はろうぃん はろうぃん(適当)



「おかしか、いたずら?」
甘い声で囁くイキモノは小さい。そこそこ上背があるとはいえ、俺の腰までないってことは、ナルトより小さい。
アカデミーじゃ見たことないなぁ顔だ。ランタンを見てやってきたのかもしれない。
アレを飾ったのは恋人…というには少々難があるが、友人というには微妙な関係の男だ。
そう。男。つまりは同性だ。
いきなり襲われてぶん殴って、それからも激しく付きまとうのを邪険に扱っていたら、ある日突然泣きながら拾えと訴えてきやがるという荒業を繰り出し、それがまたアカデミーのまん前だったんだよな…。
生徒たちのかわいそうだよ?拾わないの?の大合唱ににんまりと笑ったのを見逃すわけがない。
コイツ絶対わかってやってやがると思った。思ったんだが。
その必死さがもはや哀れにすら思えてきたので、とりあえずは引き取り手が見つかるまで先生が預かるという形に持っていったのはつい先日の話だ。
完全に捨て犬扱いだったというのに、男は嬉しそうにほこほこついてくるし、子どもたちは大喜びで、どうやらその数日前あたりから子供たちに対して懐柔策をとっていたらしいとあとで知った。
イルカ先生に捨てられちゃうと泣きながらうろついて見せたらしいのだ。それも低学年の子どもたちを狙って。
俺が子ども相手なら絆されると踏んだらしい。
見透かされているというか、だからといってそこまでプライドを捨てるとかどうかしてるんじゃないかとか、色々言いたいことはあったものの、最近立てたばかりのこたつに収まっている毛並みのいい生き物を見て過ごすのにももう慣れた。
そもそも拾ってねぇというのは言い聞かせておいたが、ふいっとそっぽを向いて聞こえないフリをしやがったので再度拳骨を落としては置いたが。
未だに慣れないのは背後からいきなり襲い掛かってくることだ。
かわいい顔して飯食ってたと思ったら、今度はイルカせんせが食べたいとか言い出すからな。この変なイキモノは。まあぶん殴って返り討ちだが。
…実力的には本気になれば強引にコトを進めることもできるだろうに、そこで退くってことは一応俺の意思を尊重してくれているか…もしくは、それもまたお遊びの一環か。まあ九割方後者だろうと踏んでいる。ちょっかい掛けるにはちょうどいいんだろう俺なら。俺の弱みでもある子どもたちが自分の部下になってる訳だし、黙らせるのも簡単だ。
反吐が出るといいたいところだが、どうにも時折見せる無邪気にさえ見える姿に毒気を抜かれ、飽きるまでだと放置することを許した。
どっちにしろ疲れ切って帰りついた家で油断できない生活は、それなりに俺を疲弊させていた。
ソイツが任務に行くといい、ついでにハロウィンだからとせっせと奇天烈な飾りつけを俺の家にしていったのはホンの数日前のことだ。
今日がどうやらハロウィンとやらだというのは、子どもたちの奇襲宣言から把握していたので手元にお菓子は用意してある。
部屋中を、玄関までもごてごてと飾りつけていったくせに、お菓子は用意してくれなかったんだよなぁ。何がしたかったんだアイツ。
まあいいや。こんな子どもが一人でふらふらしてるのは危ないし、お菓子を渡して場合によっては送って行くか。
「ほら。おかしだぞ」
「え!」
あれ?何で驚いてるんだ?…変なマントとかしてるし、耳もついてるからこれ…仮装だよな?いいんだよな?お菓子貰いに来たんだよな?
「お、おーい?甘いの苦手か?せんべいならあるぞ?」
実は甘いものを好まない同居人というか居候というか、ソイツのためにしょっぱいものも買い込んであるのだ。
ついでにみかんも買った。みかんなら平気か?
思い悩む俺を見て、なぜか子どもがいきなり泣き出した。
「イルカせんせいのばか!いたずらかいたずら!」
「はぁ?」
いたずらかいたずらって…聞く意味ないだろそれ。
「もういい!」
そういうくせに、子どもはしがみついたまま俺から離れようとしない。
何か言いたい事があるんだろうに、自分の予想外の事が起こったせいでそこまで行動がおいついていないらしい。ちびっちゃいもんなぁ。コイツ。
「えーっと。ごめんな?一応ハロウィン用ってのを買ったんだけどなぁ?ここ飾ったのも俺じゃないから、何か間違ってたか?」
「…ううん…」
「そうか?まあそいつが帰ってきたら聞いてみるよ。夜も遅いし、お前んちはどこだ?」
「ここ」
「えーっと?ああ大家さんちの孫か?」
顔は知らないが確かいたよな?コレくらいのサイズのが。それならさっさと連絡して…と印を結びかけた手を、子どもが捕まえた。
「ちがう!」
「ちがうって…ここなんだろ?」
さっぱり訳がわからない。ぐずぐずなく子を放っておくわけにもいかないし、かといってかんしゃくを起こした子どもを落ち着かせるのは至難の業だ。何せその子によってツボがまるで違うからな。初対面のこの子どもがどうやったら泣き止むのかなんてさっぱりだ。
「いいの!ねぇ。お部屋見たい」
「おお!いいぞ!でもすぐかえるんだぞ?うちの居候がいっぱい飾り付けていったからちょっとすごいぞ!」
そういって部屋に招くと、子どもが嬉しそうに靴を脱ぎだした。
まあそうだよな。子どもってのはおもしろそうなもんがあれば泣いてたのなんてすぐ忘れて…。
…ってちょっと待て。何で俺は子どもに手を引かれてるわけなんだ?
「行こう?」
「へ?どこにだ?あ!そっちは寝室…!」
ふすまが開いて止める間もなくベッドにダイブだ。それも止めようとした俺ごと物の見事にすっころがった。
「とりっくおあとりーと!」
笑いながら子どもが囁く。悪戯小僧め!
「ほら駄目だろ!こんな事しちゃ!おかしなら…え?あれ?」
しまった。慌ててたせいでお菓子を玄関においてきたな。まあ今すぐとってくれば…。
そう思ったところで気がついた。アレ?何で俺の上に乗ってんだ?この子どもは。
「悪戯するよ?っていうかもういろいろしちゃうって決めてたの」
勝手に決めるなと言いたいが、見目麗しい子どもが期待に瞳を輝かせながらこっちを見てるわけだ。ちょっとは付き合ってやってもいいかと思うだろ?
そんなわけでちょっとだけならとノってやることにした。
「色々って何する気だ?」
俺も笑いながら言ったさ。忍服に手をかけたのも悪戯…精々擽ってくる位だろうと思い込んで。
「好きだって言っても聞いてくれないし、家においてくれるのにやらせてくれないし、グラビアなんかで鼻血吹くし、アカデミー生なんかと結婚の約束とかしてくるし!」
「え?」
なんだ?何でそんなこと知ってるんだ?っていうか前半だ!そういや…そっくりじゃないか!コイツ!
一瞬で戦闘態勢を整えた俺の腕を、もう俺と遜色なく、いやむしろ俺よりずっと逞しい腕が掴んでねじり上げた。
「悪戯なんかヤダ。…ねぇ。ちょうだい?」
絶体絶命。すっかり元の姿に戻ったクソ上忍は、だがしかしはらはらと涙を零すばかりでいつものようにセクハラ行為すらしてこない。
ただひたすら泣いて、訴えるような瞳で俺を見て…それから、哀れっぽい声で懇願している。
あー…あれ?もしかしてコイツ、本気だった、とか?
「えーっとですね。あげねぇし悪戯なんざ言語道断です」
「酷い」
またぼろぼろ涙を流すから、縛められていた腕を振り払い、それを拭ってやった。
「が、善処します。いやまさか本気だったとは」
「うそ!え!ちょっと酷い!酷いけど…嬉しいっていうか…!もうなんなのイルカせんせの馬鹿!」
ぎゅうぎゅう抱き疲れると図体がでかい分重い。
でもまあいいか。ちょっとはスッキリした。
さっさと情が移る前に出て行けばいいのにと思っているうちに、もうとっくにいないとさびしいと感じるようになっていたから。
「馬鹿はあんただと思いますよ。…まあ今日はこの部屋はこのままでいいですから、さっさと飯食って寝ますよ!明日も仕事だ!」
「えー!この雰囲気に流され…ぐあ!」
懲りないヤツだ。鉄拳制裁を避けないのは、まあ何かしらこの男なりの何かがあるんだろう。にやついているのが気色悪かったがしょうがない。
…ちょっとかわいいとか思ったもんな。
「善処すると言った。…今後はアンタ次第だ」
「はい!ごはんですね!ちょーっと待っててー!」
いそいそと台所へ消えて行く男を見送りながら、どうやら悪戯よりも刺激的で、おかしなんかよりずっと甘ったれたイキモノを手に入れることになったらしいことを、ほんの少しだけ喜んでおいた。


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適当。
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