寝込みを襲うって計画を立てたことはあった。だってこの人中忍のくせに隙がないんだもん。狙うなら今ってときになって気づかれることが多くて、そのくせこっちの意図には少しも気づかないから笑顔でホコホコ近づいてきては元気いっぱいに世間話ってやつをしかけてくる。 なんていうか、ね。我慢の限界ってヤツ? 酒好きで浴びるほど飲ませても酔いもしないし、どうも戦忍時代に耐性つけてるみたいだから、一服盛っても効果はさほど期待できなさそうだ。 ぼけーっとしてみえて隙がないから身辺探ってみたらでるわでるわ。戦績は中忍でいる方がおかしいとすぐにわかる華々しさで、なんでかしらないけど妙な空白期間もあるし、もしかして同僚だったりした?って思ったけど、あんな人ロッカールームでみたことないしなぁ。 俺、結構チビの頃からあそこにいるから実は主みたいなところあるし、例の名前を口にするのもおぞましい黒い衛生害虫が出たときなんて、誰のロッカーに何が入ってるかとか調べてリストにしたこともあったし(ちなみにテンゾウのロッカーにやたらと注目が集まったけど、出てきたのは大量の建築関連書籍と大量のクルミと異常にきれいに畳んである暗部服とトランクスと手ぬぐいだけだった。絶対アイロンかけてあるよアレ。あとアイツ丸薬とかどうやって管理してんの?もしかして生やしてる?)、あそこの資料室にこっそりいちゃパラそろえたのも俺だし、年齢が近い奴が入ってくることって少ないから目立つのに、気づかなかったってこともないはず…だと思うんだけど。遠征任務中に入って、帰還する前に抜けたとか?死んでもいないのに抜けるって珍しいと思うんだけど。適性は…まあなさそうだけどな。優しいのと無鉄砲なのが同居してる時点で忍としてもちょっとどうかと思う。 まあ正体はどうでもいい。問題はこっちから仕掛けるのに障害が多いってことだけなんだから。 で、まあ残る手段は幻術なんだけど、耐性低いって言ってもそれなりの対策されちゃってるからこっちも仕掛けにくいのよね。なんで札とか持ってるわけ?それ禁術だよ?ロッカー漁ってて焦ったからね?ねぇやっぱり同僚だったんじゃ…? とかいろいろ煮詰まってたら、本人から俺んちに遊びに来たいっていう願ってもない申し出があった。ひゃっほう!これは是非モノにしなくては!って舞い上がって、家に上がって貰ってすぐ犬と遊んで貰ってるうちに飯作って食わせて、俺も犬とあそ…いや訓練しつつ、やっぱり風呂入って貰って丸腰の時を狙おうとか、それならいっそ何かぶっかけちゃうのとかどうかなとか、ぶっかけるとか卑猥!とかいろいろときめきたっぷりの作戦立ててたの。恋する男はつらいなーなんて思いながらね。 それなのに。ねぇ。なんで? っていうかさ、人んちで飯食った後、堂々と昼寝しちゃうのってどうなの? 「イルカせんせー。お布団いく?」 「んあー?うー?またあとでなー?」 かんっぜんに寝ぼけてる。口半開きだし腹ぼりぼり掻いてるし、頭撫でてくれてるけど俺と犬の区別ついてないでしょ。絶対。 一瞬の逡巡の後、はじめてはやっぱりお布団の上がいいだろうという結論に至った俺は、すっかりいい感じにねくたれた獲物をベッドに運びこんだんだけど。 むらむらするまま上に覆いかぶさって、まずはちゅーからとか考えてたら、いきなりぎゅうぎゅう締め上げられた。っていうかこれ抱きつかれてる?力強すぎるでしょ! 「ちょっと!イルカせんせ!ギブ!」 「んあ?さあねろ。いいからねろ。アンタは寝るべきです」 寝てる人間に言われてもどうしたらいいのかわかんないけど、そういわれると逆らえない。 なんでって、この人が言うんだもん。寝ろっていうそっちの方が寝ぼけてるっていうか半分以上寝てるくせに、まっすぐな目で俺を見てる。 俺以外何も写さない瞳がやわらかくたわんで獣が懐に抱いた子供を見るように穏やかで愛おしげな視線をよこす。 そこから逃げられなくなっちゃったのって、むしろ当然だと思わない? 「寝ます。だから離して?ね?」 言い聞かせたのが功を奏したのか、それともただひたすらに眠いだけなのか、拘束は緩んだ。…が、解放してもらえたわけではなかった。 「となり!」 「はい!」 「布団肩まで!」 「え?わっちょっ!息できないから!」 「さあねましょうねましょう」 「…うん」 しょうがない人だよねぇ。まったく。…食っちゃうのは起きてからにしよう。多分疲れてるんだろう。この人のイキが悪いと俺もテンション下がっちゃうし。 諦めてたっぷり惰眠をむさぼることしばし。 起き抜けでかわいい姿を堪能できたのは良かったんだけど、結局任務入っちゃって泣きそうになってたら、それみて怒り出しちゃったんだよね。 イルカせんせが舌打ちするのなんてはじめてみた。 「あんたきっちり休みとったのいつですか!今度殴りこみに行きますから帰ってきたら俺んち集合で!」 「はーい!」 イルカせんせといるために任務調節してるだけだってことや、元々上忍の中でも忙しいんだからしょうがないですよってこととかは、いわないでおいた方がかまってくれそうだから黙っていることにした。 帰ったら…!次こそ…! 俺の期待と夢と股間は膨らむばかりだ。なにせおうちデート確定だもんね! せめてしっかり飯を食えって、せっせと俺の世話を焼くイルカせんせは、やっぱりぜんぜん気づいてないみたいだったけど。 ******************************************************************************** 適当。 りはびり。 |