とある上忍のけいかく(適当)



「あ、あの!イルカせんせい?」
「おあ!へ?ああうん。そうだけど、どうした?」
見知らぬ子どもに袖を引かれる。
実のところ良くあることだ。担任になっていなくても、在学している生徒は当然全員覚えている。だがそれでも盲点はあるのだ。
アカデミーに通う前の年齢の、ちょうどこれくらいの子に声をかけられる。
それは大抵、アカデミー生の妹や弟だったりするんだよなぁ。
忍としての習い性で、顔をみれば覚えようとする方ではあるんだが、流石に運動会なんかで向こうから見られていても気付かない。
見た感じ、まだ5つ?6つくらいか?それこそ来月からアカデミーに入ってきてもおかしくないくらいの年齢だ。ふわふわの銀髪は、何かの本で見たもこもこと毛深い品種のウサギを思わせる。
だがしゃがんで視線を合わせてみても、この子に似た生徒は思いつかない。
…うーん?銀髪の子なんていない、よな?
「イルカ先生?」
「あ、ああ。すまんすまん。で、どうした?」
思わずまじまじと見つめすぎていたらしい。不思議そうに首を傾げられてしまった。
それにしてもため息が出そうなほど綺麗な子だ。
大人になったらすごいだろうなぁ。今でもその色合いと相まって、人ならざるもののような錯覚を覚えるほどだから。
まあ上の子と下の子で親が違うなんて忍じゃしょっちゅうだけどな。殉職率が高い世代なんて特にそうなる。
となると誰だかわからん。ここはアカデミーの敷地内じゃないから、まさか諜報にきた草ってこともないだろうし、そもそもそんな任務にこんな綺麗な子は向かない。目立ちすぎるし疑われる。
現にまあちょっとは警戒してるからな。
「イルカ先生」
「うん」
何が嬉しいのかにこーっと笑って抱きついてきた。
ほそっこくて小さいなぁ。ちゃんと食ってんのか心配になる。
子どもってのはほそっこくて小さいのが当たり前だが、この子は華奢すぎるような気がした。
放っておくのも心配だが、素性がわからないまま連れまわすのも問題だ。
「なぁ。お前どこのうちの子だ?父ちゃんと母ちゃんとか、兄弟はいないのか?」
「…いない」
あ、マズイ。泣く。
いないって…まさか孤児か。親が任務でってのはあの時ほどじゃないが、それなりにいるもんな。こんな可愛い子だと下手に養子に出すのも恐い。幸いその手の施設は驚くほど充実してるから、食っていくのに困るとは考えにくい。後でちょっと確認をとってみるか。
「じゃ、今日はいっしょに飯食うか?」
「え!いいの?」
「一楽のらーめんは最高だぞ!元気出るし!」
俺にとって最高の味なんだよ。スープといい麺といい!元気が出るのは間違いない!
うう…!思い出すだけでよだれが出そうだ。
「ありがと。…たまにでいいから、いっしょにごはん食べてくれる?」
「おう!ただ給料日前は無理なこともあるけどな?」
わしわし頭をかき混ぜて、やっぱりふわふわだなぁなんて思いながら手をとった。
細くて白くて小さい手だ。それにちょっと湿っている。緊張させちまったのかもな。
理由はよくわからんが、飯を食わせるくらいならどうってことない。
「うん!」
にこーっと笑ってくれたから、手をつないでラーメン屋への道をゆっくりと歩いた。
後で事情を教えてくれるといいなと思いながら。


それがとある上忍の遠大な計画の一部だとも知らずに。



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適当。
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