計画的犯行(適当)



「お腹すいてない?」
「あー…えーっと…空いてるといえばまあ…」
「そ?じゃ、すぐ用意する」
「いえその。大丈夫ですから」
伽に使った格下相手にしちゃ随分な待遇だ。
本当ならさっさとこの天幕を出て行きたいところだが、足腰立たないんだから仕方がないというかだな。
さて、どうしたものか。そもそも行為自体に碌な同意もとらなかったというのに、こんなに腰が低いと却って対応に困る。
手持ちの痛み止めは床に転がってるベストの中だ。…立ち上がる事が出来ればなんとかできるかもしれない。
痛む腰と…その、人に言えない痛む箇所を庇いながら、芋虫のようにのたのたと寝台の上から降りようと努力していたと言うのに、ほそっこいくせに力強い腕に捕まってしまった。
「ぐえ!」
おまけにぎゅうぎゅうと抱きしめられて、呻き声が押さえ切れない。
だから痛いっつってんだろうが!…なんてことは言えないが、おそらく表情には出まくっていただろう。
「だーめ。ちょーっとタガ外れちゃったから、動けないでしょうよ。ごはん食べたらお薬上げるから寝てなさいね?」
アンタは俺の母親かと叫びそうになって、なんとかそれを飲み込んだ。
「うぅぅ…!」
気を遣うならやってる最中にしてくれればいいものを。
大体こんなに痛いのはこいつのせいじゃねぇか。
あんなもんあんなところに突っ込みやがって!だいたいアレも大きかった気が…まあ突っ込まれる恐怖で余計にそう思えたのかもしれないが。
人生初の経験が、痛いばっかりじゃなかったというのも余計に落ち込みを誘った。
…いやでもこの男が上手いだけなのかもしれないし!俺がそっち系の才能があったとはかぎらないよな…。
「はい。おにぎり」
「へ?あ、うわ、うまそう!」
食い物の気配であっという間に落ち込んでいたことさえ吹っ飛んだ。
ここの所の物資不足で、最後の飯は昨日昼にくった、干飯から作ったその辺の野草とか適当に獲った獲物入りの雑炊もどきだけだ。
そこへ来てこのうまそうな白い飯…それだけで涙が出そうになるのは、俺が食い意地張ってるせいってだけじゃないはずだ。美味い飯はそれだけ貴重なんだよ!なにせここは…戦場だから。
「よかった。ちゃんと食べてね?」
「ふが!んぐ!ふぁい…!」
口にいきなり突っ込まれたのはいただけないが、まあうまいからいいか。この際殺されなかっただけでも諦めた方がいいだろう。
今何時だろう。見張りの帰りにいきなり引っ張り込まれたから、仮眠の時間は大丈夫のはずだが、どうかんがえたってもうとっくに陽は昇っている。
「その顔、いいね。今度舐めて?」
「んぐ!う!」
…耐えろ。耐えるんだイルカ。ここは折角のにぎりめしを死守すべきだ。
抵抗したって無駄なのは昨日思い知らされている。…っつーか暗部だもんなぁ…。俺よりかわいい子いっぱいいるのに、どうして男を、それもこんなごついのを選んだのかはわからんが、力押しで敵わない以上、ここは涙を飲んで黙るしかない。
生きて帰らなきゃいけないんだから。
悲壮な覚悟で握り飯を頬張る。それでもやっぱり美味いのがまた逆に悲しい気分にしてくれた。
我ながら情緒が不安定すぎる。こんなことじゃあの子は守れないかもしれないのに。
「かーわいい。ね。俺はたけカカシっていうんだけど」
「へ?は、え!あの!聞かなかったことに!」
「ちゃんと覚えなさいよ。それから、次に襲われたら俺ははたけカカシのモノですって言わないとだめよ?」
「なんで」
ついぽろっと本音が。ついでに米粒も落下しそうになったけど、そっちははたけカカシと名乗った男が指で救い上げて口にねじこんでくれた。
「かわいいからやっちゃったのは謝るけど、自分のモノは大事にする主義なの。お買い得よ?」
お買い得って押し売りじゃねぇかとか、俺もアンタもモノじゃないんだからとか、かわいいって目は大丈夫かとか、たっぷりつっこみたいところはあったんだが。
「えーとですね。俺はその」
「好き」
かわいい声でかわいげのない濃厚なキスなんかしてきて、そのくせ捨てられた犬みたいな顔をするから…。
うなずいちまってからたっぷり後悔したから。…馬鹿だと笑ってくれていい。


同じ部隊で輪姦なんて気分悪い真似させたくなかったからひっぱりこんじゃったけど、うっかりやっちゃってだいせいかーいなんていう男の台詞を問いただした結果、どうやら里に残してきた子ども絡みで、人生初の襲撃者の正気を疑う事態になりかけてたってことを知った。
なんでそっちにいくんだ…。集団で襲われたことはあるが、幻術に梃子摺ったくらいであとは正面切って迎え撃ちすぎたから思い余ったのか…?
思い悩む俺に男が囁く。
「もうね。ホントに好き。どうしようね!人生ばら色なんだけど!」
なら、いいか。
そう思えてしまう程度には、時を重ねてきてしまった。
「俺も好きですよ。アンタのせいでうっかり人生ばら色なんで、勝手にどっかいったら許しませんよ!」
厳しく言いつけて、怪我の療養中のくせにやたらとやりたがる男の首を腕で締めてやった。
「ギブ!もーかわいいんだから!」
相変わらずどっかネジがおかしい男だ。そこがかわいいって思うんだから、なんていうか。
幸せってこんなもんなのかもなぁと思いながら、嬉しそうに頬をついばむ男の不意をついて、奪うように口付けておいた。
勢いって恐いもんだよなぁと思いながら。


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適当。
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