その部屋は報告書を提出するときにつかう、いつもの近道だった。 暗部なんてものをやってると、帰還するのは大抵深夜になる。 だから大門からまっすぐ屋根の上を跳んで、火影邸にいくことにしていたわけだ。 そりゃ当然屋根の上の歩行禁止なんて決まりは知っていた。 でもどうせ真夜中だし誰も見ちゃいない。警備の忍も見なかったフリをしてくれる。…っていうか、そもそも見つかる気もないしね。 そんなわけでそこを何度も通り過ぎているうちに気がついた。 その部屋だけがかなり遅くまで明かりがついていることに。 最初は興味本位だったと思う。 窓辺に生える木が丁度部屋をのぞきこめる高さだったから、そこでしばらく中身を観察し始めたのだ。 その日の任務はそう大して難しいものじゃなかったし、単独であっという間に終わらせることができていた。 後は報告書出して、それから寝るくらいしかやることがなかった。 要するに暇だった。 女だろうか。男だろうか。若いのか年寄りか。 完全に興味本位で覗き込んだ部屋には、確かに一人分の気配があった。 窓辺の俺に気づくことなく、何かを必死になって書いている。 俄然興味が湧いた。何をそんなに一生懸命になっているのか。 「屋根裏かなー?」 報告書なんてどうせ紙切れ一枚だ。任務終了の式も飛ばしてある。多少遅れたって誰も文句は言わないだろう。 そう決め込んで、気づけば天井裏に忍び込んでいた。 そこまでして見たその部屋の主は健康そうな男で、しかも楽しげに書き込みをしているものがどうやら機密文書でもなんでもないことを知った。 汚いというより判別するのすら難しい字。…どうやら子どもが書いた何かだということにはすぐ気がついた。 ひとしきり読むと、百面相をしながら読みやすい字でなにごとか書き付けている。 書き物をしているちゃぶ台の上にはまだまだ何冊ものノートが載っている。コレのせいで夜遅くまで起きているんだろう。 ああそうか。アカデミー教師?…何でこんなに楽しそうにしてるんだろう。 結局、男が残りを片付けるまでその興味はうせなかった。いやむしろ悪化した。 毎日毎日男の生活を覗き続けてしまうほどに。 おかげで料理がそんなに得意じゃないことや風呂好きであること、どこになにがおいてあるかなんてことも把握した。 すっかり住人より詳しくなった俺は、いつの間にか…男のいる暖かそうな空間にいたいと思うようになっていた。 「でも、だめ」 暗部にはいった時点で、普通の生活なんてのぞんじゃいない。だから見ているだけでいい。 そう思っていたのに。 その日の任務は面倒すぎるほどに面倒で、なにがって沢山沢山殺さなきゃいけなくて、いくら慣れてるっていってもつかれきっていた。 帰りも当然遅い。だから男はもう床についていた。 眠る男は窓辺からも見える。幸せそうに眠る男はもうすっかり夢の中にいて、なぜかそれが酷く寂しかった。 ねぇ。俺も嫌なことがいっぱいあったよ。日記なんてかけないけど、そのあったかそうな手で撫でてくれないかな。 そこまで考えて気がついた…この部屋じゃなくて、俺はこの人の側にいたいんだ。 そう気づいたらもう止まれなかった。多分おかしくなっていたんだと思う。 報告書はしっかり出して、出勤まであの人を見送って、俺も普通の忍服に着替えてちょっとだけ寝て、それから…ついに俺はあの部屋に忍び込んだ。 不法侵入だ。懲罰の対象だ。なによりあの人が怖がったり嫌がったりするかもしれない。 でも、そんな考えはあの人がいつも座り込んでいる座布団に座ったらすっとんでしまった。 いつも見下ろすここからみる世界は新鮮で、ついつい落ち着くためにお茶まで淹れて。 …そうしてあの人が帰ってきたときには、すっかり舞い上がってしまっていた。 必死の告白に、ちょっとだけ迷惑そうな…それに多分可哀想なものを見る目で俺を見た。 でもいいんだ。おいてくれるって言った。それなら…それならがんばり次第でしょ? だって、この部屋は、この人が帰ってきた途端、こんなにも暖かい。 …いや違う。この人の側があったかいんだ。 そうして、俺はちゃっかり最高の部屋に居座ることに成功した。 困りきった顔が少しずつ優しいものに変わっていき、時々ものすごく怒らせてしまうこともあったけど、部屋の主はいつのまにか俺に馴染んでくれた。 暗部止めた甲斐があったってもんだよね! 「好き。ねぇ好きです。イルカせんせ」 「ああもう!そういうこと不意打ちで言うのはよしなさい!…お、れも…その。好きで…!」 テレながらそんなこという恋人の唇を掠め取っておいた。 俺の大事な大事な人に、触れられる喜びに浸りながら。 ********************************************************************************* 適当。 ほんわか風味の変質者。危険。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |