王子様(適当)


これのイルカてんてー視点追加。


「あら?じゃ、好きなんでしょ?」
あっさりと言い切られて嬉しさより絶望感が広がった。
最近顔色が悪いと同僚にも言われていたものの、どうしてかなんて自分でも理解できずに、ただ忙しいからだと自分自身も誤魔化していたのに。
好きなんだと自覚した途端に、苦しくてたまらなくなった。
ずっと見ていたから知っている。
あの人にとっては俺は単なる知り合いでしかない。
子どもたちと話していても、気がつくと少し冷ややかにも感じる冷静すぎる視線を向けられていることばかりだった。
ついさっきだって、受付所で俺の誕生日プレゼントに何が欲しいかしきりに聞いてきたナルトを呆れたようにたしなめ、俺には「五月蝿くしてすみませんね」とだけ言ってさっさと出て行ってしまった。
同性で、格下で、しかもどちらかというと元生徒がらみで迷惑ばかりかけている。
きっとあの人にとっては、俺自体が面倒事でしかないはずだ。
「…好き…」
どんよりとにごったため息は、目の前の美しい女性にまでため息を吐かせた。
「しょうがないわねぇ?ひょっとして自覚してなかったの?」
「うぅ…はい…」
髪を掻き上げる姿は、極上のくノ一らしく美しくて…当然のことだか艶っぽい。しかも資料室とはいえ二人っきり。思わず鼻腔に生暖かい液体が溢れさせているはずだった。
今までなら絶対にこのあたりを血の海にしていたはずだ。
だが、男として胸が高鳴るはずの場面だというのに、俺と来たら去り際のあの人のうなじにかかる後れ毛や、手甲とアンダーの間から見える手首とか、そんな事ばかりで頭がいっぱいなのだ。
「…胸が苦しい、どこかおかしいんじゃないかなんて言うから心配したけど、単なる恋わずらいなんてね。まあそれも厄介だけど」
「すみません…」
わざわざ時間をとってもらった挙句に、結局は己の鈍さが原因で気づけなかっただけで、その上気づいたところで叶いそうもないなんて最悪だ。
しょげ返る俺に、美しい赤で彩られた指先が触れた。
くいっとあごを持ち上げて、こちらもなまめかしい赤がにんまりと弧を描いている。
流石紅先生だ。…これだけで大抵の男はひれ伏したくなるだろう。
自分がそこに含まれなかった理由を考えると、情けなくも涙が出そうになった。
俺の中はこんなにもあの人でいっぱいだ。
「ねぇ?イルカ先生はどうしたいの?」
「え!?あ、その、大丈夫です!ただ、その!…もう自覚したわけですし、後はこれと付き合っていくしか…」
思いを押し殺すのは幸い慣れている。
顔に出る方だという自覚もあるが、これでも中忍だ。
それにあの忌まわしい獣を封じ込められてしまった子どもを守るために、どんな相手でも笑っていることはできる。
…はずだ。今はまだ上手くできる自信がないにしても。
「…それで、本当にいいの?」
言外に俺の意思に気づいたんだろう。
気遣わしげな声音に、申し訳なさがこみ上げてきた。
本当なら自分で解決すべきなのに、声をかけてくれたことに甘えてついつい情けないところを見せてしまった。
…この優しい女性に、これ以上迷惑は掛けられない。
「いいんです。見込みがない所の話じゃないですし。…理由が分かれば耐えられます。ありがとうございます」
痛みには耐性がある。心も、体も。
しばらくは苦しくてもいつか時が解決してくれるだろう。
笑顔が引きつっていないことを祈りながら、相談に乗ってくれたことに感謝した。
ふっと指先が離れて、そのほっそりした彼女自身の顎に当てられた。
「ねぇ。イルカ先生って明日誕生日よね?」
「え!ああ、はい!お恥ずかしい…ナルトですね?」
「あの子もそうだけど、うちの子たちもお祝いしたいって言ってたもの。当日は仕事だろうから週末にって。あ、これ言ったの内緒よ?イルカ先生は好かれてるわね」
「…そうですか…!あいつら…!」
子どもたちの気持ちは素直に嬉しかった。
だが…それと同時に湧いて出た欲深な願いには目をつぶらなくては。
あの人に、祝って欲しいなんて。
「…喉渇いちゃった。お茶貰ってもいいかしら?」
「あ!はい!俺、淹れてきます!」
資料室では長時間の調べ物をする人が多いから、給湯設備も小さいながら設置されている。資料を汚さないためにその部屋だけで飲食が許可されているから、お茶だのちょっとした食料もあるし、紅先生のお礼にもならないにしても、せめてそれくらいはと思ったのに。
「いーのよ。ある意味私のためでもあるしね?」
「え?」
「…自覚ないっていうのはタチ悪いのよ?…アイツも…」
「あの、申し訳…」
「ああ、違うの。…でもごめんなさいね?」
「いえ!そんな!」
「じゃ、ちょっと待ってて?」
「はい!」
そうして程なくして教えたこともないのにお茶を持ってきてくれた紅先生に進められるままにそれを飲み干して…そこからの記憶はぱったりと途絶えている。
*****
幸せな夢を見ていた気がする。
暖かい夢。…ずっと昔、父ちゃんと母ちゃんと誕生日の歌を歌って、ケーキのろうそくを吹き消したときの夢。
それからいろんな人たちがでてきて、俺に沢山おめでとうを言ってくれた。
でも折角おめでとうって言ってくれた人たちは少しずつ消えていって、寂しくて寂しくて泣きそうになったとき。
「お誕生日、おめでとう。イルカ先生」
大好きな人から、今一番言ってもらいたい言葉をもらえた。
…だからすぐ、これが夢だって分かったのに、俺は目を覚ましたくなくて。
「ありがとうございます」
せめてと思ってお礼の言葉を言ったら、なぜか抱きしめられてしまった。
「え、えっと?」
「…寝よ?」
こんな風に誰かの体温が近くにあるのは久しぶりすぎてどきどきするのに、その心地良さに簡単に意識は薄らいでしまった。
夢の中のはずなのに、また眠るなんて不思議だ。
うっすらと開いた瞳には俺をしっかり抱きこんで眠る人の顔が映りこんで、それだけでなんだか幸せな気分になった。
逆らえずに穏やかな波に流されるように意識が沈んでいく。
どうせ夢なんだから、いいよな?
そう思ってぎゅっとだきついて、それから目の前のさわり心地の良さそうな髪の毛を撫でるとやっぱりふわふわでやわらかくて。
この夢だけでも最高の誕生日プレゼントだなぁなんて思いながら意識を飛ばした。
*****
「どう?おいしかった?」
「は、はい!」
…夢だけど何処まで夢だったんだろう。
目覚めたらこの人の腕の中だった。しかも一番言ってもらいたかった言葉を、夢じゃなくて本当に言ってもらえた。
嬉しくて舞い上がる自分を何とかするのが精一杯だ。
…なにがどうなってこんなことになったのかは分からないんだけど、どうやら紅先生のいたずらだってことらしい。
煮詰まっていた俺のために、ショック療法でも仕掛けてくれたのかもしれない。
事情が飲み込めなかったから、俺には過激すぎて慌てふためくことしかできなかったけど、今度お礼を言わなくては。
…告げられない思いの代わりに、夢じゃないぬくもりを欠片でももらえたから。
喉を通らないと思った朝食も、この人と一緒に作ったんだと思ったら、もったいなくて綺麗に全部平らげてしまった。
「イルカ先生、結構料理できるのね」
「あ、はい!その、一人暮らしが長いので。まあ男料理しかできないんですが」
「ふぅん?…ああ、ケチャップついてる」
ちゃんと会話をするのなんて殆ど初めてだ。そんな人が俺の口についているらしいケチャップを指でぬぐって、そのまま当然のように自分の口に運んだりしたら、うろたえる以外何が出来るって言うんだ。
「ふえ?あ、あの!」
「ん?どーしたの?」
「…いえ、なんでもないです…」
…大したことないんだろうな。色々その、経験値も違うんだろうし。
うろたえた自分が恥ずかしくて、思わず視線をそらしてしまった。…元々素顔を見るだけで胸がいっぱいになるから、ちゃんと目なんてあわせられなかったんだけどな…。
「ね、今日お休みなの?」
「はい。誕生日だから丁度いいだろうって、溜まった有給消化に当てられまして…まあ休みなんて貰ってもすることなんてないので、修行でもしようと思ってたんですけどね」
祝ってくれるという子どもたちも、どうやら週末に俺を招待してくれるつもりだったらしいし、今日は一人で家に帰って余韻に浸ろう。
迷惑をかけてしまった分、ちゃんとここを片付けてからにしないといけないけど。
「…なら、いいよね?」
「え?何がですか?」
なんだか近い。何がって顔とか手とか…それでなくても気恥ずかしくて、晒された素顔を正視できないでいるのに。
「誕生日、祝わせて欲しいんだけど」
「え!でもさっきおめでとうって言っていただけただけでも十分ですから!」
祝うって言ってくれたってことは、きっとカカシ先生も休暇をもらえたんだろう。
どうせならゆっくり休んで欲しかった。
最近ずっと疲れているように見えたし、子どもたちの相手は慣れないときっと精神的にも苦労するだろうから、こんな風に自分のために無理をして欲しいとは思えない。
…それに、その言葉だけでも十分嬉しかった。ただの気まぐれかもしれなくても。
「じゃ、勝手に祝うから」
祝うという割には真剣すぎる顔が近すぎるほど近くにある。
顎をつかむ手は俺よりも細く見えたのに力強くて、それでなくても魅入られたようになっていた俺を捕らえるには十分だった。
「ん…ぁ…」
「…どうしよ。誕生日なのにごめんね?」
「え…?」
「最後までしない。でも気持ちよくなって?」
「あ、あの!?」
まるで縫いぐるみでも持ち上げるみたいに簡単に、俺の体はベッドまで運ばれていた。
「あのね?アナタを好きになっちゃったみたいなんだけど。…嫌だったら殴ってでも止めて」
…そうでもしないと止められないなんていわれて、頭が沸騰するかと思った。
「あ、あの!俺も!あ、あなたが、好きです…!」
「ウソ」
「…ウソついてどうするんですか…この状況で…」
真っ先に決め付けられて流石にいらだって言い返すと、なぜか酷く納得されてしまった。
「そうね。イルカ先生ってこういう方面で駆け引きとか出来ないでしょ?」
「うぅ…はい…」
事実なんだけど経験不足といわれているようで居た堪れない。それでなくてもいろんな意味でこの人の経験を追い越すことなんて絶対に無理そうなのに。
「どうしよ。嬉しい」
…ぎゅうっと抱きしめられて嬉しいのは俺の方だって言う前にまた唇を奪われて、それから。
「後でいっぱいお祝いさせて?…それと、べただけど俺もプレゼントってことで」
「あ…」
そうして誰よりも近くにこの人を感じて、溶け合って、訳が分からなくなるくらい互いの熱におぼれた。

…結局、お互い離れがたくて、お祝いが出来たのは翌日になってからだったけど。
その日は俺の最高の誕生日になったのだった。



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適当。
ちゅ、ちゅうとはんぱにながい…ま、いいか!←適当。
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