ちょっと痛いくらいなら泣かないでいられる自信があった。だって俺は忍になるんだし、父ちゃんとか母ちゃんみたいに強くてかっこよくて、あとえっと、しぶとい?大人になるんだって決めていた。 でも、流石にそのときは泣きそうだった。 「弁当返せ!」 「ヤダ」 弁当泥棒は俺とあんまり変わらない大きさのくせに、額宛をつけていた。ってことはこいつはもう忍なんだ。 なのに…なのになんで俺の昼飯盗むんだよ! 「なにすんだよ!父ちゃんが作ってくれたんだぞ!」 しかもよりによって今日は父ちゃんスペシャルの日だ。 男のじょうねつときあい?をたっぷり注ぎ込んだ、オムレツとハンバーグとあとブロッコリーとか人参とかが全部お星様とかになってて、ごはんにはかわいいうさぎ模様の旗だって付いてくるし、デザートにはチョコケーキと果物だってあるんだ。それなのに…! しょうかどうべんとう?みたいな母ちゃんスペシャルもおいしいけど、父ちゃんスペシャルは父ちゃんがそのときそのとき嵌ってるおかずが入ってるから、凄くおいしくて楽しいのに! 「へー。なるほど。こういうのがいいのか。味は…ふぅん?見た目ほどガキっぽい味じゃないね。塩分控えめ出汁しっかりって…ま、うみのさんならそりゃそーか」 食われた。父ちゃんのごはん…!父ちゃんがまたしばらく帰って来れないからって、いっぱいいっぱい考えて作ってくれたごはん…! 「馬鹿―!返せ…!うえええぇえ!」 「ウソ。危ない…ッ!」 手裏剣とかクナイを投げるのは得意だ。蜂蜜とか魚が欲しくて一杯練習したから、大抵の獲物は逃さない。相手が父ちゃんの弁当を持ってるってことも忘れて、ついつい思いっきり投げちゃったせいで、木の上のやなやつが慌てふためいていた。 加減なんてしてやらない。父ちゃんの弁当…ちょっとでもいいから食べて、ちゃんと味の感想も言うんだからな! 「父ちゃんのごはん!返せ!」 「あー…はいはい。返す」 あっさりつき返された弁当はいつの間にか綺麗に包みなおされている。 うさんくさいけど…父ちゃんのごはんには変えられない。ここはコレを持って逃げちゃった方がいいだろう。 さっと奪い返した弁当箱は、ホンのちょっとだけ殺気より軽くてまた涙が出そうになった。 「任務が一緒だったから、弁当の自慢、耳がおかしくなりそうなくらいたっぷりされたのよ。父さん喜ばせたくてつい。…悪かった」 「え?」 父さんってきっとうちの父ちゃんのことじゃなくて、コイツの父ちゃんのことだよな? 「具合、悪いの…?」 「…ま、そんなとこ。黙って盗ってちょっとだけ味見して返しとこうと思ったんだけど、お前どんくさそうなのに、意外と素早いよね」 「どんくさくなんかない!」 「そーね。…うん。ありがと」 なんだろう。消えた。弁当はそこそこ無事だし、病気の父ちゃんのためって…それなら俺がイルカスペシャル作ってやったのに…。 「変なヤツ」 でも、今度は…今度は父ちゃんに頼んで二人分作ってもらえたら、もしかしたら…。 だって、父ちゃんは大事にしなくちゃいけないもんな。 俺も帰ってきたら、一杯喜んで貰いたい。 「変なヤツ…」 ごはんは笑って食うもんだもんな。 だから、アイツにもそれをちょっとだけでも教えられたらいいなって、そう思った。 ******************************************************************************** 適当。 子カカイルねちねち。イルカスペシャルはラーメンに野菜炒めたっぷりだったりして。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |