おにごっこ(適当)


「おにごっこなら受けて立つ…!」
ちょっと待って。この中忍なにいってんの?
いきなり呼び出してくるわ仁王立ちで待ち構えてるわその上これだ。
おにごっこって…俺が知ってるおにごっこはほんのガキの頃に里人の子どもがやる遊びであって、まちがってもいい年した忍がやるもんじゃない。
ま、似た様な試験を課したことはあるけどね。
しかもこの口ぶり。まるで俺から先に喧嘩吹っかけたみたいじゃない?
そもそもなにをどうやって受けて立つつもりなのやら。
「えーっとなんの話?」
「とぼけるな!」
あらら。だめそう。こりゃ無理だわ。
人の話を聞きなさいって教えてる方なんじゃないの?この人。
ひとっことも人の話聞くつもりなんて無さそうじゃないの。
「…ま、訳がわかんないけど、どーすんの?」
逃げるという選択肢も勿論考えた。
というかむしろいつもなら逃げるの一択だったはずだ。
階級がどうのなんてことはどうでもいいけど、いきなり人を呼び出しといて喧嘩売ってくるっておかしいでしょ?
厄介事に関わるのはごめんだ。
それでなくてもいつもいつも女がらみでいらない逆恨みされてるしね。
俺はなんにもしてないってのに。
ガイだったら速攻カレーの美味い店があるから教えたいっていう人がさっきおまえを探してたとか適当なこといって追い払ってただろう。
でも、相手は…。
「鬼ごっこ、です」
真剣な顔でわけのわからないことを言うアカデミー教師だ。
それも…まじめの上にクソがつくような。
ちょっとおもしろいじゃない?基本的には人の迷惑になることなんて絶対にしなさそうだし。
もし自分の過失じゃなく迷惑かけちゃったりしたとして、この人なら責任逃れなんてせずに真っ向から責任を取ろうとするだろう。
忍にはちょっと不向きだけど、人間としては気に入っていた。
間違ってると思えば相手が誰であろうとぶつかっていく所も。
「一応もう一度聞くけど、なんでそんなことになってるの?」
本当にこれっぽっちも心当たりがない。
この人との接点なんて受付くらいだ。…普段から挙動がちょっとおもしろいから、ついつい目をやっていた覚えはあるけど、
いきなり喧嘩を吹っかけられる理由にはならないはずだ。
「勝負に勝ったらお好きなように」
つまり勝つまで言う気はないということか。
「ま、しょーがないね。…で、今から」
「ええ!」
闘争本能を隠そうとしない笑みに、我ながら驚くほど胸が躍った。
普段はおとなしそーな顔してるくせに、面白い。
そうして、夕暮れのアカデミー校舎でその勝負は始まったのだ。
*****
「すばしっこい…ッ!」
相手に地の利があることは承知の上だ。階級差があるってのにそこを変えろとまでいうつもりはない。
予想外だったのが男の素早さだ。普段から三代目の使いっぱしりみたいなことをさせられていて、随分ちょこちょこ動いてるなぁと思ってはいたが、あの外見だ。
本気を出すとここまで早いとは思いも寄らなかった。
「日没まであと少しですよ?」
余裕たっぷりってやつか。
いや、このからかうような笑みを含んだ台詞すら罠かもしれない。
姿は見えず、声もどこから来たか判別が難しい。
自分の耳を信じるなら上。だが恐らく札か術かで音が歪められているに違いない。
この鬼ごっこが始まってからこっち、見事なトラップの数々に舌を巻いている。
…一々意表をつく人だ。
面白い。まだそう思っている。というより更に気分が高揚している。
タイムリミットの短さは納得ずくだ。冬の陽は落ちるのが早い。
「…本気、だしちゃおっかな」
写輪眼を隠す額宛を取り払い、意識を集中した。
お遊びにこんなことをしたのがばれたら厳罰ものだ。
だが楽しい。…子どもの遊びにこんなに夢中になるなんて、自分でも予想外だ。
「…ッ!?」
息を飲んだ気配を確かに感じた。
「あらやっぱりこれは予想外?逃がさないけど」
見つけた気配をじわじわと追いつめた。
窓の外は少しずつ赤から紫に変わり、リミットが迫っている事を教えてくれている。
「わっ!?」
「つっかまえったっと!」
驚いたようにその身をばたつかせたイルカ先生は、俺の台詞でぐったりと体の力を抜いた。
「あなたの、勝ちです」
勝利宣言すら男前なんて素敵だよねぇ?
そんな事を思いながら捕まえたばかりの獲物を抱きしめた。
「じゃ、教えてくれますよね?」
*****
「あなたは、普段自分がなにやってるか覚えてますか?」
「下忍と任務して、個人任務こなして、修行して…ま、今のところそんな感じですかね?」
そういえば下忍を持つようになってから遊びに行くことも減った。
女を抱くよりこの人見てる方が楽しいからつい忘れてただけだと思うんだけど。
「やっぱり自覚してねぇのか…!アンタ最近ずっと俺のこと見てるでしょう」
「あ、ええ。そうかも。え?だめだったの?」
面白かったんだけど。嫌がられるとかそういえば考えてなかった。
でも何かしたわけじゃないしねぇ?…やっぱり駄目なことなのこれって?
「アンタがそんなだから!俺はくノ一の皆さんにたっぷり嫌がらせされてんです!アンタが喧嘩売りたいならいくらでも受けて立ちますが、女性を使うのは止めてもらおうと…」
「え?え?なにそれ?どーしてくノ一がでてくんの?」
わけがわからないんだけど。
女?いやでも女と遊ぶならあとくされがないのをってのが持論だし、くノ一なんて怖くて寝る気になれないし、里外でもちょっかい出した覚えないんだけど。
「アンタがもてるからですよ!嫌味か!」
「へー?そうだったの」
素直に驚いただけだったのに、中忍先生からは容赦ない怒声を浴びせられた。
「そうだったのじゃねぇ!自覚しろ!そんで文句あるなら見てるばっかじゃなくてさっさと言え!」
そっか。みてるだけじゃだめなのか。…でもだめ。側にいたい。ずっとみていたい。
駄目なんていわれてショックだったせいか、思わず頭の中の言葉を全部口に出していたらしい。
「へ?え…えーっとですね。友達になりたいとかそういう…?」
「え?うーん?友達…友達かぁ…?」
友達っていっぱいいそうよね。この人。それはちょっとイヤかも。
だって俺だけを見てほしいって、さっきのおにごっこで気付いちゃったし。
「変わった人ですね…」
しみじみいうから、思わず納得しかけたけど、この人だって相当でしょ?
いきなりおにごっこだもの。
「変わった人ですが、んー?お付き合い、しません?」
「へ?」
「だってね。その他大勢じゃなくて、俺だけかまってほしいなー?なんて」
「アンタ、ホントに変わってますね…!?」
あきれ返るというか、これっておびえてるの?どうしよ。…もっと酷いことしたくなりそう。
「変わっててもいーでしょ?鬼ごっこだってなんだってやりますよ?だから、どう?」
「…見つめるのを止めてくださるなら。俺が負けましたしね…」
どうせすぐ飽きるだろうなんて酷い呟きもくれたけど、とりあえずこれはおっけーってことだよね?
なら、遠慮しない。
「じゃ、今日から恋人ってことでよろしく」
「はぁ!?えっわぁ!なにすんだ!」
「俺の部屋でじっくり話しましょーね?」
担ぎ上げてその体温に疼く身体を自覚した。
どうやら本当にまるで気付いちゃいなかったけど、この人が自分から飛び込んできてくれたおかげで逃がさずに済みそうだ。
鼻歌交じりに獲物片手に急ぐ家路は楽しくて、断末魔のように最後に激しさを増す太陽の光を浴びてほくそ笑んだ。
「夜はこれからってねー?」


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適当。
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