「あのさ。どうすんの」 「どうするもこうするもありませんよ」 俺たちは追い詰められている。 周囲を敵に囲まれ、逃げ回ってふりきったはいいが、逃げ場のないがけっぷちだ。早晩ここに気づかれ、襲撃を受けるだろう。 笑えるほどに後がない。 怪我の手当てもろくにできないまま走り続けたせいで、随分と血を流してしまった。 それを霍乱と陽動に使ったお陰で逃げ切ったとも言えるが、意識を保つのが難しくなってきている。 ここは一つ起死回生をかけて勝負に出るしかない。 幸い同行者は凄腕の上忍だ。チャクラぎれ寸前なんていうありがたくもないおまけつきだとしても、俺一人で戦うよりはずっと生き残る可能性は高いだろう。 「もーなんでそんな無茶するの!」 「しょうがないでしょうが!俺しかいなかったんですよ!」 救援要請を受けたはいいが、俺の方も単独任務で、かといって里の救援を待っていたら助かるものも助からない。 なにせこの人さっきまで指一本動かせなかったからな。 俺の教え子から貰った特製の兵糧丸のおかげでなんとか歩けるくらいにはなってくれたからどうにかできたようなもんだ。 だめなら目をえぐれとか騒いでくれたお陰で敵に見つかったもんなー。この落とし前は帰ってからきっちりつけてもらわねぇと。 …そのためにも絶対に里に帰ってやる! 「ちょっと!」 「正面突破じゃ無理ですし、アンタの今のチャクラじゃこの崖から飛んだりできないでしょうが」 「そんなのやってみなきゃわかんないでしょ?」 「そんなによろよろしてるくせに馬鹿抜かせ!」 会話が通じないって言うか…なんでそんなにどうでもいい所で必死なんだ! 「ねぇねぇ。ちょっとおもしろいこと思いついたかも」 「は?」 この切羽詰った状況で何を言い出すんだこのクソ上忍…もとい写輪眼様は! 「いいからほら耳貸して」 こういう顔はアカデミーでもよく見る。こっそり悪戯しようとしてても、すぐ分かるんだよな。 絶対にろくでもないことだと思う。…思うんだが。 「…手短に願います」 一応相手は上忍。無碍にもできない。それにこの人はこれでも凄腕の上忍のはずだから、なにかしらの打開策を思いついた可能性だってある。 しゃがみこんで耳を貸そうとした途端。 「え?」 俺を抱え込んだ男が崖に向かって飛んだのだと気づいたのは、なんともいえない自由落下を体感してからで、とっさにチャクラで男を抱え込んで崖に張り付くことができた忍の反射神経に感謝した。 「な、なにすんだあんた!」 殴りたい。殴ったら谷底までこの男と落ちていくしかないからできないが。 普通へらへら笑えるか?この状況で! 「どきどきしましたか?」 「しましたよ!ええ!このまま死ぬかもってな!」 「ときめかない?」 「アホ抜かせ!…もういいです。アンタは今チャクラ切れで頭がおかしくなってるんです。黙って俺について来い!」 「はーい!」 うん。だめそうだ。チャクラ切れじゃなくてもおかしかったのかもなぁ。この人。 里じゃ、ちょっと変わってるが腰が低くていい人だと思ってたのに。 まあ無茶をしたお陰で結構な距離落下した。敵も態々追っては来ないだろう。谷底まで降りてさっさと逃げればなんとかなるかもしれない。 「ちゃんと掴まっててくださいよ!」 「はーい!」 えらく素直なのが逆に気持ち悪い。何たくらんでるんだか知らないが、里に帰ったら目玉の件の分と今回の分で思いっきりなにかこう…一楽でもおごってもらわないと気がすまない。 あのふわりと漂う美味そうな香りを思っただけで、元気が出てきた。歩みだす足は多少よろついていたが、崖の上にいたときよりはよく動いてくれた。 そうしてなんとか男を連れて里に帰ることはできたんだが。 「なにすんですか!」 「え?つり橋に失敗したので実力行使っていうか、俺について来いってすっごくかっこいい台詞ですよね?」 訳のわからないことを頭に花でも最低そうな笑顔でまくし立てる上忍に押し倒されているこの状況…。 どうなってんだ。一体。 「かっこいいかどうか知りませんが、アンタ病院どうしたんだ!」 「あ、入院嫌いなんです」 「嫌いで済むか!」 「あ、でもイルカ先生好きです」 「は?」 なんだろう。この馬鹿ぶん殴って捨ててきてもいいだろうか。…まああれだけ苦労して里に持って帰ったんだから多少もったいない気がするけど。 「一生ついてこうと思いますので、宜しくお願い致します」 幸せです!って顔中に書いた男に抱きつかれて、俺はどうやらとんでもないものに引っかかってしまったのかもしれないと、今更ながら涙したのだった。 ********************************************************************************* 適当。 やまなしおちなしいみなし。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |