おいしいはなし(適当)


「いいの?それで」
「…はい」
 ほんの少しだけ親しくしていたことがあったとはいえ、それは一瞬で、それもずいぶん前の話で、今のこの人は六代目。
 つまりここは火影の前だ。
 緊張もするし、何よりこの決断にどうやら賛同してくれているわけではなさそうなのも気に掛かった。
「なんで?教職が天職でしょ?」
 そうだな。そう思っていたかった。だがまあ何事にも潮時ってものがある。
 古傷の治療もかねて温泉めぐりをしたりもしたが、年を重ねるごとに悪化していったそれは、もはや隠し切れないものになっていた。もはや忍ではいられないくらいに。
 あの子に気づかれれば嘆くだろうし己を責めるだろうと、それだけが気に掛かったが、未来のある子どもたちを危険にさらすよりはと思えば、決断する他なかった。
言い訳は用意しておいてある。平和な世の中を見てまわりたいってのは、さほど違和感のある願いじゃなかった。
忍を引退するには若いが、教職を辞して簡単な視察任務をメインにするというのはさほど受け入れられない内容でもないはずだ。
五代目にそれはもう嘆かれて、いっそ新しい医療忍術を開発するとまで言ってもらえた。それだけ惜しんでもらえたことだけで十分だ。
 リハビリだなんだってのに耐える自信はあったが、それをあの子に隠し通せるとは思えない。鈍いくせに俺のことにだけは妙に聡いからなぁ…。それに呆れつつも嬉しくも思っているから、こうなったことを後悔してはいない。
 あの子の傷になりたくなかったのは、ただの俺のわがままで感傷で、それからまあ、誇りでもある。
 あの時間に合わなければ、あの子も伴侶を得ることもなく、むしろ幻術に沈む世界に抗することもできなかったんだ。それなら中忍の一人が使えなくなったくらい、代償としちゃ安いもんだろう?
「先ほど申し上げましたが、平和になった世界を見てまわりたいと思いまして」
 実際他国との交流も順調だ。教育に関する意見交換をする機会も増えた。俺の任務はその助けとなるだろう。
 少なくとも動ける間は。そこから先は…任務先で適当に理由をつけて住み着こうか。いつまでもつか分からない身で、この里にもどれはしないから。
「ふぅん?」
 気のない返事とは裏腹に、妙に視線が鋭い。この人は色々と聡いから勘ぐられることは予想の範囲内だ。里を出る許可が下りるまで痛くない腹を探られることは覚悟してあった。
 裏切りを疑われるってことはないと信じたいんだけどなあ。
 責任ある立場だから、そう易々と人を信じることもできないだろう。おそらく調査は免れない。里同士の境目が緩んだとはいえ、里抜けが重罪であることには変わりはない。できればそんなに長引かないといいんだが。
「それではよろしくお願いいたします」
 頭を下げて、退室しようとしたら、突然笑顔になった里長が片手で俺を招いた。
 なんだか招き猫みたいだ。この人犬使いなのに。それが少しおかしくて、ふらりと近づいてそれから。
「んーとね。何で言わないの?」
「え?」
 がっしりと首の後ろをつかまれて、それこそ猫の子みたいに引き寄せられた。顔が近い。この人老けないよなぁ。顔を半分隠してるからってのを抜きにしても綺麗な顔してやがるぜ畜生。
 この人と離れることも、ほんの少しだけ寂しく思っていたことを、今更ながら思い出していた。
「怪我、酷いんでしょ?神経と骨が癒着してるって、今綱手姫が治療に必要な組織だなんだってのを用意してるよ?」
「え!いえ!お断りしましたよ!?」
「お断りは俺がお断りしたの。ちゃんと治してあげてってお願いしてきてあるから」
「ちょっと待ってください!そんなのは、俺が決めることです」
「ヤですよー。ああ任務ならあげますよ?綱手姫がね。岩隠れの研究所に視察に行くの。その護衛として3ヶ月。その間にしっかり治してもらってらっしゃい」
「は?」
 護衛って、今の俺じゃ元火影の護衛なんて勤まらない。正直にいうなら歩くことはできても走るのは相当きつい。こんなんじゃ何かあったらどうしようもできないじゃないか。
 不満は顔に出ていたらしい。呆れたって顔でため息なんかついて、ついでに額宛まで外されてしまった。
「あのね。俺だってあなたが遠くに行くのは嫌なの。でもその怪我ほっといたら死ぬよ?」
「…覚悟の上です」
 歩行ができなくなるだけじゃない。このまま神経を圧迫され続ければ全身に影響がでるって話はもう聞いていた。しかも細胞の一部がタチの悪いものに変わっていると言われて、手の打ちようのなさに却って笑いさえこみ上げた。
幸い連れ合いもいない。一人身の気楽さをこのときほどありがたく思ったことはなかった。
 心配なあの子も所帯を持って、もうすぐ子も産まれる。それを見られないのは残念だったとしても、幸せな家庭に波風なんて立てたくないじゃないか。
 ひっそりいつの間にか消えられたら。…実のところそれが理想の死に方だった。
「アイツが気づかないと思ってたの?」
「え?」
 最近は会っていなかった。結婚式でさんざっぱら泣かされて、ときどきすれ違うときも二人よりそって幸せそうにしてたのを見るくらいで、ちょっとした会話を交わすのがせいぜいだった。
 まさかな。この人お得意のハッタリだ。きっと。
「ふぅん?この手でも釣れないか。ま、いーけど。ねぇ。お願いだからもうちょっとがんばってみてよ。任務にしたから逃がしてあげるつもりはないけど。新しい研究に協力ってことで、ちゃんと話は通してあるし」
 そうだ。遠方の任務。アイツが立ち寄ることもできなければ、気づかれる可能性も少ない。そっちの方が俺にとっては重要だ。
「ですが、俺には護衛は」
「うん。建前上はね?あの女傑をそんじょそこらの連中がどうこうできると思う?シズネさんも当然随行するしね」
「は、はぁ」
「ってことで、よろしく」
 微妙に吊り上げられたままそういわれて、思わずうなずいてしまった己を後で責めたりもしたもんだが、結局話はトントン拍子に進み、五代目…先代様に今度は文字通り首に縄でもかけられそうな勢いで犬の子のように引きずられながら里を後にすることになった。


 治療は簡単とは行かなかったが流石に最高峰と呼ばれる医療忍術を使う先代様の考えた治療法だけあって、恐ろしい速さで痛みは治まりをみせ、途中歩けなくなったり動けないこともあったが、暇なのかそれとも監視のつもりか、六代目からも定期的に手紙や通信がきてきっかり3ヶ月経った頃には、もう大丈夫だと太鼓判を押されるまでになっていた。
 初期は不眠不休で治療に当たってくださった先代様が心配で、もういいと何度繰り返したかわからない。それでも諦めずに…弱気さを頻繁に怒鳴りつけられはしたが治療してくださったおかげで無事、いやいっそ元より軽くなった体で再び木の葉の土を踏むことができた。
「おかえり」
 そう言って笑って出迎えてくれた人に教職の復帰を拒まれるとは思わなかったが。
 いわく、もう誰にもあげるつもりはない。…んだそうだ。
「いいじゃない。俺が言わなきゃいらなかったんでしょ?ちょうだいよ」
そんなわがままを言う男は、あっさり俺の身分を自分の側付きに変えてしまった。
 確かにこの人のおかげで助かったのは事実だ。ナルトも多分気づいちゃいない。生まれる子の名前を紙に書き散らしては相談しに来て、六代目に追い返されてるけどな。
「…六代目。事務作業は確かに得意ですが…」
「ヤダね。聞かないよ。…やらせろとか言ってないんだから、いいじゃない」
「は?いや、俺は女じゃないのでよくわかりませんが、秘書官にそれ言ったらぶん殴られますからね!?」
 やらせろって…激務でたまってんのかな。俺も…大分枯れてきたし、治療のせいでそれどころじゃなかったけどそういや大変だろうなぁ。この環境。
間抜けな答えを反省したところで、いつぞやのようにまた手招きされた。
 これは曲者だ。こうやって呼ばれたときは、教職復帰願いを却下されたり、代わりに側付きに任命されたり、俺の借りてた部屋を勝手に撤収されてて、火影邸にそっくりそのまま移動されてたりしたからな…。なに考えてるんだろうな。この人。
 死にたがりだったのはむしろこの人の方じゃなかったか?俺は無理なものを諦めようとしただけで、そうそう死にたがったりはしないのに。
「あの、ね?もしかして全然わかってない?」
「え。あ。はい」
 なにをだと聞くのもはばかられるうろたえぶりに、こっちまで少しばかり焦る。何で頭なんて抱えてんだ?痛むならすぐに綱手様を呼んでこないと。
「好きなんだけど」
「は?」
 摘み上げられた状態から逃れようともがもがしてたら、唐突にそう言われた。なにが?人をつまみあげるのが?この状態は結構苦しいんだが。新しくなった忍服のベストが薄いせいだろうか。
「ああはいはい。分かった。何も分かってないのね。じゃ、いーや。今夜俺と過ごして」
「えーっと。しかしこの書類の量じゃ…」
 堆く積み重なった書類たちは今にも倒れそうだというのに、絶妙のバランスを保って部屋中を満たしている。俺が戻る前はもっと酷かったことを考えるとこれでもずいぶんましになった方なんだが、いかんせん仕事が多すぎるんだよな。技術の開発とか市街地の整備とか、一切合財一度にこなしてるから。もちろん俺を治した技術もどんどん次世代の医療忍に受け継がれている。
「こっちはもう終わってるから。それだけでしょ?ああ風呂は入っておいてもいいけど、俺の部屋に来てね?そっちも防音してるけど、俺の部屋の方が確実だから」
「はい」
 機密か。この部屋でもいいだろうに。まあ多分もうすぐナルトが名前候補の相談にくるだろうけど。ヒナタに相談しろって言ったらそういやそうだったってばよとか言いながら飛び出していったから、そろそろ決まる頃だろう。ヒアシさんに家長として長子の名を早く決めろとか決めないなら日向の長としてワシが決めるとかとかなんとか説教くらって、舞い上がったままかちょーってなんだってばよって聞きにきたからなぁ。
 おもちゃも片っ端から見てまわってて、でもアイツそういうので遊んだことがないから勧められたもん片っ端から買いこもうとするし、大変だった。そういうのより服とかオムツとかベッドとかじゃないのかって言ったらカタログ持ち込んで大騒ぎしてたし。
…そうだな。アイツが飛び込んでくる可能性を考えたら、この部屋や俺の部屋よりこの人の部屋の方が安全だな。
 アイツに言えないってことはもしかして次代がどうのって話が本格化するんだろうか。この人の手腕は恐ろしいほど確かだから、アイツに夢をかなえて欲しいってのと同じくらい、この人にもがんばって欲しくもあるんだが。
「ん。もういーや。案ずるより産むが易しっていうしね?」
「そうですね」
 よくわからないが、相談事くらい朝飯前だ。できればヒナタの出産祝いの相談とかならいいんだけどなぁ。
 ドタドタと分厚い扉をものともせずに響く足音に気を取られて、背後でこの人がどんな表情をしているかなんて気づかなかった。もちろん、呟かれた台詞にも。
「食ってから考えるってのもありだよね」


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適当。
_Σ(:|3」 ∠)_ ねおちた。

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