猫舅(適当)

話に聞く天使みたいにやさしい人だ。
拾ってくれて大事にしてくれて、それでいて恩着せがましくない。
俺の主は最高の人だ。
だからきちんと働くし守るし、もちろんいざとなれば命を懸けて盾にだってなる。
本人がそれを喜ばないのも知ってるけどな。
でもなぁ。番の趣味だけはどうかしてると思うんだよ。
「あれ?この子は?」
相変わらずこの男は不躾だ。
勝手に触るなといいたい所だが、こんなやつでも我が主の番だと思うと無碍にも出来ない。
俺に出来ることといえば、せいぜいこれみよがしにあくびをしてやるくらいのものだ。
「ああ、うちの子です」
あっさりした紹介の中身に、昔は傷だらけの捨て猫であったことや、それを拾って世話を焼き、まだ下忍でろくに手にできなかった日銭を削り、挙句忍猫とすればまだしもペットを飼える身分かと奪われそうになればせっせと見よう見真似で俺にさまざまな術を教えこみ、今はようやっと忍猫となり、すでに人語を解するようになって久しいことなどは省かれている。
それがなぜなのかといえば、主であるこの人にとってそのどれをとってもどうでもいいことだからに他ならないが、この男はそう思わないだろう。
「ふぅん?お前も忍?」
髭をひっぱりでもしたらさすがに多少は痛めつけてやろうと思ったかもしれないが、媚を売るでもなくごく自然に喉を撫でてきた。
慣れた手つきだ。恐らくはこの男も獣を側においているのだろう。
何かを探るために触れられたのなら、たとえ大切な主の番とはいえ容赦なく鋭い爪で切り裂いていただろう。
…手加減はしてやるがな。
「ふん」
今や教師となった我が主の最初の教え子は俺だ。
それはもう甲斐甲斐しく、今思えば恐らくはみすぼらしいやせこびた子猫であっただろう自分を世話し、術の覚えがいいと褒めては撫でてくれたものだ。
大事な主であるから、もちろん番にも見目だけでなく心根の美しい女が良いだろうと思っていたものを、ふたを開けてみれば、実際に獣である俺よりもよほど獰猛なこのケダモノに強引に奪われてしまったのだ。
これが気に入る訳がない。
父でありある意味母でもある人だ。
己とて春の風が吹く頃になれば浮き足立ち、多少の羽目をはずすことも女を得るために戦うこともある。
だがこの誠実でやさしい我が主を、強引すぎる手段で奪い取った男が、こうして当然の顔で我が家に上がりこんでくることを好ましく思うはずがない。
「いっちょまえに鼻ならしましたよ?こいつ。かわいいなぁ!」
これが演技がどちらかなのか読めないのが困りものだ。
女子どもには俺の自慢の毛皮は評判がいいが、この男の場合はご機嫌取りかもしれない。
確か犬を使うと聞いたことがあった。それにしてはにおいが薄いが、つまりはそれだけ腕もいいということなので詮索しても無駄だろう。
はっきりしているのはコレだけ。
この男にとって、俺は邪魔者でしかないということだけだ。
「うなあ」
幼き頃よりこうして甘えると主は弱い。
すぐさま窓を開けてくれた。少しばかり散歩としゃれ込むのもいいだろう。離れておかねば何をしでかすか己でも自信が持てぬ。
「カカシさんは、その。いい人だぞ?」
それには同意しかねるが、致し方ない。
この番を選んだのは…途中大分強引な行為であったとしても、我が主だからだ。
「イルカが選んだならいいんじゃない?俺、行くよ。散歩してくるからスルなら今日にしてね?」
動揺するイルカに耳元にそれだけ囁いて、俺は窓の外に飛び出した。
背後で重なり合う気配に舌打ちしながら。
*****
「おかえり」
全く。幸せそうなのが腹立たしい。
この男の隣で眠り込む主といえば、俺が帰ったことに気付けないほど疲弊しきって眠り込んでいる。
どれだけ交尾してたのかしらないが、主の体が心配だ。
「んなぁ」
鳴いて餌をねだるフリをしてみたものの、男がすでに用意していた。
嫌味なやつだ。…どこまでも気に障った。
「お前、イルカ先生を守ってくれてるんだってね」
んー?まあそうだな。それは当然だ。主であるし、なにより俺の大切な人だから。
多分親ってやつだ。小さい頃に捨てられた俺は主以外の親を持たない。
そして本当の親のように大切に思っている。
「くふん」
飯だ。飯。湿っぽいのは好きじゃない。
「ありがと。他の男と話してるのかと思ってちょっと無理させちゃったけど…。連れ子も勿論大切にするよ?」
当てにならないというかもう…幼稚なやつだ!なんだってこんなのにほだされたのか。我が主は。
だが、仕方がない。そう仕方がないのだ。
こんな風に安心しきった顔で眠る主を始めてみたのだから。
「んな」
「ん。…いつか教えてね?ちっちゃい頃のイルカせんせのこと!」
なるほど目的はそれか。相変わらず自己中心的な男だ。
まあまだしばらくは会話してやるつもりはないけどな。
…幸せじゃないって顔したら、いつでも止めを刺してやる。
そう独り決めしてとりあえず眠る主の側に丸くなったのだった。
それにうっすらと殺気立つ男に一瞥だけくれて。

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適当。
猫小舅ということで。
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