油断大敵(適当)

「あのね!あのね!」
「ん?どうした?」
「俺、分かったんだ!」
そう言って瞳を輝かせる少年に、俺の胸までなんだかわくわくしてきそうだ。
…まあ中身は…ってのを考えなきゃなんだけど。
この元上忍がこんななりになったのには理由がある。
なんでかしらないが、俺のうちに良く忍び込むコイツが、俺も良くわかっていないうみの家直伝書とか言う物を勝手に紐解き、ついでに自分にうっかりその術をかけた…らしい。
家に帰りついた俺は、締め切った書庫に響く子どもの泣き声に驚いて、ついでに完全に赤ん坊になっていたこの男の正体に気付かず、大慌てで火影様に上申したのだ。
で、結果的にこれが実は件の上忍様だと分かったわけだが…分かった所でどうしようもなかった。
発見されて数日で赤ん坊から幼児というには育ったのを見て、火影様は冷静かつ冷淡に俺に命令した。
「お前が面倒みな!」
…そのあからさまに面倒くさそうなざっくりした指示に従いたいわけがなかったが、逆らうなんて到底できるわけがない。
自分の家のもので上忍を戦闘不能に陥らせたのも事実だ。
諦めて連れ帰った子どもは、見れば見るほど確かにあの男になる要素をたっぷり備えていた。
整った顔は、今は幼くてもいずれはあの冷たく感じるキレイな面になると分かるし、性格は…まあ素直だが、頭の回転の速さは舌を巻くほどで、なにもかもが幻だっていう気休めさえ、俺に与えてはくれなかった。
今もなにやら発見したらしい。
俺の服のすそをぎゅっと握り締めてキラキラと瞳を輝かせている。
目の毒だ。こんなにかわいいのに将来はアレになっちまうなんて信じたくない。
人の服脱がすわ襲うわ…その上既成事実だのなんだのと喚く男の素がこんなにきれいな生き物だなんておかしいだろう?
よっぽど教育が悪かったんだろうか。
俺が側にいる間だけでもまともに育って欲しいと、とりあえず必死になって子育てにいそしんでいる訳だが。
「どうした?何かおもしろい物でもあったのか?」
視線を合わせるようにかがみこむと、それはそれは嬉しそうににこーっと笑った子どもが、すごい勢いで顔を俺にぶつけてきた。
唇に唇が重なり、ついでにものすごい勢いで吸い付いてきたお陰で、危うくひっくり返る所だった。
「俺、イルカのこと好き!」
「へ?え?ええええ!?」
とりあえず踏みとどまっていた体は、その台詞のおかげでしっかり後ろに倒れこんでしまったのはいうまでもない。
*****
「好きー!」
「黙れ!」
「イ・ヤ!っていうか無理。好きだもん!」
「いい加減にしろ!」
「無理!」
「うぅう…!」
子どもの言うことだと我慢して、後数日でもとに戻ることだと己に言い聞かせたというのに…元に戻っても変わらないとかどういうことだ!
「ほら、イルカ先生には俺の初めても奪ってもらったことだし、隅々まで知られてるし…もう責任とって結婚してもらうしか!」
「アンタが勝手にやったんでしょうが!?」
そうか、まさかそのためだったのか?あの妙な術をわざわざ自分にかけてまで、こんなことを?
最初の頃などなれないオムツ交換までやったのだ。それをまるで破廉恥な行為を下みたいな言い方を…!
本人に自覚はないんだから、今は普通の子どもとして扱うしかないと遠慮していたのが仇になった。
この傍若無人な男がこんな事をたくらんでいたなんて…イヤ、ちょっとは疑うべきだったよな…この人上忍なのに頭おかしいからな。
「ま、諦めて?家事も仕込んでくれたお陰で完璧でしょ?あっちの腕は元々そこそこ自信あるけど、キス。ちゃんと教えてくれたもんね?」
「教えてない!あんたが毎日ちゅーちゅー言って吸い付いてきただけだろうが!」
「きゃー!イルカ先生ったらえっち!」
「どっちがだ!?」
…穏やかな生活はそういえば随分前から失っていたが、ここまでやる気を出されるともうどうしていいのやら…。
へたり込んで溜息をついた途端、背中にのしっと子どものようにのっかってこられて、危うくそのまま潰される所だった。
「なにすんだ!」
「えー?とりあえず既成事実を…」
「や、やめろ!それに、うぅう…!」
「ま、もう一杯したけどこういうのって繰り返しが大事でしょ?」
輝くような笑顔。
…そうだ。たかが子どもとすっかり油断していた俺は、下忍たちと同じくらいになって一応任務に借り出されていたコイツが帰ってくるのを待っていて…帰ってくるなりやたらでかく育っていたコイツに襲われたのだ。
泣きそうな顔するし、縋るみたいに抱きついてこられてうっかり抵抗が甘かったというかなんというか…それ以来、隙を見せればこうやって押し倒してくるようになった。
もうとっくに元に戻ってるって言うのにだ。
「なんでこうなったんだ…」
体をまさぐる手を振り払いながら涙を拭うと、男が笑いながらそれをいなし、俺にぎゅうぎゅう抱きついてきた。
「そりゃ、運命ってヤツだからでしょ?」
この男が執念深いのも、諦めるって事をしらなそうなのも知ってしまった。
ねちっこく人がもうやめてくれって言ってるのにスルし…!
絶望とも諦めともつかないなにかが、俺の体から力を奪っていく。
嬉々として服を引っ剥ごうとするコイツと戦わなきゃいけないってのに。
でも、なんかなんでこんなに嬉しそうにするんだよ…!
「信じないからな!」
「ん。だいじょーぶよ。信じるまでするから」
その完璧な自信に満ち溢れた笑顔にさらに抵抗を奪われ、ふわりと落された先は愛用の万年床で…。
つまり…俺の平穏な生活ってものは、どうやら戻ってきそうもない。


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適当。
とりあえずいちゃぱら。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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