おむつ(適当)


「いいなぁ」
「何がですか」
「んーんなんでも」
何でもというには含みのある発言だ。
男の視線をたどると、ちょうどニュース番組が途切れたテレビに写っているのはこの夏発売のビールのCMだった。
気の早いことだが、そういえばそろそろそんな時期か。
男はビールより、酒を好む…というか、酔わない分当たり障りのないもの飲んでいるだけなのかもしれないのだが。
わざわざ見ているということは、欲しいということだろう。恐らく。
まさかその前のオムツのCMじゃないだろうし。
いいなぁというのなら、今度買ってこようか。普段買うような安酒よりは高そうだが、この程度で財政が逼迫するほど困ってもいない。
二、三本見繕っておくか。
そう思ったとき、当の本人がもう一度ぽろりとつぶやいたのだ。
「赤ん坊っていいですよね。前はこんなこと思わなかったんだけど」
頭を後ろから殴られたように感じた。
そうか、そろそろそういう年だ。周りからも子どもを作れなどと冗談半分に告げられるようになった。
自分とて悩まなかった訳がない。密かに惚れていた相手に好きだと言われて、自分の恋情の抗えなくなっただけだ。
…この人が子どもを求められないわけがない。
覚悟を決めていたつもりだったのに、いざ別れという現実を突きつけられるとこんなにも苦しいものか。
クナイで切り裂かれるよりもずっと苦しい。いっそこの痛みの原因を、心臓を抉り出してでも止めてほしい位には。
「そう、ですね」
そういうのがやっとだった。
男がやけに楽しげに笑っていることにも現実感がない。
いっそ殺してくれたらいいのに。…この人の手で、後腐れなく全てを終わらせてもらえるのなら。
「そう思います?イルカ先生も。だってなにもかにも人にやってもらって構われて、大事に大事にされるじゃないですか」
「は?…え、ええ。まあそうですね。産まれたてなら」
そりゃ生まれたての赤ん坊は手がかかるものだ。ある程度に育つまでは、大抵の親が相当に苦労すると聞く。
…これは、何の話なんだろう。
「イルカ先生といっしょにいられるようになって、嬉しくて、今まで自分でなんでもやってきたじゃない?でもイルカ先生がお帰りなさいって言ってくれて、抱きしめてくれて、それにすごく大事にしてくれるから…なんだか自分が赤ん坊になったみたいな気分なんです」
「そ、そうですか?でも自分でなんでもやっちゃうじゃないですか。カカシさん」
「いーえ!こんなに色々してません。ちゅーだってハグだって一人じゃできないことでしょう?それでね、思ったんです。赤ん坊みたいに大事に大事にしてもらってるなぁって。宝物みたいに。すごく幸せ」
「そ、そうですか…!」
なんだ?惚気…なのかこれは。相変わらず言葉をかざらないというか、恥ずかしいくらいに自分の感情表現はまっすぐな人だ。
どうやらこれは…俺の早合点だったらしい。
そういえば、この人は別れたくなったらきっちり言いそうだ。任務での嘘は上手いけど、なんだかんだと誠実な人だから。
「イルカせんせ。それでね。そのー…こんなものまで勢いで!」
「アンタオムツなんてどっからもってきたんだー!?」
しんみりする余裕もない。…こっちの心配なんて全部すっ飛ばす勢いで、オムツプレイとか二人でオムツとか抜かした上忍には、とりあえず鉄拳制裁を加えておいた。
アンタがやるならいいですよ?っていったら本気で履くし、二人分あるとか、まだストックも十分ですとか…いろんな意味で予想外の人だ。相変わらず。
上忍暗部のくせに、男の俺なんかに告白しちゃうあたりで普通じゃないって分かってたけどなー。
「好きです。大好き!」
オムツつけたいい年の男にまとわりつかれて幸せ感じてる俺も、もうとっくに普通じゃないんだろうけどな。


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適当。
おむつぷれい。
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