「暑いんだけど」 そりゃそうだろう。冷房なんて贅沢なもの入れてないし、窓も締め切りっぱなしだ。 そもそもなんで勝手に上がりこんだ挙句に文句言ってるんだろうな。この上忍は。 「そうですか」 扇風機は貸してやらない。 この部屋唯一の冷房器具だ。身体に直接当てるのは良くないと分かっていても、この上忍に譲ってやるのが癪だったから、しっかり自分にだけ当ててある。 多少風が強すぎるかもしれないが、風呂上りのほてった体を冷やすのにはもってこいだ。 「あーつーいー」 ぶつくさ文句を言うなら帰れと言ってやるつもりだったのに、そういいながらひざに懐いてくるのはどうしたことか。 …ある意味いつもの行動ではあるんだが。 「重い。暑い。降りてくださいよ」 「えー?なんで?」 なんでもなにもないだろうに。 むしろこの男を好きなようにさせる理由などあっただろうか。 確かに元教え子を通じてという薄いつながりであるとはいえ、知り合いであるのは確かだが、どうしてこんなにも傍若無人に振舞うのか理解に苦しむ。 いつからかは覚えていない。 この男は気まぐれな猫のように勝手にやってきては、一方的に人にちょっかいをかけて去っていく。 食事時に現れたときには、飯までタカって行った。この男には薄給の中忍への配慮などまるでないらしい。 「重いし暑いんです。何しにきたんですか」 こうして邪険に扱っても少しも堪えた風じゃない。 面倒なことに却って嬉しそうでさえある。 「さぁ?ね」 にんまりと笑った顔が、なにもかも知っているとばかりに勝ち誇ったようなそれが、それがどうにも俺を苛立たせた。 「どうして。なんでうちにくるんですか」 何度も繰り返した問いかけへの答えは、今日も帰ってこなかった。 「ひーみーつ」 風呂上りで寝巻きは下しかきていない。 そのせいでむき出しの腹を舐められた。 …それこそ猫が毛づくろいでもするかのように。 「なっなにすんだ!」 風呂上りに汚されたことが嫌だったんじゃない。 …一瞬身体に走ったなんともいえない感覚が恐ろしかった。 あろうことか男に、それもこんなイキモノに対して、絶対に感じてはならないはずのその感覚。 そこにあったのは誤魔化しようのない快感。 そんなもの気づかないフリをしたかった。 「それが分かるようになるまでどれくらいかかるんですかね」 ふぅっとため息をついた男がゆらりと立ち上がり、窓辺に歩いていった。 ああ、やっと出て行くのか。 安堵ともつかぬ感覚に戸惑いながら、それを見送るつもりだった。 男はいつものように窓枠に手をかけ、そして。 「なんで、閉めるんですか?」 「んー?いくら暑くても、声気にするでしょ?」 「は?」 「もう我慢できなくなったから」 そうして振り向いた男の顔が、今までになく切羽詰ったというか…真剣な顔をしていたのに驚いた。 そうか、もう逃げられないのか。 伸ばされる腕にそう悟った。 「本当は気づいてたくせに。…ねぇ。もうごまかさないで」 甘い声で詰りながら、男は俺を抱きしめた。逃がさないとでも言うように強く。 「…あ」 気づかれていたのも気づいていたのも知っていた。 だからもう、悩むのも今日で終わりだ。 …もう、これ以上誤魔化せない。男の言葉通りに。 「好き。ねぇ。言って」 強請る声に誘われるように、震える唇を耳元に寄せた。 囁いたのは一言だけ。 それからは笑み崩れる男がすぐにその瞳をケダモノのものに変えるのを見つめていた。 これで、やっと。…もうがまんしなくてもいいんだ。 手に入れてはいけないケダモノを、自分のモノにする理由ができたから。 締め切った部屋の暑さは、交じり合うことに夢中になって、すぐに気にならなくなった。 これが、野良猫のようだった上忍が、まるで飼い猫のようにふるまうようになるまでの話。 ********************************************************************************* 適当。 べったりはりついて殆ど家から出て行かなくなった上に、他のが近づくと威嚇します。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |