだ馬鹿!怪我なんかしてないだろうな!」 人の尻を揉んでる暇があったらお前が脱げといいたい。 脱がせて全部確かめないと安心できない。 里で待っていて無傷に決まっているこっちの体を確かめるより、先にする事があるだろうが。 怪我をすると俺に怒鳴られて行為を拒まれるとこの男が学習して以来、強引にコトを進めようとする回数が増えた。 ただ興奮しているだけで止まれないだけってことももちろんあったんだろう。散々好きにされてこっちが動けないのをいいことに、翌日機嫌よく鼻歌まで歌いながら洗ってくれたときに確かめたから。 だが移らない毒だからと肝心の手当て雑な血止めだけで、におい消しだけは無駄に徹底的にしておいて、全部終わってからそれに気付いたときに恐怖ときたら。 大丈夫だなんてそんなわけねぇだろうがとぶん殴ってやりたくても、手も足も碌に動いてくれないんだぞ?どれだけそれが怖くて情けなかったことか。 這うようにして手当てをしても、申し訳ないなんて少しも思っていない顔で、面倒臭そうに形だけ謝って続きを強請ってきたこの男に、まともな会話を期待するほうが間違ってるだろ。 怪我してるのか、興奮してるだけなのかなんて、こっちはそんな区別はつかない。 「さぁ?どうかな?ねぇ。確かめてよ」 それを知った上でのこの態度。…今ならぶん殴れる。それがコイツを刺激するだけだと分かっていても。 そしてそんなことをすれば、結局この男が怪我をしているかどうかなんて確認できなくなっちまうんだ。 …安い挑発には、もう乗ってやらない。 「脱げ。全部」 「えっち」 見せ付けるように脱いで見せるところをみると、今のところは大丈夫か?だが油断は出来ない。上忍だけあって、コイツが本気で隠し事をしたら、よっぽど注意していないと気付けないからな。 「下着も。脱いだら背中もみせろ」 「…いーけど。もっとえっちな声で言ってほしいなー?」 「うるせぇ。さっさとやれ」 「はぁい」 甘ったれたガキみたいな図体のでかい男をしっかり検分し、目に見えた外傷がないことは確認した。後は…まあしょうがねぇな。 「こっち向け」 「はーい。…ッ!」 よっぽど驚いたのか、息を飲んだのがわかる。ざまぁみやがれ。 …手っ取り早く口の中を探るには、唇を重ねるのが一番だ。唾液を、呼気の匂いも確かめて、どうやら本当に無傷であるらしいことを確かめて、やっと一息つけそうだ。 俺の不安の方は、だが。 「毒、飲んだわけじゃなさそうか」 「ちゅーしてくれたと思ったらそれなの?」 不満げな割りに下半身の勢いは収まっていない。折角沸かした風呂は、明日録に意識も保てない状態ではいることになるだろう。 コイツのせいで、俺の密かなくつろぎの時間が奪われる。 「っあ!うるせぇ…!アンタが、隠さなきゃいいだろうが…!」 「そーね。…全部見て?全部あげる。だって俺はイルカせんせのモノでしょ?」 えらそうな態度で、でも目がいつも不安げに揺れている。厄介で手のかかる大馬鹿だが、俺も同類だ。 風呂でくつろぐより、この男に振り回されている方が安心できるっていうんだからな。 「…アンタみたいに手が掛かるの、俺以外じゃ無理だろうが。…だから絶対に俺のところに帰って来い」 「うん」 こういう時だけ素直なのは、あざとすぎる。…意識してかしないでか知らないが。 抱きとめるだけじゃすまなくて、押し付けられた冷たいタイルを背に感じながら、呼吸さえ奪うような口付けを受け入れた。 何もかもを忘れて、この身の全てを請うこのイキモノに溺れるために。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |