そしてまたいつもの(適当)


蒸し暑さと、それ以上に体を酷使したことによる気だるさを誤魔化しきれないまま、重ったるいまぶたを開けた。
陽の高さからすると、どうやらもう昼過ぎにはなっていそうだ。
休みとは言えだらだらしているのは性に合わない。
とりあえず身繕いをしようと夕べ家に帰るなり解かれてしまった髪を結ぶために頭に手をやって…ありえない感触に息を飲んだ。
「…っ!は、生え、てる…?」
油断したのは事実だ。
あれだけご機嫌に恥さらしな格好でうろついたあの男が、あきらめていると思ったのが不味かった。
今のところ確認できるのは手触りだけで、色は分からない。だが指先に触れる柔らかなそれは…まず間違いなく自称恋人の頭の上に生えたのと同じモノだろう。
「くそ…!あの野郎…!どこ行きやがった…!」
あの時と同じようにシーツにやわらかい何かが当たるぽふぽふとした音に、完全にしてやられたのだと自覚せざるを得なかった。
部屋の中にあの男の気配はない。
俺は中忍だ。上忍に本気で気配を消されれば察知できないかもしれない。
…だが、あの男だけは別だ。気配を消しても俺だけは分かる。
俺を追いかける執拗な視線に、気付かないでいることの方が難しい。
つまり、あの男はここにはいない。少なくとも今は。
そしてそれは俺がこの姿から元に戻るすべを失ったということでもある。
駄目元でチャクラを練ってみたものの、案の定上手く行かなかった。このままでは変化で誤魔化すことすらできない。
あの破廉恥上忍なら気にも留めないだろうが、俺には羞恥心ってものがある。
こんな珍妙な格好で外をうろうろするくらいなら、部屋から出ない方がマシだ。
…こうしてご丁寧に猫耳に尻尾まで生えた愉快な格好で、俺は途方にくれることになったのだった。
*****
こんな姿にしておいて放っておかれていることがおかしい。まず確実にあの男の意思ではありえないだろう。
恐らく任務。それならば恐らく血相変えて戻ってくるであろう上忍を待たざるを得ない。薬か術かも判然としないのだ。自力で努力して、却ってこじれることの方が恐ろしい。
仕方なしにできるだけ気配を消して寝室に閉じこもることにしたのだが。
腹立ち紛れに不貞寝を決め込み、丁度うとうとした頃になって、窓ががたがたと派手な音を立てて開き、何者かが飛び込んできたのだ。
「イルカ…せんせい…!俺の猫耳プレイが…!」
珍しく乱れた呼吸に、ろくでもない必死な台詞。…予想通り任務だったことを確信した。
耳も尻尾もそのままに、だが木の葉の忍の誰もが恐れ、そして尊敬する暗部の装束を身につけた上忍は…なんともいえない格好だ。
必死すぎるせいか殺気だった表情とは裏腹に、尾は緩やかに上下し、耳はせわしなく動いて音を探っている。
…おそらく、俺の居場所を。
「アンタ…申し開きの準備はできてんだろうな…!」
被っていた布団を跳ね上げ、振り上げた拳は…だが男の手によって止められた。
「あぁ…!やっぱりかわいーじゃないですか!もうもう!お揃いですね!色はやっぱり黒が…!」
興奮にかすれ上ずった声は相も変わらず俺には理解できない男の拘りとやらを語っている。
「黙れ。…アンタ何してくれるんですか!俺にだってアカデミーが!」
言い訳にすらなっていない聞き苦しい台詞をとめるべく、再度掴まれた手を振り払おうとしたが、興奮しきった様子の男はそれを許さず、俺は無様にもそのままベッドに押し付けられてしまった。
「も、たまんない…!ほっと罪っていうか…ぜんぜん自覚してないんでしょ?そんなカッコしちゃって!」
「アンタがさせたんだろうが!」
「そうね!今回はちゃんと発動したみたい!よかったぁ!」
「欠片もよくねぇよ!」
…ああ…会話が通じない。毎度のことだがどうして俺はこんなヤツに…。
「あはは!そんな格好でそんな顔しても無駄ですよー?今日はお互い獣のように求めあいましょーね!」
「んくっ!はっあ…!」
元々強引ではあったが、ここまでではなかった。獣の本能に男のなけなしの理性が引きずられているんだろうか。
広げられた足の間に納まる男の股間は、既に明確な意思を持って俺に俺に突き立てられようとしている。
「ふざけんな!」
とっさに掴んだのは…先だってのご乱行のきっかけになったふわふわの尾で…。
「みぎゃ!」
踏んづけられた野良猫のような声に驚いたのは一瞬だった。
とっさに身を翻し、こうなったら背に腹は変えられないと家から飛び出そうとしたのだが。
「にゃ、ぁ…っ!」
後ろから圧し掛かった男が牙を立てた項に、痛みと、それからもっと別の…本能的に抗えない感覚が湧き上がり混乱した。
自分の喉から発せられた甘ったるい声が信じられない。
信じられないといえばこの男の何もかもも含まれるのだが。
「ん、いーにおい…どうしよっかなぁ…?ね、イルカせんせ」
「あ、ぁ…!ひぅ…っ!や、め…!」
快感を上手く逃がせない。
今まで幾度となく体を重ねてきて、焦らしプレイとやらを強いてきた男のせいで多少の耐性はあるはずなのに。これがこの格好の副作用なんだろうか。
「やめない。…一杯鳴いて?ね」
その言葉通り早々に理性を飛ばした俺は、貫かれるままに喘ぎ、涙を零して、途中で許しを請いさえしたのに…朝が来ても意識を失っても、男が俺を離すことはなかった。
*****
「殴りますよ」
「いった!ふふ…やりすぎちゃった?」
脂下がる男に反省の色は見えない。
ふわふわと揺れる尾も耳も、今自分の尻や頭にまで生えているのかと思うと気が滅入った。
「治せ。これ、とっとと!」
「えー?なんで?かわいいじゃない」
「うるせぇ!言うこと聞かないならアンタの尻尾ちょん切りますよ!股間にぶら下がってる方もな!」
「イルカ先生ったら下品―!」
目的を達成したせいかきゃあきゃあと受かれ騒ぐ上忍は、はっきりいって癇に障ったものの、何とか押さえ込んだ。
何か言うと却って男が調子に乗りそうに思えたからだ。
睨みつけられるのに飽きたのか、男は以外にあっさり印を組んだ。
「あ!」
頭が軽くなった。自分の意思を無視して勝手に動く尾も消えている。
て…男の頭にもあった余計なものと一緒に。
「ほーら!これでいいでしょ?」
さも褒めてほしそうな頭を、今度こそ思いっきり殴ってやった。
「あんたいい加減にしろ!どれだけ迷惑こうむったと思ってる!」
本当なら貴重な休日を利用して一楽のラーメンでもゆっくり堪能したかったのに、この男のせいで台無しだ。
「だって、ぜーったいかわいいと思ったんです!大当たりでしたね!」
…話すだけ、無駄か…。
「風呂、入れてください。飯当番も当分は全部アンタです。
「ん。りょーかい。ちょっと待っててね!」
命令に犬のように従う男を見ている限りでは無害なのだが、これに油断していてはいけないといやというほど学んだ。
「…次やったら…」
思いのほか低い呟きに、男がくすくすと笑う声がして…これもひっくるめて楽しめるこの馬鹿に、俺は一生叶わないかもしれないと溜息を吐いたのだった。


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適当。
で、昨日の続きだったりして!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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