これの続き。 子どもがでっかくなるのは早いなぁ。 湯船に二人で悠々浸かれてたのが、今は大分窮屈だ。 1年ぽっちでこんなにでっかくなるもんなんだなぁ…。おまけにカカシはほそっこくて心配になるくらいで、栄養状態も悪そうだったのに。ちゃんと食ってるかどうか心配すぎて、カカシに際限なく飯を食わせる夢とかみたもんな。 今日はたくさん食べてくれたから、単にやせの大食いなのかもしれないが。 自分がガキの頃は中々背が伸びなくて、中忍くらいになってからぐんぐん伸びたし、こういうのは個人差があるっていうから気にしなくても大丈夫か。 「イルカせんせ?」 「ん?」 「どうしたの?難しい顔して」 「いや。でっかくなったなぁって思ってな」 わしわしと洗い立ての毛を撫でる。髪の毛がふわふわしてるからでっかく見えてたけど、洗うと小顔っていうのか?なんていうか、将来モテそうな顔だ。 まあ今でも十分アカデミーのくノ一クラスで取り囲まれるレベルだもんな。 「そ、だね」 「ははは!でもまーだまだチビだけどな!」 不安そうにしてるから思わず背中を叩いてしまった。 だってなぁ。一緒の布団に寝たいーとか言ってんだぞ?追い出されちゃうかもなんて不安にさせたないじゃないか。 頭の天辺にちょっとした傷跡、それももうふさがってるのがあるだけで、背中を流したときさりげなく検分したけど他に怪我はしていないみたいだった。 …あれか。高い所のものを取ろうとして、失敗して頭の上に降ってきたとかそういうのか? 真相は謎だがそっちの方がいい。いずれは任務に出るにしても前に見たときが6つかそこらに見えたんだから、今は…7つかせいぜい8つのはずなんだがそれにしちゃでっかいな? 今更ながら不思議に思ってみたものの、成長が遅くて最初のころが10歳くらいならこんなもんだろうか? 「ね、イルカ先生ってさ、何歳?」 「へ?」 何だいきなり。やっぱりあれか。俺がおっさんくさいのか。もしかして。 この間なんて入りたての子たちとはいえ、三十代だと思われてたからな…。アカデミー生の考える大人ってのはせいぜい自分の親が基準だし、その分凄まじく適当だからしょうがないんだがそれなりにショックだった。 まあアスマさんみたいにまだ20代なのに40代後半だと思われてたよりははるかにマシだよな。ただ上忍師関連の書類を届けにきただけなのに、あっという間に取り囲まれてクマだおじさんだおじいさんだと…。もちろん叱ったが、あの普段は豪放磊落な器のでっかい男であるアスマさんが、本気でげんなりと言うか、しょんぼりしてるのを見ると、ちょっとだけアカデミー生の素直さと豪胆さを見習いたいと思ったのは秘密だ。 …いくつにみえてんだろうなー? 「あーそのだな。カカシはどれくらいだと思ってたんだ?」 まるでくノ一クラスのスズメ先生みたいだが、ふっとその、不安になったんだよ。 カカシの親とさほど年が変わらないってこともありうるわけだし。もしかしてものすごい年上だと思われてたらちょっと寂しいだろ?それに良く考えたら俺はカカシの年すらも知らない。 寂しそうにしてるときはものすごく子どもに見えるのに、時々酷く大人びた表情を浮かべるこの子どものことを、俺は殆どなにも知らないんだと気付いてしまった。 「20、21ってとこ?もうちょっと若い?」 「ま、まあそんなとこだ」 くりんと頭を傾げて、じいっと顔を見られたが…何でそれだけで分かるんだ。ほぼぴったりだ。 アカデミー教師を始めてまだ数年しか経ってないが、こんなに鋭い子は中々いない。 すごいな!流石カカシ! …親馬鹿みたいだが、この子は本当にすごく良く出来た子で、出来すぎて心配になる。何か我慢してるみたいな顔を良くするし、甘えん坊だし、可愛いし。 って、本題を忘れてた。 「なぁ。カカシはいくつだ?」 「…うん。あの、ごめんね。言っちゃ駄目なんだ…」 「あー…そっか。そうだな。すまん」 機密まみれなんだろう。それにもしかしなくてもこうやって遊びに来ていること自体、本当なら許されていないのかもしれない。じいちゃ…三代目が何度聞いても教えてくれなかったのもそのせいだろうし。 「俺ばっかりで、ごめん」 「ん?ああ気にするなって!ただなぁお前が思ったより早くでっかくなってたからびっくりしただけなんだ!1年ってすごいなぁ」 ちょっと触っただけでびくっとされたから驚いたが、それを押し殺して笑っておいた。 この子は何も悪くないのに、負い目に感じることじゃない。自分のせいじゃないことに、この子は責任を感じすぎる。 「いちねんは、ながいよね。ずっとさ、ここに帰りたかったんだ。長くて、長くて、でもイルカ先生がちゃんと俺を覚えててくれたから、すっごく嬉しかった」 「そう、だな。その、実は俺もずっと心配してて、三代目に聞きすぎて、心配のし過ぎだって怒られたんだ」 「え!」 「まあ、その、なんだ。だからお前のせいなんかじゃないんだから、気にすんなって!」 何を言いたいのか自分でもわからなくなったのは、のぼせたりなんかした訳じゃなくて、この子の言った言葉が胸に染みたせいだ。 帰ってきていいに決まってるし、忘れることなんてありえないし、もうなんていうか。 叫びだしたいくらいのもどかしさ。これをなんとかして伝えられたらいいのに。 「イルカ先生」 「うん?どうした?」 「大好き」 その純粋な笑顔に、心臓が止まるかと思った。きゅんって、胸がおかしくなるくらい締め付けられた。 うう…!俺、絶対カカシをたっぷり幸せにするぞ!今決めた!ここまで色々と厳重ってことは血継限界絡みかもしれんが、養子縁組でもなんでもしてやる!無理かもしれないけどなにかできることがあるかもしれないじゃないか…! こんなに寂しそうにしてるんだ。こんなに…こんなに切なげな瞳で俺なんかを見るんだ。 今、誰も側にいてやれないなら、俺がいたっていいじゃないか。 「カカシ!俺はやるぞ!」 「え!あ、うん。何を?」 「待ってろ!カカシを幸せにできるようにがんばるからな!」 「…うん…!」 飛びついてきたのを抱き上げてわしわしバスタオルで拭いて、それからパジャマ…はちっちゃくなっちまってて入らなかったから俺のアンダーとかを貸して、一緒にベッドに転がった。 やっぱりちょっと狭い。昔は腕枕するとすっぽり収まったのに、足がちょっとはみ出してる。 「うーん?大丈夫か?狭いだろ?」 「ヤダ。一緒に寝る」 うるうるした目で見られると弱い。我ながらカカシに弱すぎるにもほどがあるけど、こうなったらちょっとくらい狭くてもいいよな? 「うっし!おっこちないようにもうちょっとこっち寄れるか?」 「うん」 もそもそとくっついてきたのをぎゅっと抱き締める。あの時の子ども体温からちょっとだけ大人に近づいたカカシは、それでもやっぱり温かくて、それから子どもの匂いがする。 「よーっし!これで大丈夫だろ。電気消すぞー。おやすみ。カカシ」 「うん。…イルカ先生、あったかい」 「風呂上りだからな。カカシも温かいぞ?」 「イルカ先生だから、あったか、い」 「おやすみ」 すぐに寝入ってしまった子どもの背中に布団を掛けなおしてから、俺も瞳を閉じた。 こうなったら明日にでも直談判に行こうと決めて。 ******************************************************************************** 適当。 でっかくなりすぎだろとか、わざとらしくかわいこぶってるじゃないかとか、そういった突っ込みは中忍教師に届かない…。 ちっこくて弱々しい上に分かりやすく遠慮がちに甘えてくるイキモノにたぶらかされているってことで。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |