恋に落ちるって本当なんだって初めて知った。 ただの知り合いの中忍で、コレといって何か考えたこともない相手だったのにある日突然。そう唐突に心臓がざわめき、何かが弾けるようにこの人が好きだったんだと気付いてしまった。 指先が触れるだけで脳が沸騰しそうなほど熱くなり、まともな思考なんて簡単に吹っ飛んだ。 「ちょっ!?カカシさん?ど、どうしました?」 心配してくれているんだと思う。 だが顔が近い。 なにやってんのあんたもう食われたいの? そう叫びそうになるのを必死で押さえ込んだ。 っていうかさ、なんで急にこんなに暴走してるわけよ。我ながら。 こんな風に暴発しそうな欲望に振り回されるのも初めてだ。 ガキの頃だってこんなにおかしくなったことなんてなかった。 それが汗ばんだ首筋にかかる後れ毛から目が離せないわ、そこに口づけて歯を立てて味わいたいと思うし、もっというならこのままここでシたいと思うほど発情してる。 なんだってこんなことにってのが正直な感想だ。 「なんでも、ないです…!」 そうだ。なんてことない日々を送っていたはずだ。 本のついさっきまでは。 任務にでて報告書書いて提出して、武器の手入れして修行して飯食って寝る。 厄介な任務が増えちゃいるが、その繰り返しだ。 それがなんで…この人に。 「うそつけ!アンタそんな顔真っ赤にしてなにいってんですか!風邪ですか術ですか!?まさか毒じゃねぇだろうな!?」 血相変えたこの中忍が大雑把だが心配性で世話好きで、それから意地っ張りの癖に怪我しただけで俺にも優しくしてくれるのを知っている。 一回派手にやりあって以来、俺のこと苦手だってのも知ってるよ。アンタそれでもさっき心配してくれたもんね。今もだけど。 ああなんなの。どうしたらいいの?抱きしめたい。キスしたい。でもそれってどう考えてもおかしいでしょ? 「ん。へーき。でもどうしよ。コレ治んないと思うのよね」 素直にぽろっと本音を零してしまったのは大失敗だと今でも思う。 「えええええ!?へーきじゃねぇだろうが!?治んないってなんだそれ!ああもう!今から俺んち行きますよ!話せ!一人で悩んだってしょうがねぇだろうが!」 何か誤解をされたらしいというのには気付いていた。 でもさ、好きだってわかったら相手のテリトリーに踏み込みたいってのも自然な欲求だと思うのよね。 …要するに欲望に負けた。 「あ、じゃ、よろしく」 気の抜けた返事をしながら、内心倒れそうなほど興奮していたってのは内緒の話。 ++++++ 「で、何の術ですか毒ですか。これでもうみのの家はその手のことにもそこそこ詳しいですし、アカデミー教師なんてやってると保護者の関係でそれなりにツテが…」 「あーはい。知ってます」 っていうか今更だけど、俺この人のこと無意識に調べてたかもしれない。 日々の生活までちょっとした調査任務レベルで。 最初は警戒してたせいってのもあると思うんだけど、最近のは完全に私情だ。無意識かつ正確無比に張り付いてたせいで我ながら自覚が遅すぎると思うんだけど。 でも気付いたのさっきだしね。 気付いた途端なんだかしらないけどやみくもに側にいたいって気持ちが、今すぐヤリタイに変わったのは我ながら最低すぎる。 「知ってる?手を尽くす前から諦めてどうすんですか…!」 駄目だ。怒らせちゃいそう。でもどうやって誤魔化したらいいのよこんなの! 「あ、その。別に命がどうとかってわけじゃ…!」 「黙んなさい!言いたくないならそれも結構!でもいいか?俺の前で具合悪そうにしたのが悪いんだからな!」 そういいざま、抱き上げられていた。 うそなにこれって目を白黒させてるうちに、ベッドに投げ落とされて布団にしまいこまれて、ついでに頭まで撫でられた。 「寝なさい。起きてからやっぱり言えないってなら仕方ないですが、何にもしないで諦めることはしないで下さい」 泣きそうな顔なんてしないで。 大丈夫だから。 そういいたいのに口からこぼれるのは押し殺したような呻き声だけだ。 なぜってそりゃね。好きだと自覚した人の、指先に触れるだけで発情するような相手の匂いで一杯の…それもベッドの中にいるんだもん。当然でしょ? やばい。頼むから今触んないで。 「イルカせんせ…」 「おやすみなさい」 何とか瞳を閉じてやり過ごそうとした。ばくばく騒ぐ心臓に辟易したけど、それでも俺は上忍だ。なんとでもできると思いたかった。 しばらく俺の側にいてくれた人が、やっと立ち上がった。 これで少なくとも最悪の事態は免れたと思った。そのはずだった。 「アンタなんかに惚れなきゃ良かった」 聞き間違えじゃない。 惚れなきゃよかったって言った。…俺に。 今度こそ俺の脳はおかしくなったんだ。聞き間違いっていうか幻聴かもしれない。 理性がそう囁いたのを俺は振り切った。 「ナニそれ酷い。アンタが好きだって言えなくて苦しかったのに」 嫌われるかもとか、でも触りたいとか、そんな感情に押しつぶされそうになってたのに。 「あ、あんた起きてたんですか!」 「今更そういう問題なの!?そうじゃなくて!好きです!もう今すぐアンタと気持ちイイコトしたいくらい!」 こんな最低の告白、するつもりなんてなかった。 それから、それに真っ赤になったイルカ先生がいきなり泣き出すとも思わなかった。 「望むところだ馬鹿やろう!」 こんな捨て台詞とともに飛びついてくるなんてことも、もちろんね? ***** 「なにやってんだかなぁ…うぅ…いってぇ…」 「あ、はい。ごめん。やりすぎました。だってアンタかわいいから止まれないし」 もうほんっとーにどうしちゃったんだろって我ながら思うくらいやり倒した。 この手のことに疎そうだから、初心者だろうと思ってたら、完全に初めてとかいうから尚更沸騰した。 「は?かわいいのはアンタだろ?」 もうね。誘ってるとしか思えないでしょ?素なのよこれ!何なのこの人! 「それやめて。やり殺されたいの?」 「あー…それもいいかもって今ちょっと思いましたけど」 余裕たっぷりに笑う。艶っぽいなんてもんじゃない瞳で俺を見つめて。 もうだめ。ほんっと我ながら押さえがきかなすぎる。 「駄目です。やり殺すなんてもったいない!これからずーっとずーっといっぱい気持ちイイことするんだから!」 駄々漏れの本音の酷さにひとしきり大笑いしてくれた人が、恋人になることを頷いてくれたのはそれからしばらくしてからのこと。 見張ってたから調査対象にでもなってると思ってたとか言われて悶絶したんだけど、それが原因で惚れてくれたみたいだからいいってことにしておいた。 ********************************************************************************* 適当。 ねむ ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |