乗るも乗らぬも(適当)


「賭けをしませんか?」
笑顔を、というか素顔を始めてみた。
どうやら数ある噂の中で、実は美形というのは正しかったらしい。
それはそれとして、いきなりこんな話を持ちかけられる心当たりというものがないんだが、この人は一体何をしたいんだろうか。
「賭けと言われましても」
先立つものもそうたいしてない。中忍教師なんて薄給の塊に、上忍の賭け事に乗れるような余裕などあるわけがないだろうに。
…ああ、でも。賭ける物が金とはかぎらないか。
それならなおさら無理なんだけどな。
不謹慎な話だが、上忍の中には自分の任務を賭けの対象にする連中もいるらしい。
賭けに負けたら相手の任務を代わりに受けるというヤツだ。
任務振り分けをなんだと思っているんだか。
こっちは能力や休暇のバランスなんかも考慮に入れて、生存率も任務達成率も高めようとしてるってのにな。
もしこれもそうなら、金よりずっとタチが悪い。
能力的に任務の交換なんてものができないのは自分が一番良く分かっている。
中忍としては問題ない水準でも、上忍と比較になるはずがない。
賭け。…その中身を聞かずに逃げられればいいんだが、この様子だと相手にその気はないだろうな。
「簡単ですよ?俺としませんか?」
「…何を、ですか?」
警戒は勿論していた。
それをものともせずに距離を詰めた男に抱きしめられてしまっただけだ。
「んーっとね?…セックス?」
「はぁ!?」
驚くなんてもんじゃない。
目を剥いて男の顔を見返したら、なんでかしらないが妙に照れくさそうにしている。
何だコイツ。…まさか任務で妙な術でも食らったんじゃあるまいな?
「イヤ?」
真顔で聞かれていること自体が分からない。どう考えたってうんというわけがないと分かるだろうに。
「イヤです。あと賭けでその、そういう行為をするって意味がわかりません!」
何が悲しくて男と寝なければならないのか。
いくらその手の欲求が溜まったからって、手近な相手で間に合わさなくてもいいだろうに。せめて女性を選べばいいものを。
いやそもそも賭けってなんだ賭けって!
「…好きになって欲しいんです。でもとりえって言うとあんまりなくて。忍術はそこそこだと思うんですけどね」
「えーっと?」
「だからえっちしてみて気持ちよかったらお試しでもいいから付き合ってもらえませんか?」
言うにこと欠いて何を言い出すんだこの上忍は。
しかもちょっと泣きそうな顔で。
「売りがそこしかないってことはないでしょうが…。顔も稼ぎもいいんだから、いくらでも相手がみつかるでしょうに」
「だって!だってイルカ先生はそういうの気にしないじゃない!でもエッチとか苦手そうだし、だったらもしかしてって…!」
それが必死な顔でいうことだろうか。
…それにしっかり動揺してる自分もアレだけど。
「えっちとかはなしで、お付き合いならしてみてもいいですよ。ただしお試しで」
「え!ホントに!?いいの!」
ここで疑りの視線を向けてくる辺りが上忍だってことだろうか。
明らかに喜びを隠しきれていないからまあいいんだけどな。
「正直言って好きとかではありません。男相手にとか考えたこともないですし」
「じゃ、なんで?」
そんなの、俺にだってわからない。
「アンタが、かわいいと思ったんです。とりあえずお付き合いとかでいいなら」
「わかりました。…かわいいのに弱いんですね?」
…わかってるんだかわかってないんだか分からない反応だが、まあ努力する気はあるんだろう。どうにもその方向を間違いやすい嫌いはあるが、まあその辺は…これからだろう。
「で、とりあえず俺んち来ますか?飯ぐらいなら食わせて差し上げますよ?」
「行きます!」
ほこほこついてくる男はとても凄腕上忍には見えない。
哀れっぽさについつい思わず誘ってしまって失敗してしまった気もするが、まあなるようになれ。
いきなりおしたおすなんてことはないだろう。…多分。
「イルカせんせ。好きです。俺のこと好きになってくださいね?」
ぴっとりくっついてきてそう囁く大の男を、かわいいと思うあたり、上忍の思惑通りにされる日も近いんだろうか。
ふって湧いたような恋人モドキを連れて歩く夜道は、なぜか妙に明るく感じたのだった。


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適当。
FFFTPが調子悪くて更新できませんでした(´;ω;`)ブワッ くっそう!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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